8話 初級秒殺
腕試しを兼ねて、ダンジョンに挑むことにした。
敵の強さを知るのも目的だが、それ以上に重要なのは、階層構造や罠、攻略手順に慣れることだ。いきなり高難度に挑む理由はない。まずは初級。セオリーどおりだ。
ギルドで受注手続きを済ませると、引率役でお世話になった新先輩が腕を組んでうなずいた。
「おお、ついにダンジョン攻略か。初級とはいえ油断はするなよ。道中には罠もあるし、食料は必須だ。朝出て、帰れるのは早くて夕方だな。あと、ボスはギミック型だ。脳筋で突っ込むと返り討ちだぞ」
説明は丁寧で、言っていることも正しい。
ただ――この時点で、俺の中では少し違和感が芽生えていた。
初級ダンジョンは浅い。構造も単純で、想定される滞在時間は半日。初心者が「ダンジョンとは何か」を学ぶための施設のような場所だ。
「じゃ、行こう」
俺たちはダンジョンに足を踏み入れた。
最初の一歩で、すぐに分かる。
「……罠、三十。隠し通路、二。敵反応は――薄いな」
シーフスキルと『気』を併用した索敵と罠感知。
本来は周囲数メートルを警戒する程度のスキルだが、今の俺の感覚は違っていた。
空間そのものが“見えている”。
壁の厚み、床下の空洞、魔力の流れ。
この階層全体が一枚の地図のように頭に広がっていた。
「……本当に敵、出ないね」
勇希が周囲を見回しながら首をかしげる。
理由は単純だ。
勇希が無意識に放っている威圧――いや、“覇気”に近いものが、雑魚敵を近づけさせていない。戦う以前の問題だった。
索敵と罠解除は俺。
正面対応と防御は勇希。
万が一に備えて衛が控える。
それだけで、初級ダンジョンは通路を歩くだけの場所になってしまった。
食料は減らない。
戦闘もない。
灯りも各所にある。
気づけば五階層に到達していた。
「……いかにも、だな」
目の前にそびえる巨大な石扉。装飾、魔力の残滓、空気の重さ。
どう見てもここがボス部屋だ。
「倒せばお宝だ。準備はいいか?」
衛の問いに、俺たちは短くうなずく。
「「応」」
扉を開ける。
現れたのは、全身を岩のような皮膚で覆った巨体――
初級ダンジョン・エリアボス、《石皮のオーガ》。
確かに、普通の初心者なら詰む相手だろう。
だが。
「さあ来い――」
勇希が一歩踏み出す。
オーガの腕が振り下ろされる。
だが、その衝撃は勇希の《オーラプロテクト》に阻まれ、空気を震わせただけで終わった。
「……え? こんなもん?」
勇希自身が一番驚いていた。
次の瞬間。
「――《イグニション》」
衛のファイアスターターから炎が伸び、剣の形を取る。
灼熱が石皮を焼き、装甲に亀裂を走らせた。
オーガが体勢を立て直そうとした、その死角。
「――《オーラショット》」
スリングショットから放たれた気弾が、露出した関節部に直撃。
――終わった。
戦闘時間、二秒。
あまりにも呆気なかった。
しばらく誰も言葉を発さなかったが、先に口を開いたのは衛だった。
「……手応え、なさすぎないか?」
「全然、練習にならなかったね……」
その時、部屋の隅に違和感を見つけた。
壁際に、妙に目立つレバー。
試しに引くと、床から隔壁がせり上がる。
どうやら、本来はオーガを閉じ込めて安全に処理するためのギミックらしい。
「……正攻法、あったんだな」
まあ、気づかなかったものは仕方ない。
宝箱を回収し、ダンジョンを後にする。
ギルドに戻ると、新先輩が目を瞬かせた。
「……あれ? 忘れ物か? え、もう終わった? さっき出たばかりだよな?」
受付嬢も苦笑いを浮かべている。
俺は少し考えてから、声を掛けた。
「すみません。今日、中級ダンジョン……まだ受けられますか?」
新先輩は、完全に言葉を失っていた。
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善のメモ
Y
・初級ダンジョンを攻略
W
・初級は連携すると練習にもならない
・この世界の想定難易度と実力が噛み合っていない
T
・中級ダンジョンで本格的に検証する
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