第3話
王立ライオット学園の朝はいつも騒がしい。
だが、今日の騒ぎはいつもと違っていた。
「ねえ聞いた?裏山でソウマが伝説の召喚獣を召喚したって!」
「えっ、あの落ちこぼれのソウマが?ありえないでしょ!」
「でも、アクヤークが逃げたって話もあるし……」
「いやいや、どうせ嘘だって。誰かが面白がって流したデマだよ。」
学園の廊下では、ソウマの名前が飛び交っていた。
その中心にいるはずのソウマは、静かに校門をくぐった。
制服の袖を握りしめ、顔を伏せながら歩く。
――ウーパールーパーとの契約から一夜明け、ソウマは記憶の一部を失っていた。
母との約束は、もう思い出せない。
けれど、胸の奥に残る“何か大切なものを守りたい”という感情だけが、彼を支えていた。
「……行こう、ウーパールーパー。」
『うぱっ!(うん、堂々と歩こう!)』
肩に乗ったウーパールーパーは、つぶらな瞳で周囲を見回していた。
だが、その姿は他人には見えない。
通常モードは契約した召喚士にしか視認できないからだ。
教室に入ると、空気が一瞬止まった。
「……」
誰もがソウマを見た。
だが、誰も声をかけない。
「おい、ソウマ。昨日の噂、マジなのか?」
クラスの中心にいる男子が声を上げた。
「伝説の召喚獣を召喚したって?……」
「……うん。」
「ははっ!お前みたいな奴が伝説の召喚獣ってを召喚したって、冗談もほどほどにしろよ!」
「そうだよ!どうせまた召喚失敗して、石碑に頭ぶつけて幻でも見たんじゃないの?」
「アクヤークが逃げたって話も、どうせ悪ふざけでしょ?あいつも暇なんだよ。」
ソウマは黙っていた。
反論しても、信じてもらえないことはわかっていた。
『うぱ……(気にしないで。君の力は本物だよ)』
ウーパールーパーの声が、心に響く。
「……僕は、召喚した。伝説のサラマンダーと契約した。信じるかどうかは、君たちの自由だ。」
その言葉に、教室は一瞬静まり返った。
だがすぐに、嘲笑が響いた。
「ははっ!かっこつけちゃって!落ちこぼれのくせに!」
「伝説の召喚獣が泣くよ、そんな無能に召喚されて!」
ソウマは席に座った。
誰も隣に座ろうとしない。
机の上には、誰かが書いた「無能召喚士」の落書きが残っていた。
それでも、ソウマは前を向いていた。
――母の記憶は失った。
――だが、大切な誰かとした約束を守りたいという気持ちは残っている。
そして、ウーパールーパーは確かに彼のそばにいた。
『うぱうぱっ!(君は、これから変わる。誰もが認める召喚士になる日が、必ず来る)』
ソウマは小さく頷いた。
「……僕は、強くなる。誰が信じなくても、僕自身が信じる。」
その瞳は、過去ではなく未来を見据えていた。
王立ライオット学園の午後の授業は、召喚理論の講義だった。
教壇に立つのは、召喚学の担当教師――グラド・バルザック。
かつては王国軍の召喚部隊に所属していたという経歴を持ち、厳格かつ冷酷な指導で知られている。
「さて、今日は“召喚獣のランクと適正”について講義する。召喚士にとって、召喚獣のランクはその実力を示す最も重要な指標だ。F級以下の召喚しかできない者は、召喚士を名乗る資格すらない。」
グラドの視線が、教室の後方に座るソウマに突き刺さる。
「たとえば――このクラスにもいるな。入学から三ヶ月経ってもG級すら召喚できなかった“無能”が。」
教室がざわつく。
ソウマは俯いたまま、拳を握りしめた。
『うぱ……(気にしないで。君はもう、無能なんかじゃない)』
ウーパールーパーの声が、心に優しく響く。
だが、グラドの言葉は止まらなかった。
「ソウマ。前へ出ろ。」
「……はい。」
ソウマは立ち上がり、教壇の前へと歩いた。
「昨日、君が“伝説の召喚獣”を召喚したという噂が流れているが……まさか、自分で流したのではないだろうな?」
「……違います。僕は――」
「証拠はあるのか?召喚獣を見せてみろ。」
「……今は通常モードで、他の人には見えません。」
「ふん、言い訳か。ならば、ここで召喚してみろ。できないのなら、君の虚言は明らかになる。」
「……」
ソウマは右手を前に出し心の中でウーパールーパーに呼びかけた。
(ウーパールーパー・・・出てきてくれる?)
『うぱ・・・うっぱ・・・(だめだよ、まだ君の中の心のエネルギーが足りない・・・、もっと僕と自分を信じて・・・)』
「どうした?早くしろ。できないのか?」
「……今は、無理です。」
「やはりな。虚言を弄してまで注目を集めたいとは、哀れなものだ。」
グラドは冷笑を浮かべると、手にした杖を振り上げた。
「ならば、これは罰だっ!!!」
グラドは杖をソウマへ打ち付ける。
「ぐっ……!」
何度も何度も打ち付ける
「ほらっ!やっぱり召喚できないんじゃないか!!」
「やっぱり嘘じゃねえか。」
クラスメイトからも心無い言葉が飛び交う
「やめてください!これはあんまりです!」
「静かにしろ。これは教育だ。」
グラドの杖がソウマの顔に向けて振り下ろされた、その瞬間――




