表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テンプレをぶち破れ、エゴイストがクソみたいな神を殴り倒して世界をひっくり返すまで。  作者: 強炭酸
3章 世界の真実へ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/80

32話 エンシェント・ドラゴン

地下十一階から十四階までは、比較的単調な階層が続いていた。

だがそれは、あくまで“表向き”の話だ。


石造りの通路を進む一行の前に立ちはだかるのは、大小さまざまなゴーレムたち。

鈍重だが硬く、数で押してくる厄介な相手だ。


「……来るぞ」


善が低く告げた、その直後だった。


迷宮の奥から、ふっと空気が揺れた。

風――いや、呼吸だ。


「『呼吸』の風だ!」


善が即座に索敵スキルを最大展開する。


「マップと敵配置、シャッフル来るぞ!」


「了解、マップ準備よし!」


天は即座にスケッチブックを開き、鉛筆を走らせる。

だが、さっきまで書き込んでいた通路の線が、意味を失っていくのが分かった。


壁がずれ、通路が閉じ、別の道が開く。

まるで迷宮そのものが、生き物のように形を変えている。


「やっぱりだな……」


善は歯を食いしばる。


「おそらく五階刻みだ。この“呼吸”のタイミングで、こちらに合わせて構造も敵も変えてくる」


「完全に、殺しに来てるって感じだね」


天が肩をすくめる。


「でも、ここを越えれば次はボス部屋だろ?」


衛が剣を構えながら言う。


勇希は盾を構え、喉を鳴らして唾を飲み込む。

怖い。けど、怖さを認めた上で立つ。あの会議室で決めた顔だ。


その直後――影が踊った。


ゴーレムではない。

軽い。速い。爪が床を刻む音が複数。

群れで、波のように押し寄せる。


リザードマン。


「素早い相手だ!」

善が即断する。

「陣形・両翼解放(リリース・ウィング)!」


善と天、衛と勇希。二組が背中合わせに立ち、互いの死角を潰す。

視界の端で、天の鉛筆が止まる。

今は描くより、殺されないことが先だ。


「来るよ!」


天が叫ぶのと、爪が襲いかかるのは同時だった。


衛の抜刀が走る。

「赤牙・一閃!!」


炎が弧を描いて闇を裂き、最初の一体が“音”ごと切り落とされる。血の匂いが一瞬遅れて鼻に来た。


「オーラプロテクト!」

勇希の盾が光り、衝撃が鈍い振動として腕に返る。

重い。鋭い。怖い。――でも、止まる。

止められる。


氷結拘束アイス・バインド!」


床から氷が這い、足首を噛む。

凍った悲鳴みたいな音が鳴って、数体の動きが鈍った。


「天、右から三体!」

善が叫ぶ。

この声がある限り、散らばらない。崩れない。


「了解!」


天の魔法弾マナ・スプレッドが放たれ、四色の弾が暗闇で花火みたいに弾ける。派手なのに、狙いは正確だ。

一体、二体、三体。数が削れた瞬間、こちらの呼吸が戻る。


「いい連携!」

善は罠感知で床の“変な沈み”を見抜き、敵の進路を誘導する。

足を取らせ、詰めさせず、孤立させて刈る。


数分後。

通路に残ったのは、転がる鱗と、冷えた血の匂いと、静かな息遣いだけだった。


「……よし」


善が肩で息をしながら周囲を見回し、声を落とす。

「この変化を越えた。次はボス部屋だ」


その言葉が、背筋に冷たいものを通した。

“次”が来る。

呼吸が来るたびに、迷宮は賢くなる。

そして、ボスは“その先”にいる。



地下十九階。

下り階段の手前で、一行は足を止めた。


ここまで来ると、疲労は派手じゃない形で溜まる。

腕のだるさ。指先の微かな震え。集中が一瞬だけ途切れそうになる感覚。

そういう“隙”を、この迷宮は喜んで噛みちぎる。


「ここで小休止しよう」

善の声は落ち着いている。落ち着かせている、とも言える。


「次はボスだしね」

勇希は保存食を取り出す。燻製肉と水。

塩気が舌に刺さって、胃の底が少し温まる。水が喉を通る音がやけに大きい。


衛が肩を回しながら、笑うでもなく呟いた。

「……この先、ドラゴンなんだろ?」


「多分ね」

天はスケッチブックを閉じる。鉛筆の先が少し短くなっている。

「ゲームでしか見ないやつ」


勇希が苦笑する。

「絶対、強いよね……」


その言葉が、怖さを“共有できる形”にしてくれる。

怖いのは自分だけじゃない。だから立てる。


善は立ち上がり、階段の闇を見据えた。

「だからこそ、挑む。ここで止まったら――迷宮の思う壺だ」



地下二十階。

扉を押した瞬間、熱気が押し寄せた。


空気が重い。焦げたような匂い。

肺に入れるだけで、喉の奥が乾く。

床の石がじんわり温かく、遠くで何かが息を吐く音がした。


巨大な空間の中央に、翼を持つ影が鎮座している。

鱗は黒く、ところどころ赤く鈍い光を含んでいた。

生き物というより、災害が形を持ったみたいだった。


「……すっご」

天の声が、震えた。


「これが、ドラゴン……」


勇希は一歩前に出たまま、無意識に盾を握りしめる。

あの会議室で、誓った。

“僕だけが手を汚さなくていい道理はない”って。

だから今――逃げない。


善の声が短く鋭い。

「まずは陣形・無限四重奏アンリミ・カルテット! 勇希、前だ!」


「OK!」


「オーラプロテクト!」


光が張られた瞬間、ドラゴンの喉奥が赤く灯った。

その“前触れ”だけで、背中の汗が冷える。


そして――灼熱のブレス。


「来た!」


炎が壁になる。視界が白く焼け、熱が皮膚を殴る。

勇希の腕に衝撃が走り、膝が沈む。

守れる。守れるけど、壊れそうだ。


「耐えろ!」

善の声が遠い。

勇希は歯を食いしばり、腹の底で息を押し返す。

怖い。けど、守る。

怖いまま守れるのが、今の僕だ。


その炎を、衛は食い入るように見ていた。

まるで“答え”を探す目。


「……なるほど」

低い声。

「勇希、もう少しもたせてくれ。ヒントが掴めそうなんだ」


ドラゴンは中距離のブレス、遠距離の火球を使い分ける。

火球が飛ぶたび、空気が鳴る。熱が後を引く。

衛の視線は、それを“器官の動き”として追っていた。


「体内器官……火炎袋……」

衛は、腰のファイアスターターを握る。

「俺のと同じ構造だ」


そして、確信が形になる。


「だとしたら……俺にも、やれる」


火炎息吹ブレス・オブ・ファイア!!」


衛の炎が放たれた瞬間、空気が一度“持ち直した”。

こちらが一方的に焼かれるだけじゃない。

“返せる”。


「これもだ!火炎弾ファイア・ブレッド!!」


火球が飛び、鱗に弾ける。

ドラゴンが低く唸り、床が震えた。


「やるじゃん、衛!」

勇希の声が、息の隙間から漏れる。

頼もしい。自分だけじゃない。


「ノッてきたね、切り込み隊長!」

天が笑う。笑える余裕が、武器になる。


善が即座に指示を飛ばす。

「新フォーメーション行くぞ! 陣形・氷炎境界ニヴル・ムスペル!!正面は衛の炎と勇希の氷で攻める!俺と天は両側から隙を作るんだ!」


左右に散る善と天。

中央で交互に浴びせる衛の炎と勇希の氷。


「いけるか勇希!」

衛が叫ぶ。

「詠唱なしの俺からだ!」


炎が走る。

勇希は深く息を吸う。

胸の奥の怖さを、詠唱に押し込める。


(……僕は、守るだけじゃない)

(ここで、決める)


天が注意を引く。

魔法弾マナ・スプレッド!」


善が逆方向から叫ぶ。

「こっちだよ!!『衛の師匠』!!」


「師匠って!!」

衛が叫び、天が噴き出す。

その“笑い”が、ほんの一瞬、緊張の結び目を解いた。

――そして、その一瞬が決定打になる。


勇希の声が響く。

「これで終わりだ!」


氷結絶命アイス・エクスティンクション!!」


絶対零度の波。

熱が消える。音が薄れる。

ドラゴンの巨体が“止まる”という現象に、全員が息を呑む。


「赤牙・一閃!!」

衛の抜刀が走り、凍りついた巨体が真っ二つに割れた。


轟音。崩落。

そして、静寂。


善が息を吐く。

「……やったぜ。ドラゴン、撃破だ」


勇希は静かに手を合わせる。

指先がまだ震えている。怖かった証拠だ。

でも、立っている。


「倒した命に、誓いと感謝を」


衛が、少しだけ笑った。

「らしくなってきたな」


天が頷く。

「フォーメーションも、完璧だったよ」


善は階段を見据える。

「次は二十一階だ」


その声には、手応えと――ほんの少しの、次への怖さが混じっていた。

超級ダンジョンは、まだ始まったばかり。

呼吸する迷宮は、これからもっと賢くなる。


善のメモ


Yやったこと

・地下11〜14階:ゴーレム中心、通常攻略

・地下15階:「呼吸」の風で構造・敵がシャッフル → 5階周期変化を確信

・リザードマンの群れに対し、陣形・両翼解放リリース・ウィングで対多数戦

・地下19階でボス前休憩、保存食で回復

・地下20階ボス:エンシェント・ドラゴンと交戦

・初動は陣形・無限四重奏アンリミ・カルテット

・衛がドラゴンのブレス構造を観察・模倣し、炎ブレス/火球を再現

・新陣形・氷炎境界ニヴル・ムスペルを即興構築

・衛(炎)×勇希(氷)を交互に叩き込む

・善・天は側面から撹乱と射線管理

・勇希の氷結絶命 → 衛の抜刀術で撃破



Wわかったこと

・ダンジョンは「免疫型」で、戦い方に合わせて敵と構造を変化させる

・変化は5階周期で起こる可能性が高い

・衛は「観察→再現」ができるタイプ(ドラゴンから新技を習得)

・氷×炎の属性交互攻撃は大型ボスに有効

・即興でも陣形を組み替えられるほど、パーティ連携が成熟している



Tつぎにやること

・21階以降も「呼吸」変化を前提に進行

・衛の新技を戦術に組み込む


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


ここまで読んでいただきありがとうございます。


もしこの物語が

「ちょっと引っかかった」

「考えさせられた」

「テンプレ外し、嫌いじゃない」


そう思ってもらえたら、

☆評価やブックマークしていただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ