11話 ルナリスギルド
太陽を象徴する国ソレスティアは、街並みの屋根が暖色のオレンジで統一されていた。一方、月を象徴するルナリス、落ち着いた青を基調としたシックな街並みだ。
とはいえ、両国の間に入国審査や滞在ビザは存在しない。文化の違いも最小限で、感覚としては国境を越えるというより、国内旅行に近かった。
馬車に揺られながら、新先輩はまだ見ぬ上級ダンジョンについて語り続けている。
「上級はなあ、もう規模が違うんだよ。敵もギミックも全部別格だ。俺もまだ行ったことないけどな!」
「行ったことないんかい」
衛が即ツッコミを入れるが、窓の外に広がる景色を見てすぐに目を輝かせる。
「うお、街の色全然違うな!なんか落ち着く感じだ」
「青系の街並みか……魚料理とか合いそうだな」
勇希はすでに名物食材のことしか考えていない。
この三人の空気感が、なぜか少し懐かしく感じられた。
そして――
ルナリスギルドに到着した瞬間だった。
「……善くん?」
聞き覚えのある声に振り返る。
「……勇希くんに、護くんも!?」
一瞬、思考が止まる。
「もしかして……天!?」
「やっぱり! 善くんだ!」
その瞬間、胸の奥に引っかかっていた違和感が、音を立ててはまった。
同時召喚。
ソレスティアに俺たち三人。
じゃあ、あの時、近くにいた――。
可能性を考えないようにしていた名前が、目の前にいた。
「良かった……元の世界の知り合いに会えた……」
天は心底ほっとしたように笑い、テーブル席を指差す。
「こっちで話そ。積もる話、山ほどあるでしょ?」
席につき、互いの近況を簡単に話す。
天はルナリスに召喚され、ギルドで活動しているらしい。
「なんか私も『召喚バグ』だったみたいでさ。配布アイテム、これだった」
差し出されたのは、スケッチブックとペン。
「昔から絵描くの好きでさ。向こうでも配信やってたんだよ。名前は『TEN』」
「……ああ、あのバグ召喚アイテム…」
納得しかない。
「善くんたち、レベルいくつくらい? 私、自分じゃ見えないけど、たぶん20くらい」
善はちらりと新を見る。
「新先輩、俺たちのレベル……見えます?」
「えーっと……」
一瞬の沈黙。
「……3」
「「「は?」」」
場が凍る。
「え、待って? さっき中級ダンジョン三人でクリアしたって……」
その時、背後から軽い調子の声が割り込んできた。
「ははは、兄ちゃんらオモロいこと言いはるなあ」
振り向くと、いかにも軽薄そうな男が立っていた。
「天ちゃん、そないな話、真に受けたらあかんで?」
ルナリスギルドの先輩冒険者――涼介。
彼が天の肩に手を置こうとした瞬間、天は迷いなくその手を叩き落とした。
「涼介さん、セクハラでギルドに訴えますよ」
「……天ちゃん、冷たぁ……」
苦笑いする涼介。
この二人の関係性が、一瞬で理解できた。
涼介は続ける。
「しかしやなぁ、そのレベルで上級はやめとき。引率のセンセイが可哀想やろ?」
「善くんたちは弱くない! 俺が保証する!」
新が食い下がるが、
「ほな、力、見せてもらいましょか」
涼介は楽しそうに笑った。
「ギルド裏手に演習場あるんや。ちょっと遊ぼ♡」
天が小声で言う。
「善くん、涼介先輩、ああ見えてルナリスのトップ冒険者だよ?」
善は静かに首を振った。
「……『気』を感じない」
「え?」
「普通の人だよ」
天は、はじめて見る表情で善を見つめた。
その瞬間、善の中で確信が芽生える。
――この再会は、ただの偶然じゃない。
そしてこの街で、何かが大きく動き出す。
善のメモ
Y
・ルナリスに到着
・天と再会した
・価値観の合わない冒険者(涼介)と遭遇した
W
・同時召喚は偶然じゃない可能性が高い
・レベルという指標が、この世界では当てにならない
・天はこの世界でも「自分の武器」を持って生きている
・「強さ」を誇示する人間ほど、中身は脆い
T
・力を示す(必要最低限で)
・ルナリスの冒険者の“基準”を確認する
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