28話 祭りの露店
一週間の修業期間を終え、いよいよ次は超級――聖山エーテリオン地下迷宮への挑戦。その準備に本腰を入れる、はずだった。
「……精霊祭?」
善が聞き返すと、勇希は少しだけ気まずそうに頷いた。
精霊祭は、秋の収穫祭に近い行事で、毎年この時期に行われる。街全体が浮き立ち、精霊教会や商人たちが露店を並べる、ルナリスでも大きな祭りだ。その中に、マザー・ローズが預かる精霊教会――孤児院も参加するという。
「皆の足並み、崩してごめん」
勇希はそう前置きしてから、はっきりと言った。
「でも、今回だけはわがままを聞いてほしい。
僕に自信をくれた、その恩返しがしたいんだ」
敗北から立ち上がるきっかけをくれた場所。
料理の才能と在り方を、肯定してくれた人たち。
勇希にとって、精霊教会は“守られる側”から“返したい側”へ変わった場所だった。
「私からもお願い」
天が続ける。
「先生や、あそこの子供たちには本当にお世話になったから」
「俺は構わねえぞ」
衛は即答だった。
「鉄板料理なら、俺も手伝える」
善も肩をすくめる。
「超級ダンジョンに期限があるわけでもないしな。
それに……祭り、ちょっと楽しそうだ」
こうして、精霊祭への露店参加が決まった。
⸻
「で?」
善がにやりと笑う。
「勇希のことだ。もう料理は決めてるんだろ?」
「ふふふ……」
勇希は珍しく自信ありげに胸を張った。
「『チヂミ』と《かき氷》の二枚看板で行くよ」
天が目を丸くする。
「韓国グルメかぁ。SNS映え化粧品目当てで新大久保行ったとき、友達と食べたことある!」
「市場はリサーチ済みだよ」
勇希は指を折って説明する。
「ルナリスはソーセージが名物で安い。ニラは今が旬で豊作。魚介も、アラを使えばコストを抑えられる。
海鮮チヂミとソーセージチヂミ、あとソースで味変。食べ続けても飽きない」
「お好み焼きより利益率高いしね」
現実的な一言に、善と衛が納得する。
「決まりだな」
衛が段取りをまとめる。
「俺は鉄板担当。勇希は調理と、かき氷の氷作成。
善と天は買い出しと呼び込み。人増えたら列整理」
「OK」
善と天が同時に頷く。
「あと、もう一つ」
勇希が言った。
「腕試しと金策を兼ねて、中級ダンジョンを効率周回しておきたい」
「いいんじゃないか」
善は即答する。
「今の実力確認にもなる」
⸻
露店の準備に入る前、善たちは中級ダンジョンを周回した。
以前は一日かけて一度クリアするのが精一杯だった場所だ。
だが今は違う。
一日で三周。
連携も判断も洗練され、無駄がない。
「善が変なあだ名つける前に終わるくらいには楽勝だね」
天が笑う。
「ちょうどいい肩慣らしだったな」
衛も満足そうだった。
確実に、彼らは強くなっていた。
⸻
精霊祭当日。
露店が並ぶ通りに、甘い香りと鉄板の音が広がる。
「チヂミここで食えるの!?」
「涼介さんの紹介なんだけど!」
「新さんから一口もらったけど、美味かった!」
宣伝は万全だった。
ルナリスギルドの有名人・涼介。
ソレスティアギルドの新。
二人には事前に試供品を渡し、ギルドや酒場で広めてもらっていた。
その効果は絶大だった。
「デザートに、かき氷もありますよー!」
天の呼び込みに、人が人を呼ぶ。
列ができれば、さらに人が並ぶ。
祭りの鉄則だ。
⸻
夕方、店じまい。
売上は上々だった。
勇希はマザー・ローズの前に立ち、深く頭を下げる。
「ありがとうございました。これは……僕からの投資です」
原価分を引いた売り上げを差し出し、子供たちに向かって微笑んだ。
「僕、いずれ店を出すんだ。君たちが大きくなったら、食べに来てほしい。これは、そのための先行投資だよ」
「勇希くん、またねー!」
「ごはん食べに行くからねー!」
無邪気な声に、勇希は何度も頷いた。
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少し離れた場所で、その様子を見ていた涼介と新が話す。
「中級ダンジョンを一日三周やて。
キミら、会うたびバケモンになってくなあ」
新も頷いた。
「でも……今日一番すごかったのは勇希さんだよ」
「冒険者同士の暗黙の了解――“タダ働きはしない”ってのを、
貸し借りと信用の話に変えて、全部ひっくり返してる」
涼介が笑う。
「さすがやな。“だから行くんだ、炊き出しヒーロー”」
新が、ふと真面目な顔になる。
「……この世界で、それに相応しい称号がある」
涼介も同時に頷いた。
「勇者」
その言葉は、不思議と誰も否定しなかった。
勇希はまだ気づいていない。
だがこの日、確かに“勇者”は生まれていた。
――戦場ではなく、鉄板の前で。
善のメモ
Y
・ 超級ダンジョン準備期間中に精霊祭への露店参加を決断
•勇希の提案を受け、恩返しと実戦外での成功体験づくりを優先
•露店前に中級ダンジョンを1日3周ペースで効率周回し金策&実力確認
・露店では役割分担を明確化
勇希:調理・かき氷・全体管理
衛:鉄板担当
天:呼び込み・列整理
善:買い出し・全体サポート
涼介・新に事前試食を依頼し、宣伝導線を構築
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W
•勇希は戦闘以外の場で人を惹きつけ、信用を生む力を持っている
・「タダ働き禁止」という冒険者の暗黙ルールを、貸し借りと信用に変換できるのは才能
・ チームの実力は確実に向上しており、
中級ダンジョンは作業レベルに到達
•勇希はまだ自覚していないが、
“勇者的資質”は戦闘力よりも行動と姿勢に表れる
•強さ=戦闘だけではない、という価値観がチーム内で共有された
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T
・精霊祭後、超級ダンジョン(聖山エーテリオン地下迷宮)への本格準備再開
・勇希の「魔法タンク+料理スキル」という独自路線をさらに伸ばす
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