80話 エピローグ
決戦から、二年。
世界はゆっくりと、しかし確実に変わった。
かつて命を懸けて刃を交えた戦いは、やがて“興業”へと姿を変える。
その名は――『バトルリーグ』。
最初の年は、顔見知りばかりの大会だった。
神だったハーヴィー、聖騎士団、そして俺たち。
初代チャンピオンは、衛。
あいつらしい、真っ直ぐで力強い勝ち方だった。
そして、決戦から数えて十年目。
今では、ハーヴィーがチャンピオンの座にいる。
仮面をつけ、“悪役”として観客にブーイングされる姿も、すっかり板についてきた。
皮肉なものだが――本人は、どこか楽しそうだ。
俺は選手としては引退し、リーグ運営に回ることにした。リーグの存在が世界の治安維持も兼ねており、その力が暴走しないように監査機関を設けることを検討中だ。…ハーヴィーという例もあるしね。
天はこの世界で、装備や衣装、イラスト、文化そのものを導く“マルチクリエイター”になった。
俺の相棒であり、今でも欠かせない存在だ。
衛は今もリーグに出場しながら、シェリルと鍛冶屋を営んでいる。
剣を打つ音と、子どもの笑い声が絶えない工房だ。
勇希はアリスと共に、全世界展開の飲食チェーンを立ち上げた。
各地の名物料理が、当たり前のように食卓に並ぶ。
“食べることは生きること”――あいつの信念は、世界に根を張った。
新はハーネスさんに弟子入りし、“安全な気の解放”ノウハウを引き継いだ。バトルリーグの戦士養成機関を運営している。
戦いを次の世代へ“正しく”渡す役目だ。
涼介は商人の道を選んだ。
世界を跨ぎ、世界を繋ぐ。
元の世界では家業を継ぐために商学を学んでいたらしく、ここで活きているらしい。
クラウディアは、元の暮らしに戻りハーネスさんと暮らしている。
「もともと、騒がしいのは苦手だった」と言うが、ハーネスさんの余生に付き合うつもりみたいだ。
義理を超えて愛だね。
そして――
俺と天は、結婚して一緒に暮らしている。
仕事柄、何日も会えないこともある。
でも、世界の反対側で連絡を取り合っていた頃を思えば、驚くほど平気だった。
……むしろ、久しぶりに会った時の方が、ラブラブを実感できるというか…。
ある日の昼下がり。
天が新聞を覗き込みながら、ぽつりと言った。
「皆、戦士は引退していってるよねえ」
俺は紙面から目を離さず、答える。
「そうだな。父さんが言ってたけどさ、社会に出たら――
十年から十五年は“なりたい自分”を全力でやって、
その先は次の世代のことを考え始めるんだって」
この世界でも、元の世界でも。
人の歩む道は、案外変わらないらしい。
「ねえ、善」
天が少し声を落とす。
「衛くんとシェリルさん、三人目なんだって。
勇希くんとアリスちゃんのところは、二人目」
「そうか」
自然と、笑みがこぼれる。
「めでたいな」
「……うちも入れたら、みんな同い年だね」
「そうそう……ん?」
天が、ほんの一瞬、間を置いた。
「……うちにも、一人目。
まだ男女は分からないけど」
頭が、一瞬真っ白になる。
「……でかした! 天!!
『リア充・ザ・ダ・ヴィンチ』!!」
天は吹き出した。
「もう! 一生言うつもり!?
……まあ、気に入ってるからいいけど」
笑い声が、部屋に満ちる。
この世界に来て、元の家族との繋がりは失った。
でも、こうして新しい家族を迎える未来が、今ははっきり見えている。
惚気として聞いてほしい。
テンプレを捨てて自分を確立した。
そして、その先で掴んだ未来。
――俺は今、幸せだ。




