第28話:黒幕の正体、帝都の空の下で
「……『東京ステーション』の近代化改修記念式典の直後、明日の中央プラットホームを爆破する……だと?」
蓮が必死に絞り出したその言葉を聞いた瞬間、蒼生の脳裏をかすめていたすべてのピースが、恐ろしいほどの鮮やかさで一つに噛み合った。
名古屋の工場で作られた特製の起爆装置、浜松で密かに搬入された大量の火薬、箱根の密室で隠滅されかけた計画書、そして平塚や国府津での執拗なまでの妨害工作。そのすべての点と線が繋がり、組織「黄昏」が描く壮大にして狂気に満ちたテロ計画の全貌が完全に露わになった。
「くそっ……! 連中の真の目的は、この帝都の中心そのものを血の海に沈め、明治の新しい日本の息の根を止めることだったのか……!」
蒼生は悔しさに奥歯を噛み締め、手にしていた革のトランクを固く握りしめた。
その時だった。古い木造倉庫の屋根を囲むように、パタパタと足音が響き渡る。下からハシゴを伝って、冷酷な組織の男たちが一斉にこの屋根の上へと這い上がってきたのだ。
「そこまでだ、名探偵。よくぞここまでたどり着いたが、それもここまでだ」
冷徹な声とともに、黒いコートを纏った男たちの中心から、一人の人物がゆっくりと姿を現した。
月明かりに照らし出されたその顔を見た瞬間、蒼生は息を呑み、思わずその場に立ちすくんだ。
「……まさか、君は……!」
そこに立っていたのは、表向きは近代日本の鉄道網の発展を支える大蔵省の高官であり、政府の要人として誰もがその名を知る――高村 雅邦その人だった。
「驚いたかね、神山探偵」
高村は冷ややかな、しかしどこか狂気を孕んだ優雅な笑みを浮かべ、懐から銀の懐中時計を取り出してカチリと音を鳴らした。
「新しい時代などというものは、古い膿をすべて焼き払わなければ作り出せない。我々『黄昏』が目指すのは、古い体制を一度ゼロに戻し、真に強い国家を再構築することだ。そのための礎として、あの東京ステーションの華やかな式典ほどふさわしい舞台はないと思わないか?」
「ふさわしい舞台だと……!? 何が生ぬるいことを! 多くの無辜の市民や、未来を作ろうとする人々の命を犠牲にしてまで手に入れる新しい時代に、いったいどんな価値があるんだ!」
蒼生の怒号が、冷たい東京の夜空に激しく響き渡った。彼の全身から怒りの炎が立ち昇り、これまでの旅で流したすべての汗と血の重みが、その背中を大きく見せている。
傍らに控えていた蓮もまた、高村の頭の中から流れ込んでくる冷酷で傲慢な思考の波に耐えながら、鋭く彼を睨みつけた。
「あなたが……組織の黒幕……!」
「そうだ。そして、君たちが命がけで守ってきたそのトランクの中身も、結局は我が計画の最後のピースに過ぎない。さあ、それをこちらへ渡してもらおうか。大人しく従うなら、命だけは助けてやってもいい」
高村の合図とともに、周囲を囲む男たちが一斉に銃口をさらに深く突きつけた。
絶体絶命の包囲網。黒幕の正体が明かされ、すべてが手遅れになりかけたその絶望の淵で、しかし蒼生の瞳にはかつてないほど鋭く、鮮やかな光が宿っていた。
「……ふっ、大した思想だね、高村伯爵。だがね、一つだけ君の計算違いがある」
蒼生はゆっくりと立ち上がり、革のトランクをしっかりと抱え直した。その顔に、怯えの色はもう一切なかった。
「私たちがここまで走ってきたのは、君のような狂った連中にこの国を渡すためじゃない。――すべての真相を暴き、その野望を完膚なきまでに叩き潰すためだ!」
すべての伏線が収束し、運命の最終決戦へと向かう幕が、いま、決定的な熱を帯びて開き切った。
(※本作に登場する組織、事件、機密文書、およびスパイ工作に関する描写はすべてフィクションであり、実際の歴史上の出来事や実在の人物・団体とは一切関係ありません)




