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テンプレをぶち破れ、エゴイストがクソみたいな神を殴り倒して世界をひっくり返すまで。  作者: 強炭酸
3章 世界の真実へ

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30/80

30話 勇者

超級ダンジョン――

聖山エーテリオン地下迷宮。


神の箱庭大陸の中央にそびえる巨大な山、その内部に穿たれた迷宮は、古くから“禁足地”として扱われてきた。

山の両端からは大陸を横断する大河が流れ、片方――ソレスティア側の山腹には地下迷宮の入口が、もう片方――ルナリス川沿いには山頂へ向かう道が存在する。


だが、どちらも人の踏み入れる場所ではない。


地下迷宮は、踏破者ゼロ。

山頂への道は結界に覆われ、近づくことすら叶わない。


クエストとしての報酬も設定されていない。

ギルドに残るのはただ一行――

「向かった」「帰ってきた」という記録だけ。


それは挑戦ではなく、生存報告に近いものだった。



一行は、その地下迷宮の入口前に立っていた。


重厚な石造りの門は、まるで巨大な口のように開いている。

内部は闇に沈み、奥行きすら測れない。


「……あれが、入り口か……」


衛が思わず息を呑む。


その瞬間だった。


迷宮の奥から、風が吹き抜けた。

外へ向かって流れ出す、不自然な風。


善は眉をひそめる。


「……嘘だろ。呼吸してるぞ、このダンジョン」


これまで潜ってきた迷宮には、通気孔や内部の森林キャンプなど、どこか“人工物”の匂いがあった。

だが、ここにはそれがない。


生きている。

そう感じさせる、異質な圧がある。


「ラビリンス・コア型上級ダンジョンと同じだな」


善は短く言った。


「――いや、もっと厄介かもしれない。

ダンジョンそのものが、明確な殺意を持ってる可能性がある」


「おいおいマジかよ…」


衛が冗談めかして言おうとして、途中でやめた。自分の声が、怖がってるのが分かったから。


勇希が盾の縁をぎゅっと握る。手袋越しに、皮の感触がやけに硬い。ここ数日で覚えた氷結の術式を思い出そうとすると、胸の奥にトータスの言葉が刺さる――「一番弱い」。あの日の“時間切れ”の恐怖が、まだ皮膚の裏に残っている。


天は、スケッチブックを抱え直した。紙の角が、指に痛い。自分の魔法戦士としての適性が“万能”だと分かった日と、空を取られて何も届かなかった日が、同じ線で繋がってしまう。だからこそ、今日は外さない。目線がぶれない。


一同が表情を引き締める。


「皆、気をつけて行くぞ」


「「応」」


クラウディアだけが、門をじっと見つめている。普段の軽口がない。小さな肩が、ほんの少しだけ固い。


「……精霊王様。いま、行きます」」


天が軽く手を振る。


「クラウディア、中に向かうよー」


「まってー。でも、戦闘には参加しないからねー」


いつも通りの軽い口調だが、その瞳はどこか真剣だった。



迷宮内部は、予想通り光を拒む闇に包まれていた。


照炎グロウフレーム


衛がファイアスターターを起動し、淡い灯りが周囲を照らす。


善は同時に索敵と罠感知スキルを展開した。


「……来るな」


小さく呟く。


「罠の位置、通路の開閉、敵の配置……全部が流動的に変わってる。

上級と同じだが、反応速度が段違いだ」


「天、今見えた罠の位置、マップに書き込めるか」


「了解。任せて」


天は即座にスケッチブックを開き、走るように線を引いていく。


勇希も深く息を吸い、気持ちを切り替えた。


「……ここは超級だ。通用するか分からないけど」


彼は一歩前に出る。


「威圧、やってみるよ」


威圧スキルが発動し、空気がわずかに震える。

数だけの魔物に時間を取られるわけにはいかない。


「今のところ、マップのクセははっきりしないな」


善が言う。


「敵のいない部屋も、孤立した通路も見当たらない」


「罠で倒す余地はありそうだけどな」


衛が続ける。


「臨機応変だ。順当に階段を目指そう」



直後、最初の敵が姿を現した。


石像が軋む音。

ガーゴイルが四体。翼の石が擦れ、粉が舞う。瞳の奥の赤い光が、こちらの灯りに反射して瞬く。生きているのか、動いているだけなのか、判別がつかない不快さ。


「来たな……!」


善は一瞬だけ迷って、すぐ決めた。


「新しいフォーメーションを試す。陣形・前衛四重奏フロントライン・カルテット!」


衛と善が前へ。二人の靴底が石を噛む。闇の中で最初に殴られる役を、迷いなく選ぶのは怖い。だけど、選ばないと迷宮に選ばれる。


「いいね!」


天の声が弾む。緊張を切るためじゃない。彼女は本気で、戦いを“組み立てる”ことを楽しんでいる。だから周りも呼吸できる。


「ギターの衛と、ベースの善が前に出る演奏パートって感じ!」


「チャンス作るから、頼むぞ!」


善が短く言い切る。


「OK!」


天が魔法印を展開する。紙に描く線と同じように、空中に“印”を描く。


魔法印マーキング!」


光のしるしがガーゴイルに貼りつく。逃げても外れない、執拗な目印。


追尾弾ホーミング・スプレッド!」


光弾が曲がり、追いすがり、石の翼の間を縫って叩き込む。砕けた破片が床に散り、乾いた音が跳ねる。


その背後で、勇希は静かに詠唱を続けていた。


(怖い。……でも、怖いままでいい。僕がやる)


トータスに刻まれた“劣等感”は、今もコンプレックスとして絡みつく。けれど、今日は違う。


「……止めはもらうよ」


勇希の声は震えない。震えているのは膝じゃなく、心の奥の“迷い”の方だ。そこに氷を流し込む。


「この大技の詠唱は――ずっと“仕込んでいた”」


掌を前に突き出す。指先が冷たくなる。空気中の水分が集まり、白い霧になって揺れる。


氷結絶命アイス・エクスティンクション


放たれた『絶対零度』の氷結波は、ただ冷たいだけじゃない。音が消える。風が止まる。世界が一瞬だけ“静止”する。ガーゴイルの群れは、抵抗する間もなく凍りつき、次の瞬間、砕け落ちた。


破片が跳ねる音が、遅れて戻ってくる。


「うわ……」


衛が思わず漏らす。驚きと、少しの安堵。背中が軽くなる。


「勇希、エグい技使えるようになったな」


勇希はすぐに笑わなかった。凍り砕けた破片を見つめ、静かに手を合わせた。胸の奥に、ほんの小さな痛みがある。


(命を奪った。……でも、僕は逃げない)


「……魔物とはいえ、命を頂いたから」


言葉にした瞬間、少しだけ息が通る。自分が“やった”という事実を、逃げずに受け止められた。


善がその横顔を見て、小さく頷く。


「折り合いをつけたんだな」


「うん」


勇希は顔を上げる。灯りの中で、目の色が少しだけ変わって見えた。弱さを消したわけじゃない。弱さを連れて歩く覚悟を、ようやく言葉にできた。


「僕だけが手を汚さなくていい道理はない。

だから――誓いと感謝を立てるんだ。」


一瞬、言葉を選び、喉の奥の熱を飲み込む。


「料理人として……そして、勇者として」


天がふっと笑う。からかいじゃない。嬉しさの笑いだ。


「その言い方、かっこいいじゃん」


衛も短く笑って、剣を肩に乗せた。


「らしくなってきたな、勇希」


善は視線を闇の奥へ戻す。深い闇が、また呼吸している。


「よし。この調子で進もう。ここから先は――楽な道ほど危ない。逃げたくなる瞬間が来たら、戦って進む」


勇希は盾を握り直す。指がまだ冷たい。でも、その冷たさが今は心地いい。揺れる火のない灯りの中で、彼は一歩を踏み出した。


――ここが、世界の真実へ続く場所だと信じて。


善のメモ


Yやったこと

・超級ダンジョン《聖山エーテリオン地下迷宮》に初突入

・ダンジョン特性を確認

・入口から風が吹く=“生きている”ような挙動

・灯りなし、罠・通路・敵配置が流動的(ラビリンス・コア型と同系統)

・役割分担を明確化

 衛:灯り(グロウフレーム)

 善:索敵・罠感知・判断

 天:マッピング

 勇希:威圧で雑魚抑制

・陣形・前衛四重奏フロントライン・カルテットを初実戦投入

・前列:善&衛(時間稼ぎ・チャンス創出)

・後列:天&勇希(魔法主軸)

・初戦(ガーゴイル×4)を連携で撃破

・天:マーキング → ホーミング

・勇希:仕込み詠唱から氷結決め技



Wわかったこと

・超級ダンジョンも「構造そのものが敵」の可能性がある

・陣形・前衛四重奏フロントライン・カルテットは機能する

・前衛が“殴り勝つ”のではなく“魔法を通すための場作り”

・勇希は殺すことから逃げず、命を奪うことに祈りと誓いを添えるスタイルを確立

・思想と行動が一致し始めている

・パーティ全体の連携速度と判断力は上級時代より明確に向上



Tつぎにやること

・この陣形を基軸に攻略継続

・勇希の大技は「仕込み前提」で守る動きを徹底

・ダンジョンの“呼吸・変化”の法則性を探る

・クラウディアの非戦闘同行の意味を今後に繋げる


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


ここまで読んでいただきありがとうございます。


もしこの物語が

「ちょっと引っかかった」

「考えさせられた」

「テンプレ外し、嫌いじゃない」


そう思ってもらえたら、

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