自己紹介……?
事務員さんに案内されたのは、大学の裏門から徒歩三分程、正門からだと八分という、謎の立地。駅までなら六分ぐらいで行けるらしいし、商店街も駅に行く途中にある。
……ってことは、正門からの方が駅とかに遠いという事になる。なぜ正門を逆にしなかった。
まぁ、そんな事は置いておいて、外見は普通より少し大きいくらいの一軒家。事務員さんに案内してもらったところ、5LDKだった。それに生活用品は前の住人だった先輩方が残していった物があるから、特に買い足す物もなさそうだ。
一通り見学を終えてリビング戻ってくろ。
「管理はしっかりしておいてるから、埃だらけの部屋が待ってるとか、そういう事は無かったから安心でしょ。ただ、家の中全部のブレーカー落としてあるから、電源点ける時は気を付けてね。」
僕は小さく「はい」と返し、他の三人も思い思いに返事をする。
「あ最後に、私の名前は槇原紗和、永遠の25歳。紗和って呼んでね。ここの管理は私に任されてるから、困った時と、格好良いフリーの学生見付けた時には、いつでも電話なりメールなりしてね。アドレスはそこの電話の上に貼ってあるから。じゃあ若人 達よ、大いに頑張れ! 」
そう言うだけ言って事務員さん――紗和さんは行ってしまった。学校では大人しそうな可愛い系美人のお姉さんに見えたけど実際、嵐の様な人だ……
バタンとドアを閉じる音がする。完全に取り残されたようだ。
……
…………
………………
……………………
向き合っているのに誰も喋り出さない、初対面独特の重苦しい雰囲気が流れる。
それに耐えかねたのか五十嵐君が口火を切った。
「……自己紹介しようぜ。これからこのメンバーでやっていく訳だしな」
と言いながら食卓につく。
僕達もそれに従い椅子に座った。
「よしっ、じゃあ俺からだな」
そう言って五十嵐くんは、小学生が発言する時みたいに立ち上がった。
「俺は五十嵐拓翔。政治経済学部 経営学科の九月二十二日生まれの19歳の乙女座。好きに呼んでくれていいぜ。これからよろしくな!」
なんとなくお兄さんっぽいとは思ってはいたけど、やっぱり年上だったみたいだ。
「よろしくー」と言いながらパチパチと手を叩く蒼輝に倣い、僕も頭を下げた。
「次は……創也やったら? 」
「ん……。六条……創也。18歳、情報通信学部……通信ネットワーク工学科……よろしく……」
座ったまま至近距離でも聞き取りづらいボソボソとした声で言った。
「よろしくお願いします……六条君と五十嵐君って元からお知り合いなんですか? 」
僕が思った事を口にすると、六条君が微かに頭を縦に振った。
「創也は俺の高校の部活の後輩で、俺は一浪生だから同学年になったって訳」
……この性格が正反対に見える二人が入ってた部活ってなんだろう……まぁいいや。後々知る機会がくるだろうし。
「じゃあ、次は俺! 」
ぴょこんと立ち上がる蒼輝。
「雪村蒼輝、18歳。法学部 法律学科で、弁護士目指してます!誕生日は五月五日でこどもの日。よろしく!」
そう言って蒼輝が座ろうとした時、五十嵐君が蒼輝に質問を投げ掛けた。
「なぁ蒼輝、お前校内放送で『雪村葵』って呼ばれてなかったか? 」
その言葉で僕の心の中にあった引っ掛かりが氷解するのとは逆に、蒼輝は凍った様に動かなくなった。
切ります。本当は切るつもりは無かったんですけど。