第8話「黒鉄の番犬」
石像の広間を突破した俺たちは、さらに奥へと進んだ。
通路は細く、両側の壁は黒鉄で覆われていた。まるで古代の要塞の内部に迷い込んだような圧迫感。
「息が詰まりそう……」アリシアが小声で言った。
「魔力の流れが不自然ね。ここ、ただの洞窟じゃないわ」リーナの目が鋭く光る。
カイルが剣を抜き、前をにらんだ。
「気を抜くな。……この先に“ボス”がいる」
俺はノートを開き、壁の紋様を写す。するとページが淡く光り、“注意:守護獣”の文字が浮かび上がった。
「……来るぞ」
広間に出た瞬間、地響きが轟いた。
そこにいたのは、黒鉄で覆われた巨大な犬――体長三メートルはあるだろう。鋭い牙が光り、眼には赤い炎が宿っている。
「黒鉄の番犬……!」リーナが声を震わせた。
「聞いたことがある。古代の遺跡を守る魔獣……」
カイルが息をのむ。
ケルバーンが吠えた。咆哮が空気を震わせ、俺たちの鼓膜を破りそうになる。
次の瞬間、地を蹴って突進してきた。
「避けろ!」
俺はノートを開き、突進の軌道を記す。体が自然に動き、間一髪で回避した。
カイルが盾で受け止めるが、衝撃で壁に叩きつけられる。
「ぐっ……!」
リーナが雷を放つ。しかし黒鉄の装甲がそれを弾き、火花が散るだけ。
「魔法が効かない!?」
「なら私の矢で――!」アリシアの矢も、鋼の毛皮に弾かれて砕けた。
「くそ……!」
俺は必死に観察する。牙の動き、脚の軌道、装甲の継ぎ目。
――あった。胸元、装甲の隙間がかすかに揺れている。
「胸の下だ! そこが弱点だ!」
「任せろ!」カイルが剣を構え、突進に合わせて斬り込む。しかし間合いがわずかに足りず、腕に傷を負った。
「リオ、もう一度!」アリシアが叫ぶ。
「わかった!」
俺はノートに「胸元の隙間」と書き込む。ページが光り、狙うべき箇所が浮かび上がった。
「アリシア、矢を! カイル、斬り込め!」
「了解!」
アリシアの矢が矢継ぎ早に飛び、ケルバーンの動きを乱す。その隙にカイルが突進、剣を胸に突き立てた。
「今だ、リーナ!」
「雷よ、穿て!」
リーナの雷撃が剣を伝い、装甲の隙間に流れ込む。轟音と共に、ケルバーンが絶叫した。
「やったか……!?」
そう思った瞬間、番犬の体が黒い炎に包まれた。
「まだ生きてる!」
俺は再びノートを開き、“炎を制御”と記す。だが光は弱い。
「効かない……!?」
炎が爆ぜ、広間全体を灼熱が覆った。
俺たちは散開し、必死に回避する。熱で皮膚が焼け、呼吸すらままならない。
そのとき、ノートが震えた。ページに浮かび上がったのは――
――“共闘”。
「全員、力を合わせろ! 一斉に行くぞ!」
俺の叫びに、三人が頷いた。
カイルが渾身の力で剣を突き出し、リーナが雷を重ねる。アリシアの矢が弱点を射抜き、俺はノートに「必ず貫く」と記した。
光が走り、剣と矢と雷が一つに重なる。
轟音と共に、ケルバーンの胸が砕け、炎が散った。
巨大な体が崩れ落ち、静寂が訪れる。
「……勝った、のか」
全員が肩で息をしながら、倒れた魔獣を見下ろした。
だが、その背後で壁が軋み、石が崩れた。
現れたのは古代の扉。そこに刻まれた文字を見て、リーナが息をのむ。
「……“記す者に力を”。」
彼女の視線が俺に向けられる。
ノートが震え、ページが勝手にめくられていく。
そこに新しい文字が浮かび上がった。
――【継承者】。
俺の背筋に冷たいものが走った。
この力はただの外れスキルじゃない。もっと大きな何かに繋がっている――。




