12話 涼介
石畳で円形に組まれた闘技場は、昼下がりの光を鈍く反射していた。
ギルドの裏手――人目を避けるように設けられたその演習場は、歓声も賭け声もなく、ただ静かに冒険者たちの実力を測るためだけに存在している。
乾いた風が吹き抜け、砂粒が靴底を擦る音だけが響いた。
「よっしゃ……俺から行く!」
新が一歩前に踏み出す。
肩に担がれたAランク武器《光の剣》が、陽光を受けて眩しく輝いた。その光は、彼自身の高揚を映しているようにも見えた。
「まずはセンセイから、いうわけですなぁ」
涼介は余裕たっぷりに笑い、長槍をくるりと回す。金属が空を切る低い音が、闘技場の空気を引き締めた。
「俺の武器はAランク、《光の剣》だ!」
新は誇らしげに叫び、踏み込む。
「ほうほう、ええ剣ですやん。でも――」
次の瞬間、新の剣が振り下ろされるより早く、涼介の《飛龍の槍》が前に出た。
ヒュン、と空気が裂ける音。
「リーチの差、ってやつですわ」
槍の穂先は、新の間合いに入る前に“壁”として立ちはだかる。
切り込もうとするたび、鋭い金属音とともに進路を塞がれ、体勢を崩される。
「くっ……!」
新は歯を食いしばり、突きを弾いて無理やり懐に入ろうとした。
その瞬間――
シャッ。
視界が白く弾けた。
「――っ!?」
砂が舞い、目に刺さる。
「ボクにこれ使わせるとは、なかなかやりますなぁ」
涼介の声は、すでに背後から聞こえていた。
一瞬の油断。だが、致命的だった。
「まだやりますか? センセイ」
新は悔しそうに歯を噛みしめ、しばらく剣を握ったまま立ち尽くす。
やがて、力を抜くように肩を落とした。
「……参った」
その空気を切り替えるように、善が静かに手を挙げた。
「次、俺がやります」
「善くん!? 本当に大丈夫なの?」
天の声には、驚きと心配が混じる。
「大丈夫だって」
「善なら楽勝だよ」
衛と勇希は、ほぼ同時に言った。
「ほう……キミが?」
涼介は善を頭から足先まで眺める。
「武器は抜かへんの?」
「素手で十分かと」
「……なめとんのか?」
合図と同時に、涼介が踏み込む。
だが――
「遅い」
次の瞬間、善の姿は消えていた。
風が一瞬だけ渦を巻き、涼介の槍は虚空を突く。
気づいた時には、善はすでに槍の死角に立っていた。
「なっ――!?」
突き、薙ぎ、連撃。
だが、どれも当たらない。空を切る感触だけが、涼介の腕に残る。
「武器はSランクでも、人の器はSサイズかな。新先輩の方がマシだね」
「……あまり意識してなかったけどさ」
「善って、足速いよね」
衛がぽつりと言う。
「シャトルラン170回行ったって、前にはしゃいでた」
「それ以前に、速すぎない?」
天は目を丸くしていた。
「せぇい!!」
涼介が渾身の突きを放つ。
――その穂先を、善は最小限の動きでかわし、柄を掴んだ。
「ここまでだ」
拳が突き出される。
顔面寸前で止まったその拳から、風圧だけが伝わる。
涼介は、しばらく言葉を失ったまま、その拳を見つめていた。
「……参りました」
深く、頭を下げる。
♢
「さあ、みんなおあがりよ!」
湯気が立ちのぼり、室内に柔らかな香りが広がった。
具沢山の味噌汁が、湯気を揺らして並べられている。
「わあ……味噌汁。こっち来て以来だよ」
天の声が、素直に弾む。
涼介は一口すすり――動きを止めた。
「……この味……」
次の瞬間、ぼろぼろと涙がこぼれ落ちる。
「懐かしい……」
「涼介さん、言葉の感じから西の方だと思いまして」
勇希が、穏やかに言った。
「僕も震災前、小さい頃は、そっちに住んでたんです」
涼介は黙って頷く。
「……スーパーから物消えてな。停電も続いて……不安でなぁ。でも、あったかいもん食べてる時だけは、落ち着けたんや」
しばらくして、涼介は深く頭を下げた。
「今日は、大人気なく絡んでもうて……ほんま、すんませんでした」
「いえいえ」
勇希は、柔らかく笑う。
「いつか店出すことになったら、また食べさせてください」
「……その時は、常連一号は俺だからな!」
新が即座に張り合い、室内に笑いが広がった。
善のメモ
Y
・ソラリスギルドでPvP
・レベルや武器より「動き」と「間合い」が重要だと証明
W
・この世界では「数値=強さ」ではない
・感情は対話と飯でほどける
・勇希の料理は対人関係最強スキル
T
・上級ダンジョンへ
・「気」の使い方をさらに磨く
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