あいじょーひょうげん
誰もいない夕暮れの教室。俺はある女の子と向き合うように立っていた。
女の子は俺の雰囲気を察してか普段無駄に明るい性格とは打って変わって静かに俺と向き合っていた。
そんな彼女を前に俺はある言葉をかける決意をしていた。
もしかしたらこの関係が変わるかもしれない言葉。
それでも俺は彼女に言わなければならない。
息を軽く吸い、吐き、俺は口を開いた。
「すみれ……俺たち元の関係に戻ろう」
「……え」
彼女、すみれの表情が驚きに変わる。
普段の愛着のある馬鹿っぽい驚きではなく、目を見開き、軽く口を開いた、本当に驚いたという表情。
「な、なんで?」
予想はできていたんだ。彼女の表情も言葉も。
「わたしたち、付き合ってまだ一ヶ月だよ」
でも俺は頭が悪くて、うまい言葉が浮かばないからこういう言葉しか思いつかなかった。
だからすみれにこんな表情をさせてしまったんだ。
「なのに……なのに、なんで」
だから早く言わないといけない、でないと……。
「何で、別れようなんて言うの」
「……すみれ」
「すいくん」
「誰が別れるって言った」
「…………はい?」
誤解させちゃうからなぁ。
「おう、一樹おはよう」
「翠か。ああ、おはよう」
「朝から読書とは相変わらず本好きだな、さすが眼鏡」
「それは俺に対する偏見か? それとも眼鏡に対する偏見か?」
「どっちかつーと眼鏡かな」
「そうか」
そう言って読書に戻る一樹。ううむ、相変わらずだな。さすが知的イケメン眼鏡。
納得しつつ席が隣なので一樹の隣に座る。
「そういえば翠」
一樹が本から視線を外し俺に声をかけてくる。
「なんだ?」
「最近、桜の奴が大人しいが別れたのか?」
「なに言ってんだよ、お前と違って全然もてない俺が奇跡的に両思いになって付き合い始めたんだぞ、
そんな俺が、すみれと別れるはずないだろ」
「確かにそうだな」
「そうだろ、そうだろ……まて、それはどこに対しての肯定だ」
「桜の奴は付き合う前からお前と馬鹿やってたからな、いつか付き合うと思っていたが、
大方の予想通り付き合い始めたからな、影ではいい加減付き合えと言われていたんだぞ」
「そうだったのか、って話題を逸らそうとするな」
「別に逸らしてはいない。周囲にバカップル認定されるほどのいちゃつきぶりだったお前たちが、
ここ数日急激に落ち着いたからそのこと聞いているんだ」
「あー、そのことな」
少々ばつが悪く頬をかく。俺の態度から何かを感じたのか一樹は眼鏡の位置を整えて、一息間を空け言う。
「やはり別れたか」
「だから別れてねーって、これには事情があるんだ」
「事情?」
「ああ、事情だ」
と、話をしていたところで教室の扉が開き、駆け足で近づいてくる人が一人。
「おはよー、すいくん、一樹くん」
「おう、すみれ、おはよ」
「おはよう」
元気よく挨拶するのは俺の彼女の『桜すみれ』だ。
肩より少し長く伸ばした髪、背の順で毎度前から三番前後に並ぶぐらいの背丈、ちょっと童顔。
そんな今日もかわいいすみれを足元から頭まで軽く眺める。
「ふむ」
「な、なに?」
「いや、相変わらずちっちゃいなー」
そう言って座ったまますみれの頭をくしゃくしゃに撫でる。
長くてやわらかいすみれの髪の感触はなんだか気持ちがいい。
「い、言うほど小さくないー、撫でるのはいいけど、髪を崩さないでー」
「はははは」
ふう、楽しんだ。
「ひとしきり楽しんだところで俺はすみれを解放したのだった」
「な、何で口に出して言うの」
髪を整え直しながらすみれが言う。
少し困った表情だけどどこか嬉しそうだ。まあ、すみれって頭を撫でてもらうのが好きだからな。
「気にするな」
「もー、あ、予鈴、」
まだ荷物を置いてなかったすみれは予鈴を聞くと「それじゃ」と言って自分の席に向かっていった。
「ふう、堪能した」
「やはりいつもと比べると大人しいな」
「なに、まだ激しくやれと」
あれ以上頭を撫でるとなると俺は一体どうすればいいんだろう。
「お前のことじゃない、桜のことだ」
「あー」
「いつもなら、お前の名前を言いながら抱きついてくるじゃないか」
「ま、まあな」
「おまけに愛を語る」
「あれは語るって言うか、好きだーって言ってるだけだろ」
「で、それはさっき言ったお前の事情が関係しているのか」
「まー、一応」
「そうか」
そう言って読書に戻る一樹。
「なんだよ、聞かないのか?」
「聞いてほしいのか?」
「話の流れ的に聞くもんだと」
「惚気話はごめんだが、悩み話なら聞いてやる」
「そ、そうか……」
この話題ははて? どっちになるのだろう?
「惚気話か」
「俺的には一応悩みなんだけどな」
「そうか、まあいい、話してみろ」
本を置き俺に視線を合わせる一樹。
「微妙に偉そうだな」
「悩み事なら聞いてやる立場だからな」
「友人って対等なものじゃないのか」
「ふむ、それもそうだな」
「だろ」
「ということは対等な友人として今ここでこの前貸した二千円の催促をしても――」
「一樹様に聞いていただくほどの話ではないのですが、
もしよければ隣にいる一友人のお話を聞いていただきたいのですが、いかがでしょうか」
「ああ、聞こう」
そんなわけで俺は一樹様に事の事情を話すことにした。あれは数日前のこと。
「えっと、どういうことなの?」
夕暮れの教室でさっきまで泣きそうだったすみれの表情は
涙の代わりにハテナマークが飛び交っていた。
「そのな、普段のすみれが俺に対する接し方のことなんだが」
「接し方って……これとか?」
言うが早いか、すみれは正面から抱きついてきた。
うう、心拍数が上がるのをめちゃくちゃわかる。
「そ、そう、それだ」
「な、なんで? 好きな人で恋人なんだから抱きついたり、腕組んだりしてもいいと思うんだけど」
「そ、それはそうなんだが、なんていうかな」
「?」
うう、すみれが抱きついたまま上目遣いでみつめてくる。少し童顔で大きな瞳が俺を写している。あーもう、心拍数がやばい。
「どーしたの、すいくん」
「あ、あのな」
なるべく今度は誤解を与えないように言葉を選ぶ。状況的に冷静な思考が無理なので自信はないが。
「その、好きだの、抱きつくだのを控えてほしいんだけど」
「な、なんで!?」
「ひ、人前じゃさすがに恥ずかしいと言うか」
「……それで元の関係?」
「そう」
付き合う前はさすがに抱きつきだの、好きだのの発言はなかった。当たり前と言えば当たり前だけど。
お互いじゃれあう感じで話をしたり、遊んだりしていたのだ。
念願かなって付き合い始めて嬉しい事にはかわりないが、思った以上にすみれが積極的なことに少々面を食らってしまっていると言うのが、正直な今の俺の気持ちだ。
そんな俺の思いは伝えた。そしてすみれの反応は。
「むー」
当然ながらむくれていた。
「あ、やっぱりむくれますか」
「別にー、むくれてなよー」
頬をむくれさせてわかりやすくむくれていた。視線は外しているけど、体勢は抱きついたまま。
「な、頼む」
「慣れればどうって事ないのに」
「ならせめて、もう少しじわじわと慣れる方向で控えてくれると」
「……」
しばらくむくれた表情のまま黙っていたけど、重い溜息を一つつくとすみれは口を開いた。
「わかったよ、これからはしばらくは控える」
「わ、悪いな」
「でも、人前じゃなかったら慣れるようにがんばってもらうからね」
不機嫌とは違う威圧感が俺を襲う。
「じ、じわじわとお願いします」
「……うん」
かなりしぶしぶだったけど、了承をもらい。俺はいちゃいちゃを控えてもらうことにしてもらった。
「ってわけだ」
「そうか、で、いつ本題に入るんだ」
「さっきので全部だよ! 本題だよ!」
「惚気は聞かないと言ったはずだぞ」
「だから悩みだって」
「まあいい、で、なにに悩んでいるんだ」
深い溜息をついて一樹が言う。
「だからな、どうすればあいつの気持ちを完璧に受け止める男になれるのかと」
「慣れろ」
「せめて本から視線を外してから言ってくれ!」
「惚気は聞きたくない」
「だから惚気じゃねえっての」
俺が言い終わるとちょうどチャイムが鳴り響いた。
「本鈴だ、先生が来るから静かにしてろ」
「……ああ、わかったよ」
冷たいわけではないけど、淡々と言う友人にこれ以上の会話は無理とわかり、俺の悩み相談は終わりを告げた。
午前の授業が終わり、すみれが駆け足で近づいてきた。
「すいくん、ご飯食べにいこー」
「おう、一樹はどうする」
「いい、お前らでだけで行ってこい」
「わかった、じゃあ行くか」
「おー」
腕を上げて返事をするすみれと共に学食に向かった。
「む、むー」
「何でそんなに難しい顔して食べてるんだ」
俺はカレー、すみれは洋食中心のBランチだ。
「ここ数日すいくんに、あーんが出来ていないから腕が疼くと言うか」
「……我慢してくれ」
昼食時の学食でそんなことしたら目立つ、というか実際目立ってたよな。
「うう、し、静まれ、わたしの右腕ぇ」
そういうすみれの右腕は軽く震えていた。フォークで刺しているハンバーグのソースがお盆の上に数滴落ちる。
難しい表情でハンバーグを見るすみれは少しずつフォークを自分の口に近づけさせていた。
「がんばれ、もう少し」
激励の言葉をかける。
少しずつ、ゆっくりとだけどフォークを小さな口に近づいていき……。
「……は、はむ」
ハンバーグはすみれの口の中に消えた。
「もぐ、もぐ……ふぅー」
租借し終え一息つくすみれ。
「やったなすみれ」
「う、うん、でも……」
「なんだ?」
「このペースじゃご飯食べ終われないよぉ」
Bランチはまだ結構残っていた。
「えっと、が、がんばれ」
「うう、あ、すいくんが食べさせてくれたら間に合う――」
「俺もカレーゆっくり食うからすみれもゆっくりでいいぞ」
「……気の使い方が間違っているよぉ」
そんなわけで昼休みを時間一杯まで使い、お互い食事を終えたのだった。
「むー」
学食を出る際すみれの微妙に機嫌が悪いのは結局最後まであーんをしなかたのが原因だろう。
気休めになるかわからないけど、とりあえず頭を撫でてみる。
「……むー」
少しだけ表情が緩んでくれた。
すみれが頭撫でられるのが好きでよかった。
放課後すみれが駆け足で駆け寄ってきた。
「すいくん一緒に帰ろー」
「おう、一樹はどうする」
「俺はまだ用事があるからな、気にせず帰ってくれ」
「わかった、んじゃ、帰るか」
「おー」
両腕を上げて返事をするすみれと一緒に教室を出た。
「今日も一日終わったな」
「む、むむー」
昼休み同様難しい顔ですみれは左手で右腕を押さえていた。
「今度はどうした」
「すいくんと腕組したいのを、必死で抑えているんだよ」
「そ、そうか」
「そうだよ、あ、手を繋ぐでもいいけど」
「ならば気がまぎれるようにすみれが家に着くまで俺の小粋なトークで場を繋ごう」
「もっと別の形で場を繋いでほしいよ、というかすいくんに小粋なトークは無理だと思う」
「な、なんだと、見てろ、というか、聞いてろ、俺の小粋なトークを」
「わー、ぱちぱち」
「わざとらしく口で言うな!」
「手を離していいの? 腕組んじゃうよ?」
「さあ小粋なトークの始まりー、始まりー」
「むー」
とりあえず俺の小粋なトークはまあまあな評価だった。別れ際に少しだけなら腕を組んでもいいなとか思ったけど、運悪く人が多く、結局言い出せなかった。
どことなく不満げな顔のすみれの頭を撫でる。
すみれの頭って撫でやすくていいんだよな。位置とか、触り心地とか、いろいろ。それに少し頬が緩んだすみれの表情は見ていて俺も結構幸せな気持ちになる。
そんなわけで少し頬が緩んだすみれと別れそれぞれの家路へと向かった。
数日後の朝。
「おす、一樹おはよう」
「ああ、おはよう」
「相変わらず読書か、どんな本読んでるんだ」
「日本人小説家の英訳本だ」
本から視線を外さずに言う。
「うえ、なんでわざわざ英訳本を読むんだ」
「英語の勉強になるぞ、わからない文章は日本語版で覚えているから内容も大体わかるからな」
「俺は日本語版と合わせて見ても、どこを読んでいるのか、わからねーよ」
「だろうな」
「納得するな! ったく」
成績の差を実感しながら、隣の席に座る。
「で、相変わらず続いてるのか」
一樹が英訳本から視線を俺に向けて言う。
「なにが?」
「桜の愛情表現禁止令週間」
「それはどこにつっこみを入れればいいんだ」
「事実は受け入れるものだ」
「……まあ、いいや、なんでその話題なんだ」
「最近桜の奴、元気がないからな。調子が狂うんだ」
「ん、まあ、そうだな」
理由はわかっている。数日前に俺がすみれに言った普段の接し方を少し控えてくれ発言だろう。
すみれは律儀に守っているが、時折禁断症状とか言って腕やら、体やら震えているのをちょくちょく目撃してる。その度に頭撫でて落ち着かせているけど。
「もう少し寛大でもいいんじゃないのか」
「なにが?」
「桜との接し方についてだ」
「それは……まあ、考えているんだけどな」
いかんせんやっぱり恥ずかしい。嬉しいんだけど、喜ばしいんだけど、幸せを感じるんだけど、人前はやっぱり少し……なあ。
「お前のほうは飽きるほど愛情表現ぶつけているんだ、普段は確かにあれだが、桜にも少しぐらい発散させないと関係こじれるぞ」
「それはそうなんだが……ん?」
あれ? なんか一樹の奴、変なこと言わなかったか?
「なあ一樹、さっきなんて言った」
「関係がこじれるぞ」
「その前」
「普段は確かにあれだが」
「その前」
「お前のほうは飽きるほど愛情表現ぶつけているんだ」
「それだ」
俺が、愛情表現を、ぶつけている?
「いつ?」
「主語を使え」
「俺がいつ、愛情表現をすみれにぶつけたんだ」
「いつも頭を撫でているじゃないか」
「……え?」
いや、あれは、え?
「あれはすみれが好きだからやっているんだぞ」
「そうなのか」
「そうだ」
「じゃあ、翠、お前どんなとき幸せを一番感じる」
「どんなときって……」
なぜか迷いなくすみれの頭を撫でる姿が浮かんだ。
だってそれはすみれの笑顔が見れるから、だよな。
いや、本当に笑顔が見たいなら恥ずかしいとかなんとか言ってないで、自由に抱きつかせるなり、好きだと叫んでもらうなりと、あいつが望むことを受け止めればいい。
つまり笑顔が見れるからと言う理由だけが、俺が幸せを感じる理由じゃない。それ以外の、というか、それ以上のものがあるってことで、それは、つまり……。
「……ま、まじか」
「やっと自覚したか」
う、うーん。つまり俺は一方的にあいつの普段の行動、というか、愛情表現を抑えさせておいて、俺はいつも通りあ、愛情表現をぶつけていったってことか。
うわ、これはかなり不味い気がする。というか嫌な奴だ。
「なあ、どうすればいいんだ」
「惚気は聞かんぞ」
本に視線を戻す一樹。
「薄情だな、これは惚気じゃなくて――」
「何をすれば一番の解決なのかわかっているなら、それはもう悩みじゃないだろ」
「……だな」
なんか気が晴れた。
「ありがとな」
「俺は惚気話に付き合っただけだ」
一樹は本から視線を外さずに言った。
さすが知的なイケメン眼鏡、クールだな。
知的な眼鏡の友人に感謝したちょうどそのとき、教室の扉が開いた。
振り向くと噂の人物が俺の元に近づいてきた。
「すいくん、一樹くん、おはよー」
明るくあいさつを言うすみれ。
「ああ、おはよう」
「……」
「すいくん? おはよー」
「……」
「すいくーん」
「……」
「一樹くん、すいくんが返事してくれない」
「泣きそうな顔で俺に言われても困るが」
「だ、だって」
「すみれっ」
「あ、すいくん、おは――」
「愛しているぞ!」
「――よ、う?」
教室が静まり返った。
たぶん注目をめっちゃ浴びてる。でも正直気にする余裕がない。
顔が熱くてしょうがない、心拍数が上がりまくってしょうがない、
それでも俺はすみれの顔だけは視線を逸らさずに見ていた。
「……すいくん」
静まり返った教室ですみれは最初に口を開いた。
「ずるいよ!」
少しだけ怒ったような表情で。
「わたしはいつも好きだー! って気持ち我慢しているのにすいくんはいつも好きって気持ちぶつけて、しかも今日は愛してるぞ! って言うなんてすいくんずるいよ!」
よく見ると少しだけ涙目だった。そっかすみれは気づいていたんだな。俺にとっての愛情表現が頭撫でるってこと。いつも気持ちぶつけてって言ってたし。
相変わらず俺は頭が悪くて、うまい言葉が見つからなくて、だから、思ったことを言葉にする。
俺の気持ちを。
「ごめん、でも俺から言わなきゃいけないと思ったから」
「なんで?」
「これで俺も人前だから控えろなんてお前に注意できないだろ」
「ふぇ? あれ?」
すみれはよくわかっていない表情だった。これはもうちょっと言わないといけないか。
「だから、お前も、いつも通りしてもいいって言うか、思いっきりぶつかってきてもいいって言うか」
こ、ここにきて口ごもるのか、俺。もうちょっとはっきり言わないと駄目だろ。
「だ、だからな、つまり」
「すいくん」
「な、なん――」
「大好き!」
「――だ?」
すみれが思いっきり飛びついてきた。思わず倒れそうになる体を何とか整える。
「好き好き好き大好き好き好き大好き好き好き好き大好き好き好き大好き好き」
「え、え、え?」
「さあ、好きって何回言ったでしょう!」
「わかるか!」
「正解!」
「お前は数えてろよ!」
「だって、わけわかんないくらい大好きだから! 言葉じゃ言い足りないし、言い尽くせないよ!」
すみれの抱きしめる力が強くなった。少し痛いくらいだ。
「少し落ち着け、テンション高すぎ! どうどう!」
「だって落ち着けないよ! 恥ずかしがりなすいくんが愛してるって言ってくれたこととか、これからはわたしの好きって気持ちぶつけてもいいとか言われたら、わたし嬉しすぎてすいくんに抱きついちゃうよ」
「抱きつくのか」
「だって、それがわたしの愛情表現だもん」
ここ数日見れなかった満面の笑顔でそれが当然のように言うすみれ。
「お前たちいい加減席座れ、もうすぐ本鈴なるぞ」
隣にいる知的眼鏡友人一樹が空気を読まずに声をかけてきた。
「もう少し満喫してもいいだろ」
「そーだ、そーだ」
「読書の邪魔だ」
『ぶーぶー』
「またバカップルに逆戻りか」
呆れたように言う一樹。バカップルか……いや。
「バカップルじゃないぞ」
「それだけ騒いでおいてか」
「ああ、今、本当の意味で気持ちをぶつけ合ったんだからな。むしろこれからが本当の意味でカップル誕生だ」
「すいくん」
「すみれ」
見つめ合う俺たち。
今、この空間は確実に俺たちの世界が出来上がっていた。
「勝手にやってくれ」
友人は見放したようだ。
「これからは愛情ぶつけまくるからな、頭撫でまくるからな」
自分の愛情表現がわかった今、すみれにも負ける気はしない。すみれに控えろって言われるぐらい愛をぶつけるぜ、恥ずかしさで悶死させてやるぐらいの勢いで。
「うん、どんとこーい……あ、でも」
「なんだ?」
俺は余裕たっぷりにすみれを見た。
すみれは上目使いで、少しだけ悪戯っぽい表情で、それでいて少しだけはにかんだ表情で言う。
「もう愛してるって言ってくれないの?」
「……」
えへへと笑うすみれを前に「ああ、まだまだこいつには勝てないな」と実感した。
熱い顔、高鳴る心音、伝わるもう一つの鼓動。
本鈴のチャイムが鳴り響く。野次馬という名のクラスメイトが席に戻っていく。
とりあえず、今日から恥ずかしくて寿命が少し縮みそうな日々が続くんだろうけど、でも……。
「ま、また今度な」
それ以上に充実した日々が遅れるのだから。
俺の返事に少しだけ不満そうなすみれの頭を撫でる。
少し不満な表情が少しずつ緩んでいく。
俺の愛情表現は確かに伝わっていた。
終わり
久々に書き上げた小説。
内容は少女マンガ見て思いついたものだったり、久々と言うこともあり、書いてて少しなんか違うなと思いながらも、楽しく書き上げました。
最後まで楽しんで読んでもらえたら嬉しいです。