6話 どんな世界どんな時代でも、『自分は自分』
全身が、思い通りに動かない。
筋肉痛というより、身体の内側を作り替えられた後の空白みたいな感覚だった。
だからこそ、立ち止まって話すにはちょうどいい。
……正直に言えば、不安だった。
「なあ」
俺は天井を見上げたまま口を開く。
「この世界のこと、今後どうするか、一回ちゃんと整理しないか」
沈黙のあと、衛が短く頷いた。
「賛成だな。マンガやアニメの世界に来たって浮かれてる場合じゃない」
勇希も、静かに同意する。
「死んだら終わり、だもんね」
俺は言葉を引き取った。
「そう。この世界、回復魔法はある。でも“生き返り”はない。現実より現実だ。結構シビアだと思う」
「それにな」
衛が言葉を継ぐ。
「異世界召喚って言われたけど、帰れるかどうかも分かんない。マンガやアニメでも、帰れる方がむしろ少数派だろ」
少し重たい空気。
その中で、勇希がいつも通りのトーンで言った。
「でもさ。僕はどの世界でも、どの時代でも、目指すものは変わらないかな」
「……何?」
「コックになる。それだけ」
あまりに迷いがなくて、思わず笑った。
「勇希の、そういうとこ最高だよ」
胸の奥が少し軽くなる。
「そうなんだよな。世界が変わっても、時代が変わっても、自分は自分だ」
衛が腕を組んで考え込む。
「なんか、勇希の発言で吹っ切れたわ。じゃあさ、元の世界でやりたかったことと、こっちでやりたいこと、順番に言ってみようぜ」
「いいね」
最初は衛だった。
「元の世界じゃ、消防官か自衛官志望だった。人助けする仕事がしたかったんだ。でもこっちの世界なら……剣術道場を開くとか、ギルドで新人導くとかもありかなって思ってる」
「切り替え早いね」
「環境に合わせるのも生存能力だろ?」
勇希が笑う。
「衛っぽい」
次に、俺が話す番だった。
「俺は……元の世界だと、クリエイター志望だった。映画監督とか、脚本とか。楽しいことを仕事にしたくてさ」
一瞬、言葉を探す。
「こっちの世界で何をするかは、正直まだ決まってない。でも方向性は変わらない。『楽しい』を仕事にしたい」
「いいじゃん」
勇希が言う。
「まだ全部分かってない世界なんだしさ。ダンジョン攻略して、資金貯めてから考えても遅くないよ」
「確かにな」
衛が急にニヤついた。
「あとはさ。こっちの世界で素敵な出会いがあるかもしれないぞ。“くっ……殺せ”とか言いそうな騎士お姉さんとか」
「それそれ!」
勇希が被せる。
「セクシー系魔法使いお姉さんも捨てがたい」
「ははっ」
思わず笑ってしまった。
「結局、元の世界と趣味変わってないじゃん」
少し前までの不安が、冗談で和らいでいく。
最強でもいい。
俺TUEEでもいい。
それを“楽しむ”余裕を失わなければ、きっと大丈夫だ。
「よし」
俺は身体を起こせないまま、メモ帳を開いた。
「初心忘れないようにまとめとく。後で共有な」
⸻
善のメモ
Y
・現状の整理
・今後の方向性について話し合った
W
・世界が変わっても、自分は自分
・帰れるかどうかは不明
・どちらにせよ、この世界を“楽しむ”
・勇希はコックを目指す
・衛は剣術道場やギルド関連
・俺はまだ探し中だが、「楽しいこと」を仕事にするのは変わらない
・当面はダンジョン攻略で資金稼ぎ
T
・筋肉痛を治す
・ハーネスさんに『気』を教わる
(※まだ全身が痛い)
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