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テンプレをぶち破れ、エゴイストがクソみたいな神を殴り倒して世界をひっくり返すまで。  作者: 強炭酸
4章 外界編

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48話 間話〜序章のあと〜


各自の外界での初日を終え、夜の帳が静かに降りた頃だった。


善のいる風の国シルフィードは北半球、経度0°の春。石造りの宿舎の窓からは、まだ肌寒さの残る夜風が吹き込み、遠くの草原から若葉の青い匂いが届いている。


一方で衛の拠点である火の国アルディスは南半球の秋。画面の向こうに見える景色はどこか夕暮れの色合いが深く、落ち着いた乾いた空気が漂っていた。


そして天のいる地の国テラリウムは、衛と同じ南半球だが、善とは離れた経度180°の秋の朝。楽器の手入れを終えたばかりの部屋には、温かいミルクと土の匂いが満ちている。


勇希の暮らす水の国アクエリアスは北半球で同じ春の季節だったが、経度180°の朝だった。水路に反射する朝日がまぶしく、潮を含んだ爽やかな風が、彼の銀縁のウィンドウを淡く照らしていた。


ミーティング時間はそれぞれの土地の都合に合わせて設定されている。

思い返せば――合理的に見えていたこの通信そのものが、すでに“逆位置の世界”を象徴しているのだ。


宿の一室。あるいは簡素な寝台の上。

焚き火の残り香や、街の喧騒がようやく遠のいた時間帯に、クラウディアの声が、同時に四人の意識を叩いた。


『――皆。精神感応映像通信チャット・ヴィジョン、繋ぐわよ』


次の瞬間、視界の端に半透明のウィンドウが浮かび上がる。

そこには、それぞれの顔が映っていた。


(……本当に、カメラとマイクだな)


善は内心で呟く。

ステータスウィンドウが、いつの間にか純粋な「道具」へ変わっている。

魔法というより、もはやSF――そんな不思議な感覚だった。


クラウディアが軽く確認する。


『ステータスウィンドウ、開いた?』


『準備OKだ』


『いい感じ。ちゃんと聞こえてるよ』


『こっちも問題なし』


『開いてるよ』


全員の反応を確かめると、クラウディアは満足そうに頷いた。


『じゃあ、状況共有ね。順番は……善から』


善は一度だけ、深く息を整えた。

春の夜の冷気が肺に入り、胸中のざらつきを静かに押し流していく。


『風の国シルフィードに到着した。ギルドで手続きを済ませて、拠点は確保できた』

『それで……エルフの里の依頼を紹介された。ハーヴィーが風の国出身だという話、以前聞いただろう。何か掴めるかもしれない』

『目的は二つ。情報収集と、風の精霊との接触だ』


画面の向こうで、皆が静かに頷いているのが分かる。

会話の“間”が、心地よく繋がっていくのを善は感じていた。


『堅実だね』


天が感心したように言う。

彼女の背後では鉱山都市の朝が動き始めており、柑橘系の香水がほのかに漂う姿が見えた。


『じゃあ次、私ね』


天は少し楽しそうに身を乗り出す。

インナーカラーの入った黒いボブカットが揺れ、ほんの甘い匂いがこちら側にまで届きそうだった。


『地の国テラリウムで、精霊祭のプロデュースを引き受けたよ』

『この国、活気はあるんだけど……色が少ないんだ。街も、食べ物も、全体的に茶色くてさ』

『だから、祭典を通して彩りを取り戻そうってわけ。精霊は、これから探す感じかな』


『期待されてるな』


善が言うと、天は照れたように笑った。


『でしょ?やりがいあるよ』


その笑顔に、善は一瞬だけ目を細めた。

“離れていた時間”があったからこそ、その表情が胸に刺さる。


次は勇希だった。


『僕は、水の国アクエリアスだ』


そこまで言ってから、彼は周囲の光景を軽くカメラに映す。

市場の匂い、ガラス窓越しの水音。


『それで……』


少し、長めの間。


『この国、米がある』

『あと、カレーも』


一瞬、回線が止まったかのような沈黙。

そして次の瞬間、三方向から同時に声が跳ねた。


『――マジかよ』


『それ重要すぎでしょ』


『数キロでも持って来れないか?』


画面越しの熱狂に、勇希は思わず苦笑する。


『再会する時に、持ち帰れる分は持って行くつもりさ』

『期待してて』


白い息を吐くような声でそう締めくくった。

彼もまた春の朝の爽やかさを背負っている。


『……最後は俺か』


衛が照れたように頭を掻く。

画面の向こうには秋の工房。金属と油の匂いが漂っていた。


『火の国アルディスで、鍛冶屋の助手をやることになった』

『精霊を探しつつ、武器の目処も立てられそうだ』


一拍。


『……あと、一目惚れしたかもしれん』


『詳しく』


クラウディアの食いつきが、異様に早い。


『シェリルっていう鍛冶屋だ』

『同年代で、一人で店を切り盛りしてる。両親を亡くしたばかりで、人手が足りないらしい』

『……俺は、彼女の力になりたい』


『頑張れ、衛』


勇希が即座に言う。


『……で、勇希は?』


今度はクラウディアが問い返す。


『僕は……』

『ライバルに近い娘に出会ったかな』

『アリスっていうレストランの娘で、コックで、精霊の巫女らしい』


少し言葉を選ぶように、勇希は続けた。


『彼女のことを思い出すと、胸が熱くなる』

『怒ってるとかじゃなくて……なんて言うか……』


『はいはい』


クラウディアが楽しそうに遮る。


『二人とも。あとで話があるわ』

『別チャンネルで』


その声は、完全に“恋バナしたくて仕方ない妖精”のそれだった。


会話も終わり、

善はステータスウィンドウを閉じて暗闇の中、まどろみに落ちていく。



クラウディアの声で会話を終えると、各自はそれぞれの場所で新しい一日に向かった。

太陽の位置も、街を包む季節の空気も違う四つの国で――彼らは初めての外界を歩き回り、交渉し、働き、戦い、自分の足場を確かめていく。


そして再び夜。


善は宿の窓を開け、冷えた石壁にもたれていた。

ボブカットに赤のインナーカラーを入れた天の姿を思い出す。彼女の柑橘系の香水の匂い。笑った時の柔らかい声。


その時だった。


『――皆。夢に、精霊から接触があったみたいね』


翌日の状況共有は、あくまで“二度目の通信”の中で語られる。


『こちらは夜七時だ。夢で風の精霊から接触があった――試練は無いのが試練。ハーヴィーを止めろ、だそうだ』


『……それ、一番難しいやつだろ』


衛が苦笑する。


『私は朝七時だよ。こっちは地の国の精霊祭を成功させろって言われた。入場者を倍にしろ、だって』


『期待値、高いな』


勇希

『僕もこちらは朝七時。水の精霊に捧げる料理をかけて、アリスと勝負しろってさ。料理対決だ』


『いい展開ね』


クラウディアの声が弾む。


『恋もバトルも、両立よ』


『俺は夕方七時だ。火の精霊からは……意中の女性を口説き落とせ、だそうだ』


『詳しく』


再び、即座。


『俺は、「守るための戦い」に満足して、保守的になってるらしい』

『自分の欲求を抑え込んで、本来の“熱”を殺してる』

『だから、自分の「好き」や「欲求」をさらけ出せ、と』

『バーニング!!心を燃やせ!だそうだ。』


少し、照れた沈黙。


『私が全面サポートするわ』


クラウディアが即答した。


『助かる』

『火の精霊、熱血すぎて女心分かってなさそうだからな』


小さな笑いが、回線を巡る。


こうして、外界編は本格的に動き出した。

やがて再び交わる、その時まで。

それぞれの世界は遠い。

時差も、季節も、見える星さえも逆位置。


――それでも。


小さな笑いが回線を巡り、彼らはまた歩き出した。


こうして、外界編は本格的に動き出す。


善のYWTメモ


Y(やったこと)

・各国での初日終了後、精霊感応映像通信チャット・ヴィジョンで状況共有を実施

・位置関係の違い(北半球/南半球・経度0°/180°)により、通話に時差と季節差があると理解した


W(わかったこと)

・同じ時間の定期連絡でも、国ごとに「朝」と「夜」が逆になる

・北半球組(風、水)と南半球組(火、地)では季節も反対

・それでも理念は共有できる

・ミーティングの要はクラウディアの中継能力


T(つぎにやること)

・時差を前提に通信計画を組む(都合が悪ければクラウディアに言伝を依頼する)

・ハーヴィーを止めるための情報収集を進める 

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