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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

ホチキス転身

掲載日:2026/09/15

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 道具はどうして生まれるのだろう? そう尋ねたときに、少しでも賢い人ならこう答えるのではないだろうか。「必要とされているからだ」と。

 人は道具を作り出し、使い続けるという点で地球上のほかの生き物とは、異なる性質を持つという説は耳にする。他の動物たちは道具を使うことはあっても、その場限りのツールとして利用するのみなのだとか。

 元より、爪や牙をはじめとした武器を持ち、人間が持つことのできないレベルの視覚や聴覚、身体能力に飛行能力を有するならば、はじめから必要な道具を持ち歩いているようなもの。

 自分たちの欲するものに対し、あまりにも自身のスペックが足りていない……そのような不足、不便を感じたことが、ものづくりの原動力となったのかもしれないな。人間がもしも最初から恵まれた存在だったなら、このように道具も作られはしなかっただろう。

 そして生み出された道具は、簡単には消えない。たとえ経年劣化などで処分されても、求められる限りは、また新しく作られるだろう。コンセプトはそのままに、時と場所に応じたカスタムを施されて。

 しかし、そうはならず、使ってもらえないまま始末もされずに残り続ける、あるいは手を離れ続けていた場合、どのようなことが起こりうるのだろう?

 ちょっと前に友達から聞いた話なのだけど、耳に入れてみないか?


 友達はものを捨てるのが苦手なのだと、以前からたびたび話をしていた。

 目の前の食べ物や飲み物、使ってすぐの紙や布ゴミ、破損してしまったものであれば、片付ける気にもなる。

 しかし、形を保っているものに関しては、手放してしまうこと、破壊してしまうことにためらいを感じてしまうのだとか。

 自分の都合で、本来は使えるものを処分するのは殺人に近い忌避感を覚えること。きっかけはどうあれ、自分と縁のあったものを断つことに抵抗があること。

 友達なりに分析はしてみたものの、完全にしっくり来る理由には至らなかった。とにかく自分はそのような人間なのだろう、とひとまずは考えていたみたいだ。


 友達が個人的に使っていた、ホチキスもそのひとつ。

 幼稚園のころから愛用し続けていたもので、頑健なつくりが持ち味だった。他のホチキスも扱う機会があったが、それに比べると針が詰まったり、紙へ打ち込み損ねたりすることが非常に少ない。

 もちろん、スペックを超えた枚数を相手取るのは無理。しかし、許される範囲内での仕事に関しては、一番トラブルが少なかったという。

 たいそう重宝している友達だったけれど、小学3年生のころ。不覚にも、かのホチキスを手放してしまった。

 捨てるなどは考えられない。ただ、いつも保管場所にしている筆箱の中から、ある日こつぜんと姿を消してしまっていたんだ。落とし物をした、というのが一番現実的な理由だったけれど友達には思い当たる瞬間はない。

 心当たりは、すべて調べてみたもののホチキスは発見できず。友達にとってショックの期間はおよそ1年続いた。


 別のホチキスを間に合わせに使いつつも、新しく買うことはせずに過ごした1年後。

 件のホチキスが、自分の部屋から見つかった。タンスの影というベタなところに落ちていたものの、友達は首を傾げざるを得ない。

 あそこはこの1年間で何度もチェックした箇所。2日前にも確かめて、ホチキスがないことを確かめたばかりだ。

 ホチキスをあらためると、入園当初に貼った、名前のシールがくっついている。使いこんでいるうちに傷み、ふちがはげたり汚れたり、名前も一部が消えかけていた。

 この傷み具合、そっくりマネするのは容易じゃない。十中八九、自分のホチキスだろう。

 素直に喜べない再会となりつつ、友達は性能を確かめてみる。

 閉じこむ力そのものは、衰えていない。ただ10発に1発ほどは、内蔵した針を「かむ」ことができず、空ぶってしまう。針が口から出ず、紙をとじることができないんだ。

 これも傷んだためか……と友達は考えつつも、引き続き相棒として扱い続けていったのだけど。


 中学校へあがるころだったらしい。

 学校で頼まれた、資料のホチキスどめ。委員会としての仕事だし、数を相手するのは仕方ない、と放課後に一人せっせと資料室の一角を借りて、まとめていたのだけど。

 いくつか束を作り、新しく資料たちを手に取ったあとだ。

 かすかだけども、ホチキス本体から「ふるえ」を感じ取った、と友達は話してくれたよ。自身の指がふるえていたわけではない、と。

 最初は気のせいかなと思い、資料を閉じ合わせようと握りこむも、不発。一度、針の挿入具合を確かめて、再び臨むも同じ。

 5回ほど同じことを繰り返して、噛みあうことはなかった。ついに寿命が訪れたかと不安になったけれども、いざ他の資料の束を相手にすると普通に動いたのだとか。

 ただ、例の束のみに見られる拒否反応。残るはそれだけとなり、友達が意地でも資料を閉じ合わせようと、粘りに粘った末。


 ガチン、とホチキスらしからぬ重々しい音がするや、上下に分かれて部品が散乱。文字通りのバラバラになってしまう。あらかじめ微細なヒビが入っていたかと思う、飛び散り具合だったとか。

 そして針を受けた資料のほうも、閉じられたところからタールを思わせる黒い液体がにじみ出ると、みるみる紙全体へ走り出す。

 思わず友達が放り出すと、残りの部分も真っ黒に染め上げたのちに、ふっと姿を消してしまったらしいんだ。消える間際に、まるで生き物のようなでっかい悲鳴をあげて、聞きつけた先生が飛んでくるほどだったとか。


 手元を離れている間に、ホチキスもまた普通のホチキスではなくなる修行なり祝福なり呪いなりを受けていたのかも……と友達は考えているとか。

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― 新着の感想 ―
ホチキスの話なのに独特な語り口調で面白かったです。 最後がぞわっとしました
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