18話 ミノタウロス
上級ダンジョン二階、三階へと進むにつれ、空気は確実に変質していった。
敵が強い――それだけではない。
足を踏み入れるたび、ダンジョンそのものが意思を持ってこちらを観察している、そんな感覚が背中にまとわりつく。
湿った石の匂い。
通路を抜けるたびに、微妙に変わる気圧。
どこからか聞こえる、岩が擦れるような低い音。
(……殺しに来てる)
善は、はっきりとそう感じていた。
勇希の《威圧》が効く魔物もいる。
だが、効かない個体が目立ち始めた。
それ以上に厄介なのは――地形と罠だ。
「……ねえ、善」
天がスケッチブックから視線を上げずに呟く。
「この部屋、突っ切ればすぐ階段じゃない? 敵反応もないし」
その言葉に、善は即座に足を止めた。
「……ちょっと待った」
声を低く、鋭く。
「その“敵がいない”ってのが、もう怪しい」
善は松明を一本取り、問題の部屋へ向かって放った。
火は弧を描き――床に触れた瞬間。
すっ、と消えた。
「……っ」
誰もが息を呑む。
「無酸素部屋だな」
善の声は冷静だったが、背中には冷たい汗が流れていた。
「さっきまで完全密閉。こっちが近づいた瞬間に解放された。
一歩踏み込んで一呼吸――それで終わりだ」
「硫化水素だったら、匂い感じた時点でアウトだしね……」
天は黙ってランスの先にシルバーアクセサリーを吊るし、床すれすれに差し出す。
数秒。
「……変色なし。ここは無酸素だけ」
「よし、迂回」
善は即断する。
「敵がいないんじゃない。生物が存在できない部屋だ。
これが上級ダンジョンの本気だな」
進路を変え、さらに奥へ。
「……この通路、やけに真っ直ぐじゃない?」
天の一言で、全員が足を止める。
善はしゃがみ込み、床を指でなぞった。
「勾配がある。奥から手前へ……」
「……岩転がってくるやつか」
「正解。踏み込んだら詰み」
さらに先では、ループ。
同じ壁。
同じ亀裂。
同じ苔。
「……ここ、三回目だよね?」
「うん。ほら、あの苔の向きが微妙に違う」
天が冷静に別ルートを指す。
「出られる」
「助かった……」
五階層ボス部屋前に辿り着いた頃には、想定以上に時間を消費していた。
「敵よりダンジョンの方が怖いって、こういうことか」
衛が短く息を吐く。
扉が、重く開いた。
――斧を構えた巨体が、こちらを見下ろしていた。
ミノタウロス。
筋肉は鎧のように盛り上がり、呼吸のたびに胸郭が鳴る。
赤く濁った瞳が、獲物を見る目でこちらを捉えた。
(圧が……違う)
善は瞬時に判断する。
「勇希、タンク!」
「OK!」
勇希が前に出る。
次の瞬間、ミノタウロスが踏み込んだ。
床が鳴り、空気が震える。
――突進。
だが。
「オーラプロテクト!!」
衝撃が勇希の全身を打つ。
肺が潰れそうな重さ。
「……重っ……!」
歯を食いしばる。
「でも……止まる!!」
「よし!」
天が駆け出す。
「魔法弾!」
炎、水、風、地。
四色の魔法が、雨のように叩きつけられる。
「うわ、属性ばら撒き!?」
勇希が思わず声を上げる。
「詠唱カット、その代わり連射特化!」
天は笑う。
「これが魔法戦士だよ!」
「いいぞ!!」
善が叫ぶ。
「リア充・ザ・ダ・ヴィンチ!!」
「ぶはっ!」
天が吹き出す。
「その“ザ”いる!?」
ミノタウロスが一瞬、体勢を崩す。
「今だ!」
衛が踏み込む。
「イグニション!!」
炎剣が脇腹を裂く。
――だが、完全には通らない。
「硬っ……!」
「だろ? だから――」
善がスリングショットを引き絞る。
「来いよ……迷宮産ダンジョン牛!!」
「ブランド名みたいに言うな!」
天が叫ぶ。
「オーラショット!」
死角からの一撃が、膝を撃ち抜く。
「今!!」
「もらったぁ!!」
天が一気に距離を詰める。
「魔力全開! 色彩晴嵐衝!!」
色彩が爆ぜる。
善が叫ぶ。
「派手すぎだろ!!」
「うるさい!! こういうの好きでしょ!!」
「好き!!」
一瞬の静止。
衛が居合の構えを取る。
呼吸が合う。
「……終わりだ」
「『赤牙・一閃』!!」
炎が走り、巨体が崩れ落ちる。
ドン――。
静寂。
善は周囲を見渡し、索敵スキルを張り巡らす。
確信を持って言った。
「……この流れ、次はキャンプだ」
「よし」
「予想通り」
「この男子高校生たち、逞しすぎない?」
天の言葉に、妖精クラウディアがひょっこり現れる。
「……ご飯の気配」
次回、BBQ。
善のメモ
Y
・上級ダンジョン2〜5階層を探索
・天のマッピング、勇希のタンク、衛の攻撃を前提に進行
・無酸素部屋・落石・ループ構造などダンジョントラップを回避
・5階層ボスミノタウロスと交戦
・新フォーメーションを意識した連携戦闘を実践
・撃破後、次階層キャンプ(BBQ)を確信
W
・上級ダンジョンは敵よりダンジョン自体が殺しに来ている
・索敵だけでは限界があり、天のマッピング
直感的な違和感への即ブレーキが必須
・天は
・前線で魔法をばら撒ける
・属性選択が早い
・状況対応力が高い
→ 完全に魔法戦士向き
・4人編成だと
・勇希が受け
・衛が切り
・天が散らし
・俺が指示と決定
という役割が自然に噛み合う
・あだ名をつけると場の空気が軽くなり、 戦闘のテンポと集中力が上がる(副次効果)
T
・次階層キャンプでBBQ
・食料処理
・体力回復
・陣形と役割の言語化
・新フォーメーションに名前をつける
・集団戦での連携の完成度を試す
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※作者注
硫化水素は「異世界最強」より普通に強いです。
現実では必ず専門装備で確認してください。




