紫の悪魔 4
ここから、少々残酷的な描写が出てきます。
霧が辺りを包む夜。
城を抜け出して、月の光が照らす森を姫は駆け抜けた。
なんども躓き、必死に走った先で――
「ムラサキ! ムラサキ! お願い、逃げて! お父様が、あなたを捕まえようとしているの! お願い……逃げて!!」
「まったく、なんて顔をしてるさ」
いつもの、ムラサキの声でした。
「ムラサキ……ごめん、ごめんね……私のせいで……」
「君のせいじゃない。遅かれ早かれ、どうせこうなったんだ。……君に会えてよかった。君と話せて楽しかった。ありがとう。……さようなら」
紫の悪魔は姫の前から姿を消しました。
黒の森の紫の悪魔。
姫を騙した非道な悪魔。
恐ろしい魔法で姫を惑わせている。
あの悪魔は魔法が使えるの?
そうだよ、きっと使えるに決まっている。
だって、あの紫の悪魔だよ。
あの姫が悪魔なんかに肩入れしているのは、そのせいさ。
この前の不作もあの悪魔のせいに決まってる。
あのはやり病も、あの悪魔の仕業。
きっと姫が盲目なのも、この悪魔のせい。
嗚呼、なんて恐ろしい。
姫は民から愛されていました。
紫の悪魔は民から畏れられていました。
だから、大きな誤解は悲劇に繋がります。
その数日後、紫の悪魔は捕まりました。
黒の森の奥深くで、無抵抗のまま捕まりました。
紫の悪魔は、森から逃げなかったのです。
姫の視力を奪って悪い魔法をかけた紫の悪魔。
市中引き回しの後、磔にされて、民の前にさらされて……。
嗚呼、怖ろしい。
石を投げられ、罵詈雑言を吐かれ、それでも紫の悪魔は何も言いませんでした。
民に愛されたお姫様。
紫の悪魔である自分がそばにいたら、きっと民に見放される。
紫の悪魔である自分を受け入れていたら、きっと民に誤解される。
悪魔に魂を売っただのと、魅入られて狂ってしまったのだと……。
それが真実でなかったとしても、人々はたやすく信じてしまう。
紫の悪魔である自分は、民にとって異端と排斥の対象だから。
そんな悪魔に肩入れしていれば、いつか姫もその対象となる。
今なら、まだ間に合う……。
今、自分が殺されれば、姫は民に愛される姫でいられる。
恐ろしい紫の悪魔にたぶらかされた、哀れな姫でいられる。
だから、紫の悪魔は逃げも隠れもせず、処刑されるのです。




