19話 BBQと陣形会議
「しかし……大仕事だなぁ」
ミノタウロスの巨体を前に、善は思わず息を吐いた。
倒れ伏した肉の塊は、まだ熱を残している。血の匂いと、獣特有の濃い体臭が、湿った空気に重く漂っていた。
血抜き、解体、運搬――
どれも一人でどうにかなる作業じゃない。まして相手は、迷宮の主格とも言える魔物だ。
「……四人がかりだな」
善が言うと、衛が無言で斧を肩に担いだ。
「ここからはオレと善でやるからさ」
低く、頼もしい声だった。
「勇希は天に食材採取教えてきなよ。あっちは頭使うし、こっちは力仕事だ」
勇希は一瞬だけミノタウロスを見てから、頷いた。
「了解。天、クラウディアも一緒に来て」
「お手柔らかに~」
天が軽く手を振る。
「私、食べ専なんだけどなぁ」
クラウディアも肩をすくめて、ふわりと宙へ浮かぶ。
三人は森の奥へ、善と衛は血の匂いの中心へ。
役割分担が自然に決まるのは、このパーティが機能している証だった。
⸻
森の中は、ダンジョン特有の静けさに包まれていた。
木々の葉擦れ、遠くで滴る水音。湿った土の感触が、靴底から伝わってくる。
「天、さっき言ったよね?」
勇希の声が、わずかに低くなる。
天が手に取っていたのは、鮮やかな紫色のキノコだった。
「そのカラフルなキノコ、毒だって」
「あ……」
天は一瞬きょとんとした後、すぐに手を引っ込めた。
「ごめん。つい見た目で……」
勇希は首を振る。珍しく、はっきりと。
「“つい”で済ませたら、全員まとめて死ぬ可能性があるからね」
その言葉に、天の表情が引き締まる。
「……はい」
短く、素直な返事だった。
料理の話になると、勇希は一切妥協しない。
それが“趣味”ではなく、“命の管理”だと知っているからだ。
その様子を見て、クラウディアが小さく笑った。
「勇希、料理のことになると本気出すわね」
「命に直結するから」
即答だった。
少し間が空き、森の匂いと沈黙が戻る。
その沈黙を、クラウディアが悪戯っぽく破った。
「それよりさ」
ふわりと天の顔の前に浮かび、覗き込む。
「天、善のことどう思ってるの? 男として」
空気が一瞬、止まった。
「……え?」
天は瞬きを二度してから、ふっと柔らかく笑った。
「どう、って言われると難しいけど……」
足を止め、少しだけ考える。
「善と再会できたのは、すごく嬉しかった。昔の約束、覚えててくれたし」
指先でスケッチブックの端をなぞりながら、続ける。
「一緒に作品作ろうって、真っ直ぐ言ってくれたし」
「……ふふ」
クラウディアは何も言わず、ただ頷いた。
「これから次第、かな」
天は空を見上げる。
「楽しみ、って感じ」
その言葉に、クラウディアは内心で確信する。
(満更でもないわね。むしろ、ちゃんと芽がある)
クラウディアは精神型の“気”を静かに展開する。
精神感応通信
『限定感応〈見守る会〉、開設っと』
意識だけを、勇希と、少し離れた場所にいる衛へと繋ぐ。
衛と勇希は脳内に直接声が流れて困惑する
『なんだこれ?』
『多分この能力、SNSのグループチャットみたいなのだ。』
クラウディアはふふんと鼻を鳴らす。
『理解が早いじゃない、恋バナ用の回線よ』
『天は満更でもないわね。善の方は…理屈こねて理性と感情と分けてるつもりみたいだけど、時間の問題ね。いずれ再燃するわ。私達はただ待てばいい。』
『青春だねぇ』
『くっつく前の他人の恋愛ほど、面白いもんはねぇ』
誰にも聞こえない内緒話は、森を渡る風に紛れて消えた。
遠くでは、斧が肉を断つ鈍い音が、規則正しく響いている。
キャンプの準備は、着々と進んでいた。
◇
「さあ、BBQだよ!!」
火を囲み、勇希が胸を張る。
「付け合わせはネギとシイタケ。肉と一緒に食べて」
「うおお、牛肉久々だな……」
「焼肉のタレまであるのかよ。反則だろ」
善も衛も遠慮なく箸を伸ばす。
「美味しい……」
「おかわりー」
天とクラウディアも満足そうだ。
食後、火を囲んでのんびりしながら、勇希は保存用の燻製に取りかかっていた。
その様子を眺めながら、善が口を開く。
「なあ。そろそろ、四人での連携をちゃんと考えないか?」
「陣形ってことか」
「そう。名前があれば、作戦切り替えも一瞬でできる」
衛が頷く。
「多数対多数だと、どうしても混戦になるしな」
善は地面に図を描く。
「基本は二人一組。機動力のある俺と天、安定感のある衛と勇希で背中合わせ」
「なるほど」
天がぱっと手を挙げた。
「それなら、陣形名はリリース・ウイングはどう?」
「翼を広げる、って感じか」
「自由に動けそうでいいね」
特に反対もなく、決まった。
「じゃあ、多数戦用は陣形・両翼解放で」
一息ついたところで、天がまた思いついたように言う。
「ねえさ、このパーティ、バンドみたいじゃない?」
「楽器弾けないけどな」
「違う違う、役割がさ」
天は楽しそうに指を折る。
「勇希は皆を守ってリズムを支えるドラム。善は指示を出して全体をまとめるベース。衛は前に出るギター。私は自由に歌って踊れるボーカル」
「発想が陽キャすぎる……」
「いや」
善が目を細める。
「それ、そのままレイド用陣形に使える」
「ほんと!?」
「終わらない四重奏……陣形・無限四重奏、いいじゃん」
「採用ー!」
天が満面の笑みを浮かべる。
善は焚き火を見つめながら頷いた。
「だいぶ形になってきたな。明日以降のボス戦で、試してみようぜ」
炎がぱちりと音を立てた。
四人と一人(妖精)の影が、揺れながら重なっていた。
善のメモ
Y
・ミノタウロスの血抜き・解体を衛と分担して実施
・勇希・天・クラウディアは食材採取と調理担当
・ダンジョン内キャンプでBBQと保存用燻製を実施
・4人パーティ用の戦闘フォーメーションと名称を決定
W
・勇希は「食」に関しては一切妥協しない本気タイプ
・天は戦闘も探索も発想も自由で、場の空気を一段引き上げる存在
・4人の役割は自然と固定化されている
・善&天:機動力・判断力重視の両翼
・衛&勇希:安定感と耐久力の剣と盾
・陣形名があるだけで、作戦共有と切り替えが一気に楽になる
・パーティは「バンド」に例えると驚くほど噛み合う
T
・多数戦用陣形・両翼解放を実戦で検証
・レイドボス用陣形・無限四重奏を次のボス戦で投入
・上級ダンジョン後半に向けて、連携精度をさらに高める
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