第25話:帝都の喧騒に紛れて、迫りくる追跡者
「こっちだ、蓮!」
蒼生は群衆の悲鳴と怒号が飛び交う東京ステーションのコンコースを抜けて、歴史ある赤レンガの外壁がそびえる駅の外へと飛び出した。
肌を刺す冷たい東京の風が、走り続けて火照った頬を容赦なく撫でる。背後からは、なおも「追いつけ! 見失うな!」という組織の男たちの荒々しい足音と、不気味なほどの統制のとれた気配が猛烈な勢いで迫っていた。
胸に抱えた革のトランクはずっしりと重く、走るたびに蒼生の心臓を激しく打ち付ける。
(……くそっ、このままではいつか体力が尽きるか、どこに行っても連中の網にかかってしまうぞ……!)
蒼生の脳裏を焦燥と不安がよぎる。いくら探偵としての鋭い洞察力があろうとも、国家規模の裏組織「黄昏」が手裏に握る帝都の警察やインフラのネットワークを相手に、丸腰で逃げ続けることには限界があった。一歩間違えば、この大都市のどこかの路地裏で闇に葬られ、すべての真実は永遠に闇の中だ。
そんな蒼生の激しい動揺と焦りを、隣を並んで走る蓮の心が敏感に拾い上げていた。
「神山さん……っ!」
蓮の息も絶え絶えだった。しかし、彼女の瞳には怯えの色など微塵もなく、むしろ鋭く澄んでいた。
彼女は自分のこめかみに手を当て、周囲の空間に渦巻く群衆の思考や、わずかに遠ざかった追跡者たちの「位置の残響」を必死に手繰り寄せる。頭を割るような痛みが走るが、それを歯を食いしばってねじ伏せた。
「あっちです……! 丸の内側の広い大通りを抜けて、古い倉庫街が入り組む裏路地へ入りましょう! あそこなら、追っ子の目をくらませる死角がたくさんあります……!」
蓮のその命がけの叫びは、暗闇に迷いかけた蒼生の心に一筋の確かな光を投げかけた。
「……よし、蓮を信じる!」
蒼生は進路を大きく左へと切り、近代的なガス灯がまばらに照らす丸の内の大通りから、入り組んだ路地裏の迷宮へと身を投げ出した。
背後で、追っ使いたちの叫び声がわずかに遠ざかる。しかし、それは束の間の猶予に過ぎなかった。組織の魔手は、すでに帝都のあらゆる隙間から、彼らを追い詰めるべく包囲網をさらに狭めつつあったのだ。
命がけの逃避行は、いよいよ核心へと向かって加速していく。」
(※本作に登場する組織、事件、機密文書、およびスパイ工作に関する描写はすべてフィクションであり、実際の歴史上の出来事や実在の人物・団体とは一切関係ありません)




