土葬
「さて。【水葬】も終わったし、次の現場だ。
一番主流な【土葬】だよ。」
“葬儀屋”はそういうと、黒いキャリーバックを引きずり、船から降りた。
そこから、車に乗り現場まで向かうみたいだ。
「【土葬】とは、そのまま土に穴を掘って埋める埋葬の事だよ。
もっとも古いものはネアンデルタール人らしいね。
キリスト教、イスラム教、儒教など、宗教的な理由から【土葬】されることも多いよ。」
“葬儀屋”は、キャリーバックから水を取りだして一口飲み、そのまま話を続けた。
「中国では、唐代から仏教の影響で火葬が行われるようになったけれど、これを非とし「火葬は遺体に対する冒瀆」とする儒者の意見は根強く残っていたし、清朝の乾隆年間にはかえって火葬が大いに下火になるに至った事もあったみたいだね。」
あ、中国って言うのはアジアの国だよ、と“葬儀屋”は付け加えた。
「アメリカ合衆国は宗教的理由により火葬より土葬が好まれる傾向が強いね。
これはキリスト教の最後の審判に際しての死者の復活の教理を持つから、キリスト教会の伝統として火葬に否定的な見解があった事が背景にあるよ。
しかし、2007年から始まった世界的な不況の影響で費用が掛かる土葬よりも火葬が執り行われる事が増えたとされているね。」
「他にもイスラム教ではキリスト教同様、最後の審判の教義により、生前の肉体が失われることになる火葬は禁忌なので土葬が行われている。
けれども、土葬が困難な国もある。その国では火葬するか、土葬が認められている地域に埋葬しにいくね。」
“葬儀屋”は、ペらぺらと大量の情報を何も見ずに話す。
そして、また一口水を飲んでゆっくり立ち上がり葬儀場へと歩いた。
「今回は簡単だから、其は見ているだけでもいいよ。」
と言って、葬儀を一人で執り行った。
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