23話 聖騎士団①
ルナリスの街に戻った瞬間、違和感はすぐに分かった。
ギルド前が――騒がしすぎる。
普段なら、冒険者たちの笑い声や依頼の呼び込みが雑然と混じり合う場所だ。
だが今は、それとは違う。
ざわつきはあるのに、芯が冷えている。
視線が、一点に集まっていた。
その中心にいたのは、涼介だった。
いつもなら軽口の一つも飛ばすはずの彼が、額に汗を滲ませ、落ち着きなく周囲を見回している。
善たちに気づいた瞬間、涼介は駆け寄ってきた。
「キミら……まさかとは思うけどな」
声が、わずかに震えている。
「ラビリンス・コア……倒したって、ホンマか?」
その一言で、周囲のざわめきが一段階上がった。
「はい……。今回は、さすがに上級って感じでした」
善がそう答えると、涼介は一瞬、目を閉じた。
そして深く息を吸い込み、懐から依頼書を取り出す。
「……これ、ちゃんと見たか?」
指先が示したのは、紙の最下段。
普段なら読み飛ばされるような、小さな文字。
――だが、そこに並んでいた言葉は、異様なまでに強かった。
『灯り無し。罠多数。毒ガス部屋あり。
危険を感じた場合は必ず引き返すこと。
翌日には構造・ボス共に変更される。
ラビリンス・コア型上級ダンジョン:ダメ。絶対。』
一瞬、音が消えた。
風の音も、人の気配も、遠ざかる。
「……」
「……あー……」
「これ……当たりじゃなくて、一番避けるやつだったんだ」
勇希の呟きが、やけに現実味を持って落ちる。
涼介は、両手で頭を抱えた。
「そうや……誰もが避ける最悪パターンや。
それをな、初見で踏破するとか……歴史上でも、数えるほどしかおらん」
褒めているのか、呆れているのか。
その境界線すら、分からない声音だった。
善たちは顔を見合わせ、苦笑するしかなかった。
――そのときだ。
空気が、一段重く沈んだ。
「――君たちが、ラビリンス・コアを制覇したパーティかな?」
低く、よく通る声。
怒鳴っているわけでもない。
だが、雑踏のざわめきを一瞬で貫いた。
振り返った瞬間、善は理解した。
――ああ、これは別格だ。
そこに立っていたのは、金髪の壮年男性。
深い青のマントを纏い、背筋は真っ直ぐ。
無駄な動きが、一切ない。
整えられた口髭、落ち着いた視線。
そして何より――周囲の空気を従わせる圧。
ざわついていた群衆が、自然と距離を取る。
「……あれ、聖騎士団じゃないか?」
「噂だけの存在だろ……?」
「本物、なのか……?」
男は軽く周囲を見渡し、
妖精クラウディアの存在を認めると、小さく頷いた。
「……ふむ」
それだけで、善の背筋が冷える。
「ここは人目が多い。街の外へ行こうか」
断定だった。
相談でも、提案でもない。
気づけば、男の背後には三人。
善たちと同じ――四人。
数を揃えた時点で、選択肢は消えていた。
街を出て、広野へ向かう。
好奇心に駆られた野次馬たちが、距離を詰めてくる。
――その瞬間。
「……失せるんだな」
男が、呟く。
たった一睨み。
それだけで、人々は息を呑み、
蜘蛛の子を散らすように後退した。
誰も、文句を言わない。
言える空気ではなかった。
「……どう考えても、ヤバい人たちだよね」
勇希の小声が、やけに遠く感じる。
「ハーネスさんが言ってた」
衛の声が低く沈む。
――『聖騎士団には関わるな』
天は周囲を見回し、静かに息を呑んだ。
「……逃げ道、ないね」
善も、否定できなかった。
広野には、風の音しかない。
そして――圧倒的な存在感。
男が一歩、前に出る。
「改めて名乗ろう。
俺はシリュウ。聖騎士団のリーダーだ」
その名が、空気を張り詰めさせる。
「安心しろ。今ここで殺し合う気はない」
そう言って、シリュウは微笑んだ。
――だが、その目は違った。
獲物の“値踏み”をする、狩人のそれだ。
「端的に言えば、スカウトだ。
ただし――その前に、力を見せてもらいたい」
善は、一歩前に出る。
心臓が、早鐘を打つ。
「俺は善です。
……断る空気じゃなさそうですね」
「察しがいい」
シリュウは、満足そうに頷いた。
「こちらも四人。君たちも四人。
一対一での力比べといこう」
善は即答する。
「なら、俺は――あんたとだ。シリュウ!」
一瞬、男の目が細くなる。
「いい度胸だ!」
同時に、他の三組も動いた。
衛の前に立つのは、
ツーブロックで長髪を結んだ、筋骨隆々の男。
「俺は衛! あんたは!?」
「フールーだ! 威勢がいいな、小僧!!」
天の前には、弓を構えた紅一点。
「私はフライア。あなたは?」
「天。――かかって来なさい!」
最後に、勇希の前へ進み出るのは、
鈍重な装備を纏った、老獪な男。
複雑な術式が、静かに展開される。
「オーラプロテクト!」
勇希が盾を構える。
「ほう……ワシの術を防ぐか。ワシはトータス」
「僕は勇希! 皆を守る盾だ!!」
四組の視線が、鋭く交錯する。
この相手は、
逃げることを許さない強者。
だが――
善の胸に、恐怖と同時に、確かな高揚が湧き上がっていた。
(……上等だ)
ここから先は、
本物同士の戦いだ。
――戦いの火蓋が、切って落とされた。
善のメモ
W
・《ラビリンス・コア》型上級ダンジョン
「当たり」ではなく「明確なハズレ」であり多くの冒険者が避けてきた危険構造だった
•自分たちの攻略は、
構造理解
撤退判断
役割分担
という点で、歴史的にも稀なレベルだった可能性が高い
・聖騎士団は噂通り、
個々が別格の戦闘力
人数・間合い・状況を完全に管理する集団
・ハーネスの忠告
「聖騎士団には関わるな」は、正しかった
・それでも、逃げ道は用意されていなかった
→ 彼らは“交渉”ではなく“確認”をしに来ている
・シリュウは殺す気はないが、明確に「格付け」をしに来ている
・自分は、こういう場面で逃げずに前へ出る選択をしてしまう性格だと再認識した
⸻
T
・聖騎士団との一対一戦闘を通じて、自分と仲間の現在地(実力差)を正確に把握する
・シリュウの戦闘スタイル・判断速度・“気”の使い方を観察する
・この戦いが本当にスカウトなのか、牽制なのか、真意を見極める
・「聖騎士団」という形式上、何かに仕えて守護する存在。その、「何に仕えているか」を掴む
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