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テンプレをぶち破れ、エゴイストがクソみたいな神を殴り倒して世界をひっくり返すまで。  作者: 強炭酸
4章 外界編

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54話 火の国アルディス②


火の国拳闘大会は、精霊祭の前夜祭として行われる。

それはただの競技ではない。

この国に生きる者たちが、一年分の熱を吐き出す“儀式”だ。


日中から、街は異様な熱気に包まれていた。

石畳に反射する陽光、屋台から立ち上る油と香辛料の匂い、鉄を打つ音に混じって聞こえる歓声。

観客席では酒樽が次々と空き、誰かの勝利に、誰かの敗北に、人々は遠慮なく声を上げる。


――ここは、火の国だ。


リングに上がるたび、胸の奥が焼けるように熱くなる。

だが、不思議と恐怖はなかった。


俺は、勝ち上がっていた。


予選、準々決勝、準決勝。

対戦相手は皆、『気』を扱う拳闘士だったが――

アルドバーンの怒鳴り声が、常に耳の奥で燃えていた。


『いいぞ! ワン・ツーだ! 距離を制するんだ!』

『ボディが空いとる! 腹を焼け!!』


マウスピース越しに、荒い呼吸を整えながら応える。

殴る。かわす。受け流す。

拳が肉に沈む感触、骨を震わせる反動。

それらすべてが、今の俺には“正しい”。


準決勝の相手を沈めた瞬間、ゴングの音が遠くに聞こえた。


――勝った。


リングを降りると、すぐにタオルが差し出される。


「衛」


シェリルだった。


今日の彼女は、いつものつなぎではない。

落ち着いた色合いの私服に身を包み、髪もきちんと整えている。

鍛冶場にいるときとは違い、年相応の、いや――それ以上に、眩しい。


「凄かったよ。……次、決勝だね」


「ああ……それと」


一瞬、言葉に迷ってから、視線を逸らす。


「今日の服、似合ってる」


間。


ほんの一瞬、空気が止まった。


「……もう、こんなときに!」


そう言いながら、彼女は耳まで赤くなっている。


『今の、不意打ちボディブローは完璧よ』

精神感応通信チャット・ウィスプ越しに、クラウディアの声が弾む。

『女性はね、些細なことで落ちるものなの』


……余計なお世話だ。


だが、悪くはなかった。



夕方。

決勝戦が近づくにつれ、空気が変わった。


観客席のざわめきの中に、嫌な“視線”が混じる。


「やあ、シェリルさん。ごきげんよう」


振り向くと、借金取りの男が立っていた。

脂ぎった笑み。

目が、値踏みするように彼女の身体を舐める。


シェリルは、露骨に距離を取る。


「君のところの従業員も頑張ったがねえ……相手が悪い」


男は、リングの方を顎で示す。


「決勝の相手はフラン。この国一番の『気』の使い手だ。

 強化型に特化していてな。タイマンじゃ、負け無しだと聞く」


胸の奥で、何かが冷えた。


だが、シェリルは一歩も引かない。


「衛は、勝ちます」


その言葉に、男は小さく笑った。


「ふふ……じゃあ見せてもらおうか。“奇跡”とやらを」


不快だった。

心の底から。



ゴングが鳴る。


――決勝戦。


俺の前に立つ男、フラン。

長身、長い手足。

立っているだけで、圧がある。


俺が“剣”なら、

こいつは――“槍”だ。


開始と同時に、フランは動いた。


『気』を込めたフリッカージャブ。

鞭のようにしなる腕が、空間を裂く。


速い。

重い。


これ一本で、ここまで来たのか。


『パリィだ! 教えただろう!!』


分かっている。

だが、手数も圧も、段違いだ。


拳がかすめるたび、視界が揺れる。

息が荒くなる。


「衛……」


観客席のどこかで、シェリルの声が震えた。



最終ラウンド前、インターバル。


汗が、床に落ちる。


――強い。


これまで戦ってきた中でも、別格だ。


ふと、記憶が重なる。

聖騎士団のフールー。

あのときも、距離を支配され、弾幕に封じられた。


今の俺なら、

火炎息吹ブレス・オブ・ファイアも、

火炎弾ファイア・スプレッドもある。


だが――


それに頼る気は、なかった。


目の前の敵を、

“拳で”倒したい。


そして、脳裏に浮かぶのは、

悲しそうにうつむくシェリルの顔。


その腐敗した未来を

――壊す。


最終ラウンド開始。


世界が、研ぎ澄まされる。


フランの呼吸。

踏み込み。

重心。


すべてが、“波”として見えた。


(……今だ)


超前傾。

一気に踏み込む。


俺の間合い。


ジャブ。

当たる。


そのまま、全身の『気』を込めて――


ストレート。


衝撃。


次の瞬間、

フランの巨体が、リングの外まで吹き飛んだ。


「場・外!!KO――!!」


歓声が、爆発する。


『やったな衛!! このバカ弟子が!!』

『……うるうる。感動したわ』


フランは、ゆっくりと立ち上がり、

黙って手を差し出してきた。


握る。

――強い。


「いい拳だ」


短い言葉だった。



リングを降りると、シェリルが駆け寄ってくる。


「衛……ありがとう」


借金取りの男が、深く息を吐いた。


「……済まなかったな。

 熱い試合だった。年甲斐もなく、久々に拳を握ったよ」


賞金を受け取ると、彼は自らの手で借用書をビリビリに破いた。

筋は、通す男らしい。


「もう会うことはないだろう」


去っていく背中を見送りながら、思う。


――終わった。


「帰ろうか、シェリル」


「……うん」


彼女は、そっと身を寄せてきた。


その手を引きながら、歩き出す。


――この手は、離さない。


そう、胸の奥で誓いながら。

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