7話 『気』と適正
ハーネスは俺たちを小屋の中央に集めると、珍しく真面目な顔で言った。
「ここから先は、命に関わる話だ。聞くだけじゃ意味がない。実際にやるぞ」
外界から来たと言うこの男は、これまで幾度も俺たちの常識を軽々と壊してきた。熊を一太刀で斬り伏せるような人間が、ただの猟師であるはずがない。
「まず『気』だ。これは特別な才能じゃない。誰にでもある。ただし――ほとんどの奴は、一生気づかない」
ハーネスはそう前置きしてから、簡単なやり方を教えた。
「両手を合わせろ。深呼吸して、何も考えずに“感じる”だけだ。力を出そうとするな。引っ張り出すな。待て」
俺たちは半信半疑のまま指示通りにする。正直、もっと派手な儀式や呪文があるものだと思っていた。だが、やることは拍子抜けするほど地味だった。
最初に変化が現れたのは、衛だった。
「……おい、見てくれ」
衛の腕に、はっきりと血管が浮き出ている。いつもよりも力が入っている、という次元じゃない。明らかに体そのものが違う。
「それが“強化型”だ」
ハーネスは即座に言い切った。
「身体能力を直接底上げするタイプ。剣士や格闘家に多い。分かりやすいが、消耗も激しい。あと、自然回復力も高い。」
次に声を上げたのは、俺だった。
「……なんだ、これ」
両手の間に、揺らめくような光が見えた。煙みたいで、でも確かにそこに“ある”。目を疑ったが、消えない。
「オーラが視認できるか。放射型の適性だな」
ハーネスは頷く。
「外に出す力。弾にする、飛ばす、広げる。だが制御を誤れば、一番危険なのもこれだ」
最後に、勇希が青ざめた顔で呟いた。
「……声が、聞こえる」
「え?」
「善、今……“俺が一番ビビって見えるんだろうな”って、思ったでしょ」
図星だった。俺は思わず言葉に詰まる。
「精神型だ」
ハーネスの声が少し低くなる。
「感情、意志、恐怖、覚悟。そういう“見えないもの”に触れる力だ。使い方を誤ると、自分が壊れる」
それぞれの適性が明らかになり、妙な沈黙が落ちた。だが、ハーネスはそこで終わらせなかった。
「ここから先は“確認”だ。能力を決めるものじゃない。ただ、お前ら自身を知るための問いだ」
そう言ってから、一人ずつ、静かに問いかける。
「――お前は、力が欲しいか」
衛は一瞬迷ったあと、即答した。
「ああ。必要だ」
「だろうな」
次に勇希。
「――守りたいか」
勇希は少し考え、ゆっくり頷いた。
「……はい。守りたいです」
最後に俺だ。
「――知りたいか」
胸の奥が、僅かにざわついた。
「……たぶん。答えを、じゃなくて……理由を」
ハーネスは満足そうに息を吐いた。
「それでいい。問いに“正解”はない。だが、戦いの最中に迷ったとき、お前が何を基準に立ち上がるかは、そこに現れる」
その結果を、副適性として扱う。そう説明された。
ギルドでのジョブ判定と合わせ、俺たちの戦い方が少しずつ形を成していく。
俺――善は、シーフ。剣とスリングショットを使うオールラウンダーだ。気の適性は強化・放射・精神のバランス型。放射の性質をスリングショットに乗せ、ためた分だけ威力を増す“オーラショット”を使える。
衛は戦士。強化と放出に特化し、ファイアスターターから炎の剣を生成する。焚き火の延長みたいな名前だが、威力は洒落にならない。「着火――イグニションブレード」。
勇希はパラディン。放射と精神の適性を活かし、物理と魔法の両方を防ぐ“オーラプロテクト”を展開する。さらに、精神への作用で相手を威圧し、雑魚を近づけさせない。
ハーネスは最後にこう言った。
「いいか。これは完成形じゃない。ただの“入口”だ。成長は、問い続けた結果じゃない。行動し続けた結果、あとから名前が付くだけだ」
その言葉を聞き、俺はポケットの哲学書に触れる。
『問い』…おそらくこの本の意図するところと通じる。
――この世界は、答えよりも“選び続けた理由”を試される。
その時は、まだ気づいていなかった。
この“気”という力が、やがて神すら引きずり下ろす糸になることを。
善のメモ
Y
•ハーネスさんから『気』の基礎を学んだ•自分と仲間の適性を確認した
W
•レベルは強さの本質ではない
•『気』は才能じゃなく、使い方と向きの問題•自分は一点特化ではなく、バランス型
•問いはあくまでも「きっかけ」に過ぎない
T
•気の基本操作を身体に馴染ませる
•仲間それぞれの得意分野を把握する
•実戦の中で「何が通用するか」を試す
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「さあ、できたよ。おあがりよ」
気の修行を終えた夕方、猟師小屋の中にふわりと甘辛い匂いが広がった。
卓の上に並んだのは、勇希が腕によりをかけて作った晩ごはん――キリングベアーの時雨煮と、香ばしい照りをまとった熊のチャーシューだ。
「お礼も兼ねて、今日はちょっと頑張りました。もともとあった食材も使わせてもらってます。この世界、パイナップルあるんですね。肉が柔らかくなるんで助かりました」
そう言いながら、勇希は少し照れたように笑う。
「パンもあるので、ちぎって付けて食べてみてください。味、合うようにしてあります」
言われるがまま、善と衛はパンを手に取り、時雨煮の煮汁をたっぷり絡めて口に運んだ。
「……っ、うまっ!?」
「ヤバいなこれ。熊ってこんな味になるのかよ」
二人は言葉を失い、夢中で食べ続ける。噛むたびに広がる旨味と、ほろりとほどける肉の柔らかさ。
チャーシューもまた絶品で、甘辛いタレと脂のバランスが絶妙だった。
「勇希、お前これ……本当に反則だろ」
「はは、まだまだだよ。でも喜んでもらえてよかった」
黙って食べていたハーネスも、ひと口食べたあと、ふっと表情を緩めた。
「……ほう。悪くないな。いや、正直に言うと、かなりいい」
その言葉に、勇希の肩が少しだけ軽くなる。
「料理、また作るなら――また来い」
ぶっきらぼうだが、それが精一杯の評価なのだろう。
「もう、ハーネスったら調子いいんだから」
横から顔を出した妖精が、くすくすと笑う。
小屋の中には、焚き火の音と食器の触れ合う音、そして穏やかな空気が流れていた。
命懸けの修行のあとに訪れた、ささやかな団らん。
――この世界は、やはり生きる場所なのだと。
善は、パンに残った煮汁をぬぐいながら、そんなことをぼんやり考えていた。
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