紫の悪魔 7
人は、失ってから気づくことがあります。
「私は、ムラサキのことが……」
姫は、その言葉を最後まで言うことはありませんでした。
紫の悪魔が処刑されると、人々は口々に言いました。
お姫様は救われた。
「私は救われてなんてない……」
泣いても、嘆いても、何も変わりません。
ただ、残酷な真実が前にあるだけです。
その日、姫から笑顔が消えました。
部屋に閉じこもって、沈黙を守る。
これが、精一杯の悪あがきでした。
世間に向けての無言の訴えでした。
そんな事をしてもなにも変わりません。
紫の悪魔のような異端者は追われ、異能者は排除され、亜人は拒否され、人外は殺される。
そんな世界の仕組みが、そうそう変わる訳がありません。
「本当にそうですか?」
「……だれ?」
姫の部屋には、見ず知らずの青年が立っていました。
窓も扉も閉じられていたのに、なぜか彼は部屋にいました。
「貴女は、ここで嘆いているだけですか? ここで、彼の死を悼み続けるだけですか?」
「……」
青年は、姫に厳しくいいます。
「貴女はこの国の姫。この国の次期王。貴女なら、変えられるはず」
「なに、を?」
「民の心を。これからおこるかもしれない悲劇を。これまでおこってしまった悲劇の為に」
「なにを……言っているの?」
青年は、少しだけやさしく微笑むと、姫に思い出させるように言いました。
「『ムラサキが自由に森の外に出られるようになればいいのに』? 違うよ。君が変えるんだ。君はこの国の姫で、権力があって、そして……ここにいる。紫の悪魔と呼ばれ、恐れられた彼が、本当はどんなヒトだったのか知っている」
『ムラサキが自由に森の外に出られるようになればいいのに』
それは、姫が紫の悪魔にかつて言った言葉でした。
しかし、なぜその言葉を見ず知らずの青年が知っているのか、姫にはわかりませんでした。
ただただ、姫は驚き、もう一度問いました。
「……あなたは、どなたですか?」
「私はただの旅人。お節介の吟遊詩人。ただ、君が笑ってくれないと逝けないという彼に同情しただけだよ。美しい菫色の瞳をもらったお姫様」
「…………」




