10話 アース・ワームロード
中級ダンジョン六階層の森林キャンプを後にして、俺たちは再び地下へと降りていった。
焚き火の残り香と、土と緑の匂いが遠ざかるにつれ、空気が少しずつ冷えていく。
とはいえ、攻略自体は相変わらず拍子抜けするほど順調だった。
「……本当に敵が寄ってこないな」
衛が周囲を警戒しながら呟く。
それもそのはずで、俺の索敵と罠感知は階層全体をなぞるように広がっているし、勇希の威圧が雑魚敵の戦意を根こそぎ削いでいる。
戦闘らしい戦闘をほとんど挟まないまま、俺たちは十階層――中級ダンジョン最深部へと到達した。
目の前には、これでもかというほど“いかにも”な大扉。
「来たな、大ボス部屋」
「準備はいい?」
「応」
短く頷き合い、扉を押し開く。
次の瞬間、地面がうねった。
「……でっか!!」
思わず声が漏れる。
部屋いっぱいに広がる土の隆起。その中心から、巨大な頭部が姿を現した。
――アース・ワームロード。
胴体は地中に潜ったまま、頭だけがこちらを睨みつけている。
正直、見た目は巨大なミミズだが、迫力は別次元だ。
善
「弱点は……まあ、頭だよな」
勇希
「ミミズも頭潰せば終わりだしね」
衛
「安直だけど間違ってはいないな」
善
「……しかし、でっっっか。
クソデカギミック大ミミズだな。
勇希、念のため聞くけど――これ、食えないよな?」
勇希
「……食べたいと思う?」
善
「だよな!
覚悟しろよ、クソデカギミック大ミミズ(非食材)!」
そんな会話を嘲笑うかのように、ワームロードが地面を割って突進してきた。
「来るぞ!」
「プロテクト!」
勇希の張った防護障壁が衝撃を受け止め、地響きだけが広がる。
「いいぞ!勇希!!
だから行くんだ、炊き出しヒーロー!!」
「ちょ、今それ言う!?
……でも、ここで煽られたら負けられないね!」
ニッと笑う勇希は、どこか“愛と勇気のヒーロー”そのものだった。
俺は一瞬で索敵範囲を絞り込む。
ワームロードの動き、地中の振動、次に来る攻撃の兆し。
「衛、次の攻撃地点とタイミング、合図する。
同時に叩くぞ」
「了解」
「――二時方向……今だ!!」
俺の声と同時に、衛が踏み込み、炎の剣が閃く。
ほぼ同時に、俺のオーラショットが死角から突き刺さった。
ワームロードが大きく仰け反り、苦悶の咆哮を上げる。
「畳み掛けるぞ!」
「おっと、やらせないよ!!」
最後の悪あがき。
だが、その突進も勇希のプロテクトが完全に封じ込めた。
「これで――止めだ!!」
衛の炎の斬撃が、ワームロードの頭部を断ち切る。
巨体が痙攣し、やがて完全に動かなくなった。
静寂。
「……よっしゃ!!」
「中級ダンジョンクリアだぜ!」
ヘルマンモスをスコップで殴り倒したあの日以来の、手応えある戦いだった。
ボス部屋の奥に現れたワープホールを抜け、俺たちは地上へ帰還する。
(冷静に考えたらさ……
なんでダンジョンの最深部にワープホールあるんだよ)
また一つ、“人工物説”を裏付ける要素が増えた気がした。
ギルドに戻り、報酬を受け取っていると、新先輩が声をかけてくる。
「中級クリアおめでとう。
……しかし成長早いな。もしかして、もう追い抜かれてる?」
苦笑しつつも、その目は本気だった。
「なあ、今度ルナリスに遠征しないか?
向こうでしか受けられない上級ダンジョンがあるんだ。
君たちなら行ける気がしてね。馬車は手配しておく。明日移動でどうだ?」
「いよいよ上級か……」
「ルナリスってどんなとこなんだろうな」
「食材はソレスティアと大差ないって聞いたけど、
変わったものがあれば嬉しいなあ」
勇希は相変わらずそこを気にする。
「王政のソレスティアに対して、ルナリスは議会制だったよな。
……同時召喚バグだけは勘弁してほしいけど」
文句を言いつつも、内心は少し浮き立っていた。
新しい街、新しいダンジョン、新しい出会い。
この旅の先で、
俺たちの運命がもう一度交差することになるとは――
この時は、まだ誰も知らなかった。
善のメモ
Y
・中級ダンジョン後半(7〜10階層)前回の続き
・10階層ボス《アース・ワームロード》と交戦
・勇希が前衛で防御・足止め
・衛と連携して弱点部位に集中攻撃
・索敵結果を共有し、同時攻撃を成立させて撃破
・中級ダンジョンを無事クリア
・ワープホールで地上へ帰還
・ギルドで報酬を受け取った
・新先輩から「ルナリス遠征・上級ダンジョン」の誘いを受けた
W
・連携が噛み合えば、自分たちは想定以上に強い
・勇希は「防御役」ではなく、戦線を安定させる要
・衛は指示が明確なほど性能を引き出せる
・自分の索敵と判断は、戦闘全体の成功率を大きく左右する
・ダンジョン内にワープホールが存在するのは不自然
→ ダンジョンは自然発生ではなく、明らかに人工的
・中級でもこの構造なら、上級は「試練」として作られている可能性?
・新先輩は善意だが、世界の構造そのものには疑問を持っていない
T
・ルナリス遠征を受ける
・上級ダンジョンで世界構造やダンジョン設計思想を観察・検証する
・戦闘は「勝つ」だけでなくなぜ勝てたか/なぜこの敵が配置されているかを考える
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