69話 天vsフライア
フライアは、身体を包む圧を力任せにねじ伏せた。
隷属紋解放。
解き放たれた魔力が爆ぜ、重力操作の拘束を弾き飛ばす。
羽音が空を裂き、彼女は再び宙へと舞い上がった。新武器、マギア・グレイブ。気と魔力の親和性が高く、一撃一撃の威力が格段に上がっている。
「やるじゃない、天!」
高揚を隠さない声。
「ますます好きになったわ」
「だから! 私には好きな人いるんだって!!」
天は即座に叫び返す。
感情は揺れても、判断は揺れない。
魔法印は、まだ生きている。
「追尾弾!」
空気が震え、弾幕が走る。
散り、曲がり、絡み合う光の軌道が、フライアを追い詰める。
「……厄介ね」
フライアは歯を噛み、空中で身を翻す。
押されている――それを、本人が一番理解していた。
「……私に、この技を使わせるなんて」
声の温度が、すっと下がる。
「本当は、もっと可愛がりたかったのに」
次の瞬間、空間が歪んだ。
「夢幻戦士法」
本体の横に、三体。
同じ姿、同じ魔力。
四人のフライアが、同時に天を見下ろす。
「《乱れ・鳳仙花》」
一斉射。
鳳仙花――弾ける花の名を持つ技。
矢は直撃せずとも、着弾と同時に爆ぜる。
轟音。
衝撃波。
連鎖する多重爆発が空を覆い、爆煙が視界を塗り潰した。
(……やったか?)
その少し前。
戦闘で極限まで研ぎ澄まされた緊張が、天の感覚をこじ開けた。
見える。
矢の一本一本。
放たれる前の肩の動き。
重心の揺れ。
(――上)
「重力道化師」
思考より先に、身体が動いていた。
煙を裂き、天は宙へ跳ぶ。
次の瞬間、地上に人影はなかった。
代わりに――
空中。
天が、フライアの背に組み付いていた。
腕を絡め、重力操作を一気に引き絞る。
抗おうとするフライアの動きが、鉛に沈む。
「――っ!」
羽ばたきは、落下に変わった。
地面が迫り、衝撃音が炸裂する。
土煙が舞い、地が震えた。
天はすぐに距離を取る。
油断はしない。
フライアは仰向けに倒れ、空を見上げて、静かに笑った。
「……私の負けね」
悔しさよりも、納得の色。
「やりなさい」
天は、短く息を整える。
「…… 色彩晴嵐衝」
次の瞬間、多重属性の光が咲いた。
色とりどりの魔力が渦となり、フライアを包み込む。
眩い光が収束した時、そこに立っていたのは天だけだった。
勝負は、決した。
胸の奥で、まだ心臓が速く打っている。
怖さは残っている。
それでも――
天は、確かに前へ進んでいた




