紫の悪魔 2
紫の悪魔は戸惑っていました。
けっして人の訪れない黒の森に、可愛らしい少女が泥だらけになってやってきたのだから。
その少女が、笑って話しかけて来たのだから。
紫の悪魔は悪魔ではありません。
悪魔では無いけれども、人に恐れられ、嫌われ、避けられてきました。
姿を見ただけで、人は彼を殺そうとするのです。
異端の色をもっていたから。
普通とは、違ったから。
恐れられて、怖れられて、迫害されたのです。
だから、逃げて来ました。
誰もが恐れる、この黒の森に。
それなのに、笑って姫は言いました。
「今日から貴方は、森の妖精さんね!」
森の妖精さん?
とんでもない。
目が見えないからそう言えるのだ。
この醜い姿を見ないで済んでいるから、笑いかけてくるのだ。
「僕は、紫の悪魔だ。妖精なんてもんじゃない」
彼は脅すつもりで彼は言いました。
紫の悪魔だと言ったら、きっと彼女は逃げて帰ってくれるだろう、と。
でも、彼女は強引に手を取って言いました。
思わず手を引こうとする紫の悪魔の手を、強い力で引きとめて――
「紫の悪魔? そんな訳無いわ。だって、貴方、とっても温かいんですもの。恐ろしい悪魔なら、きっと氷のように冷たいに違いないわ。それに、本当に恐ろしい悪魔なら、きっと私をすぐに殺していたでしょう。でも、あなたはそんなことをしてないわ。そうね……それなら貴方はムラサキね!」
姫は、紫の悪魔に笑いかけます。
それは、本当に温かな微笑みでした。
すべてに光を与える、微笑みでした。
その時、初めて彼は『温かさ』を知ってしまいました。
人の心の、温かさを。
「それに、このままじゃ私はお城に戻れないわ。だって、道が分からないんですもの」
そこで初めて、紫の悪魔はこの少女がこの国の姫だと知ります。
この国で、愛されるお姫様。
彼女は紫の悪魔にやっぱり笑って言いました。
「おしえて、もらえないかしら?」
「なにを?」
「お城までの道」
そんな彼女の言葉に、しぶしぶと紫の悪魔は城への道を辿ってあげます。
城のすぐそばまで来ると、彼は言い含めました。
もう、こんなことはしない。
これが最後だ。
と、そう言って森に帰って行きました。
紫の悪魔なんかに、もう会っちゃいけないよ。
そう言って、去っていきました。
「で、なんでまた来たんだ」
「だって、つまらないんですもの」
しかし、姫は懲りずにまたやってきました。
何日かに一度、つまらないから遊びに来た、と紫の悪魔に笑いかけました。
見えないはずなのに、いつだって紫の悪魔を見つけて。
そして、最後はやっぱり帰り道が分からないのだと、だから送ってほしいのだと言いました。
わからないんだったら来るな。
紫の悪魔がそう言っても、笑っているだけでした。
でも、そのうちわざとそう言っていることに気付いた。
彼女は、本当は独りでもきちんと帰れるのだ。
でも、その頃に僕は、彼女と居るのがほんとは楽しいのだと、気づいてしまっていて気付かないふりをした。
だって僕は彼女が……
ふれあう事を知らなかった紫の悪魔は、何時しか彼女に恋心を抱いていました。




