34話 魔導機械兵②
「――陣形・両翼解放!」
善の号令と同時に、四人の立ち位置が音もなく滑った。
天と善が左右へ広がり、衛と勇希が中央を固める。
何度も繰り返した動き。
だが、ここ――超級ダンジョンでは、同じ動作をしているはずなのに、毎回“重さ”が違う。
空気が、重い。
ただ湿っているとか、冷えているとか、そういう単純な話じゃない。
肺に入ってくる空気そのものが、一拍遅れてから身体を満たすような感覚。
善は無意識に指先を握りしめ、力を抜く。
気づけば、爪の跡が掌に食い込んでいた。
「……来るな」
索敵が、通路奥の動きを捉える。
「三体。オーク。左右に分かれてる」
声に出すことで、思考を外に固定する。
黙っていると、この迷宮は“内側”に潜り込んでくる。
「了解!」
衛が即座に前へ出た。
炎を宿した剣が唸り、踏み込みと同時に一体目を正面から叩き潰す。
「赤牙・一閃!!」
肉を断つ感触。
焦げた脂の臭いが、一瞬だけ鼻を刺した。
勇希はその背後で盾を構え、残る二体の進路に立つ。
「こっちだ!」
威圧が走る。
オークたちの動きが、ほんの一瞬だけ鈍る。
その“間”を、天が逃さない。
「魔法弾!」
光が走り、戦闘は短く終わった。
――静寂。
血と熱が残る、いつもの終わり方。
生き物が死んだ、という感触。
だが、善の意識はそこに留まらなかった。
(……違う)
この迷宮の本命は、こんな“分かりやすい死”じゃない。
視線の先。
何もない通路。
だが、そこから感じる“気配”は、先ほどとは質が違った。
(魔導機械兵……)
倒せない、というより――通されない。
善は、戦いの合間に何度も同じ問いを反芻していた。
――何に困っている?
魔導機械兵が倒せない。
――根拠と前提は?
物理で攻撃すれば、物理バリア。
魔法で攻撃すれば、魔法バリア。
どちらも、攻撃の直前に展開される。
(速すぎる。反射じゃない……予測?)
違う。
(感知だ)
目は飾り。
音――いや、超音波。
コウモリやイルカのそれに近い、反響による空間把握。
(だったら……)
仮説が、ゆっくりと形を取る。
物理バリアと魔法バリアは、同時に張れない。
だから――張らせて、裏を突く。
善は足を止め、仲間を振り返った。
「皆、聞いてくれ」
声は低く、抑えている。
この迷宮は、声を張ると、逆に飲み込んでくる。
「魔導機械兵の攻略のカギは“連携”だ。
それも、かなりシビアなタイミングが要る」
衛が小さく息を吐く。
「……下手したら、フレーム単位だな」
「だろうね」
天は鉛筆を握ったまま、不敵に笑った。
だが、指に入る力が強い。
紙に、わずかに跡が残っている。
「でもまあ、やるしかないっしょ!!」
勇希が盾を軽く叩く。
「チャレンジしてみよう。
ダメだったら、僕が壁を作る」
その言葉が、場を少しだけ軽くした。
善は短く頷く。
「決まりだ。次のエンカウントで試す」
⸻
二十五階層。
通路の奥から、金属が擦れる音がひとつ。
現れたのは――人型の魔導機械兵が一体。
関節の動きは滑らか。
呼吸はない。
鼓動もない。
「……よし」
善は小さく笑った。
「一体だけだ。試すにはちょうどいい」
衛が剣を構える。
「天。俺が仕掛ける。
物理バリアを確認したら、すぐ魔法を頼む」
「OK。見てる」
空気が張り詰める。
迷宮の“呼吸”が、一拍、深くなる。
衛が踏み込んだ。
「たぁぁぁっ!!」
刃が振り下ろされる、その刹那。
『前衛行動を検知。対物理モードに移行』
無機質な声。
人型の目が強く光り、透明な障壁が展開される。
――今だ。
「魔法弾!!」
光弾が放たれ、物理バリアを突き抜ける。
確かな手応え。
だが、魔導機械兵はまだ動く。
『……魔法行動を検知。対魔法モードに移行』
切り替えの一瞬。
「止めだ!」
衛が踏み込む。
「赤牙・一閃!!」
炎の軌跡。
そして――
沈黙。
倒れた魔導機械兵からは、血も、熱も、臭いも出ない。
ただ、電源が落ちたように、動きが止まっただけ。
生き物が死んだ時の“余韻”が、ない。
「……」
天と衛が、言葉を失う。
「……いけた?」
「……いけたな」
ハイタッチを交わす二人の音が、やけに大きく響いた。
善は、胸の奥が冷えるのを感じていた。
(やっぱり……生き物じゃない)
これは“討伐”じゃない。
強制終了だ。
「いいぞ」
それでも、声は揺らさない。
「物理バリアと魔法バリアは同時に展開できない。
だから、“わざと張らせて逆を突く”」
天が顔を上げる。
「幻を見せる戦い……
陣形・交錯蜃気楼ってどう?」
善は、少しだけ笑った。
「……採用だ」
「やったぁ!」
⸻
二十八階層。
今度は獣型が二体。
善は即座に指示を飛ばす。
「天と衛、さっきの要領で頼む!
俺と勇希で、もう一体行くぞ!」
「了解!」
勇希が一歩前へ。
「氷槍!」
『魔法行動を検知。対魔法モードに移行』
障壁が張られた、その瞬間。
「ここだ!!」
善の一撃が側面を捉える。
金属が軋み、獣型が崩れ落ちる。
向こうでも、同じ“無音の終わり”。
「よし!」
「魔導機械兵、撃破ー!!」
笑っている。
だが、どこかで全員が分かっていた。
――これは、慣れちゃいけない。
三十階層のキャンプ地が近い。
呼吸するダンジョンは、確実に精神を削ってくる。
だが――
(考えれば、越えられる)
善はそう確信し、拳を握った。
次に進むための“答え”は、もう見えている。
Y
・魔導機械兵の挙動を観察・言語化
・物理攻撃 → 直前に物理バリア
・魔法攻撃 → 直前に魔法バリア
・「同時展開はしていない」仮説を立てる
・衛(物理)→天(魔法)の順番連携を提案
・実戦で検証
・衛が斬り込む → 物理バリア展開
・直後に天の魔法 → 貫通
・バリア切り替え直前を突いて再度物理で撃破
・勇希(魔法)でバリア誘発
・自分(物理)で本命を叩く連携を実行
・新陣形・交錯蜃気楼
W《分かったこと》
・魔導機械兵は攻撃の種類を「直前の挙動」で判断している=フェイントが有効
・物理バリア/魔法バリアは同時展開不可
・切り替えに一瞬のラグあり
・単独では突破困難だが
・連携前提の敵と考えれば攻略可能
・AI型の敵ほど
・「正解行動」を逆手に取る必要がある
・勇希の魔法はダメージ目的でなくても“誘発”として非常に有効
T《次にやること》
・陣形・交錯蜃気楼を正式陣形として固定
・フェイント役を状況で入れ替える
・衛→天/天→勇希/勇希→善 など柔軟に
・時間差の精度を上げる。合図の統一(声・カウント・視線)
・複数体出現時の課題
・囮役とフィニッシャー役を明確化
・次に確認したい仮説
・音・振動・魔力の“予備動作”でも誤認させられるか
・完全な非攻撃行動(フェイント動作)での反応
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