表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱スキル【メモ帳】しかない落ちこぼれだった俺、異世界で“最強の書き手”と呼ばれるまでやり直す  作者: 妙原奇天


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/23

第7話「石像の間」

 冷たい空気が肌を刺す。

 ダンジョンの奥へ進むにつれ、湿った匂いは薄れ、代わりに古びた石の匂いが漂ってきた。壁には苔ひとつ生えていない。まるで、誰かが定期的に掃除をしているかのような不自然さだった。


 「おかしいね……普通ならもっと獣臭や土の匂いがするはずなのに」

 アリシアが弓を構えたまま、辺りを見回す。

 リーナが杖を握り直す。

 「気をつけて。ここからは“人の手”が入った領域よ」


 俺は頷き、ノートを開く。

 書き込んだのは「空気の違和感」。ページが淡く光り、頭の中に「要警戒」の印が浮かび上がった。


 やがて、広間に出た。

 天井は高く、壁際には十体ほどの石像が並んでいる。剣を掲げる騎士、弓を引く狩人、祈りを捧げる僧侶……その姿は妙に生々しく、今にも動き出しそうだった。


 「……いやな感じだな」

 カイルが剣に手をかける。

 アリシアが小声で言った。

 「リオ、何か感じる?」

 俺はノートを開き、石像を記録する。

 途端にページが眩しく光り、文字が浮かび上がった。


 ――“視線に注意”。


 「全員、目を合わせるな!」

 叫んだ瞬間、石像の眼が赤く光った。


 石像が動き出した。

 石でできたはずの関節が軋み、鈍い音を立てて歩み寄ってくる。

 「ゴーレム……!」リーナが顔を青ざめさせる。

 「こんな数……まともに戦ったら持たない!」アリシアが矢を放つ。しかし石像の胸に突き刺さった矢は、ただ弾かれるだけだった。


 カイルが前に出て剣を振るう。火花が散り、刃は石の腕に浅く傷をつけただけだ。

 「硬すぎる……!」

 俺は必死に動きを記録する。剣を振る角度、歩みの間隔、弱点になりそうな継ぎ目。

 ページに文字を刻むたびに光が走り、脳裏に“狙うべき箇所”が浮かんだ。


 「関節を狙え! 腕と胴のつなぎ目だ!」

 「了解!」カイルが叫び、指定した場所に剣を突き込む。石像が軋んで動きを止めた。

 アリシアの矢がその隙に目を射抜く。赤い光が消え、石像が崩れ落ちた。


 だが、残りはまだ九体。

 「ちっ、次々に来るな!」

 カイルが叫び、リーナが詠唱を始める。杖の先に雷が集まり、広間を走る。数体の石像が黒く焦げ、動きを鈍らせた。

 「今だ、押せ!」

 俺はノートに「動きが鈍った」と書き込む。ページが光り、石像の動きがさらに遅くなった。

 「……おい、今のは?」カイルが驚く。

 「メモ帳は“記した事実を強める”んだ!」

 俺は答えながら剣を振るう。硬い石に刃が食い込み、腕を切り落とす。


 戦いは苛烈だった。

 石の拳が唸りを上げ、カイルの盾が砕け飛ぶ。アリシアが矢を射ち続けるが、指は震え、汗が頬を伝っていた。

 リーナの魔力も限界に近づき、息が荒い。

 「もう……詠唱が続かない……!」

 「あと少しだ、耐えろ!」


 俺はノートを開き、最後の一文を書き込む。

 ――“仲間と共に勝利する”。


 光が走り、俺たち四人の動きが一瞬だけ研ぎ澄まされた。

 カイルが斬り込み、リーナの雷が炸裂し、アリシアの矢が急所を射抜く。

 俺の剣が最後の石像の首を断ち切った。


 轟音と共に、石像は粉々に砕け、広間は静寂に包まれた。


 全員がその場に座り込み、荒い息をつく。

 「……生きてる」

 「ほんと、ね」アリシアが弓を下ろし、地面に倒れ込む。

 リーナは杖を抱きしめたまま肩で息をし、カイルは砕けた盾を眺めながら苦笑した。

 「これが……ダンジョンってやつか」


 俺はノートを閉じ、深く息を吐いた。

 最弱と笑われた【メモ帳】。だが今、仲間を守るために確かに力を発揮した。

 「これから先、もっと危険なものが待ってる。それでも……進むんだ」


 暗い通路が、さらに奥へと続いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ