紫の悪魔 3
しかし、そんな日は続きませんでした。
泥だらけになって帰ってくる姫に、使用人も王も心配を始めたのです。
森は恐ろしい所だから、恐ろしい悪魔のいる所だから、だから、けっして行ってはいけないよ。
「悪魔なんていないわ!」
そう、姫は言えませんでした。
言う事が出来ませんでした。
言えば、自分が森の奥にまで行っていることがばれてしまうから。
悪魔と呼ばれる彼に会っているのがばれてしまうから。
もしばれたら、彼がどうなってしまうかわからなかったから……。
「なんで、ムラサキはこんなに優しいのに、みんな恐ろしいなんて言うのかしら……」
「人間って言うのは、自分と違うものを恐れるからね。仕方ないよ」
そう、いつも彼は悲しそうに言います。
「でも……みんなムラサキがどんなヒトなのか知らないのよ! 知らないのに噂話を聞いただけで、外見だけでムラサキの事を決めつける……」
「君がおかしいだけだよ。人間って言うのはそういうものさ」
雪が降りしきる森で、何時ものように口をとがらせて姫は言いました。
「ムラサキが自由に森の外に出られるようになればいいのに」
やっぱり何時ものように彼は言いました。
「無理だよ。そんな事」
そう、無理でした。
無理だったのです。
ある日、姫は突然父である王に呼ばれました。
「愛しい娘よ。お前はあの恐ろしい紫の悪魔に騙されている」
「え?」
「お前はいいように操られているのだ」
「違うわ、お父様! なにを言っているの?! 悪魔なんかに騙されていないし、知らないわ!」
「では、これから黒の森で悪魔狩りをする」
「そんな、どうしてっ!」
「お前を護るためだよ。あの紫の悪魔から」
何処かに行く姫を心配した王は、雪の日に臣下に命じたのです。
雪に残った足跡をたどって姫が何をしているのか調べてこい、と。
そして、姫が森の奥にいた紫の悪魔と会っていることを知ってしまったのです。
「やめて! 何故そんな事をしなくてはならないの。彼はお父様が思っているようなヒトでは無いわ!!」
「きっと何か悪い魔法にでもかかっているのだろう。お前はここで待っていなさい。あの悪魔をつかまえて正気に戻してあげるから」
「違う、違うわ! やめて、お願い!!」
姫がいくら止めても駄目でした。
いくら否定しても無駄でした。
誰も、話を聞いてはくれませんでした。
「そうじゃない! そんなんじゃない! 彼はっ……――」
姫の言葉は届きません。




