第5話「最弱の烙印と新たな試練」
ギルドの大扉を押し開けると、酒場のざわめきが一斉に止んだ。
数十の視線が俺とアリシアに突き刺さる。泥に汚れた鎧、矢の抜け殻、そして袋に詰め込んだ盗賊たちの武器や証拠品。
受付嬢ミーナの目が大きく見開かれた。
「リオ……まさか、本当に盗賊団を……!」
俺は黙って袋をカウンターに置く。
「討伐完了。頭目も仕留めた。証拠はこれだ」
血に染まった斧を取り出すと、周囲からどよめきが起こった。
「信じられねえ……」
「新人二人で盗賊団を全滅させたってのか?」
「バカな、あの“メモ帳”だぞ!」
昨日まで俺を笑っていた冒険者たちが、今は目を丸くしていた。
報告を終えると、ミーナが金貨を一枚差し出してきた。
「依頼達成報酬。……本当に、よくやったわ」
その声には、心底の驚きと少しの尊敬が混じっていた。
俺は金貨を受け取り、アリシアと半分に分ける。
背後から、例の三人組が近づいてきた。昨日まで嘲笑を浴びせてきたCランク冒険者たちだ。
「……認めてやるよ、“メモ帳”。お前らが盗賊団を潰したのは事実だ」
不機嫌そうに吐き捨てながらも、その声には敵意よりもむしろ苛立ち混じりの悔しさがあった。
俺は視線を返し、静かに言った。
「ありがとうよ。ただ、俺はまだまだ弱い。これから証明していく」
周囲に笑いは起きなかった。代わりに、しんとした沈黙が広がった。
最弱の烙印を押された俺が、初めて周囲に“存在”として認められた瞬間だった。
その夜。
宿の一室で、アリシアが窓際に座りながら口を開いた。
「リオ……あんた、本当に変わったね」
「変わった?」
「うん。最初に会ったときは、自分を信じてない目をしてた。でも今は違う。……まっすぐ前を見てる」
彼女の言葉に、胸の奥が熱くなる。
「……俺は前世で、逃げてばかりだった。だから今度こそ、逃げない」
アリシアは小さく笑った。
「その決意、私も信じるよ」
夜風が吹き込み、彼女の赤髪が揺れる。小さな焚き火のように、俺の心を照らした。
数日後。
ギルドの掲示板に、新たな依頼が貼り出された。
「北方ダンジョン調査――報酬金貨二枚」
それは、新人にはまず回ってこない高額依頼だった。
ミーナが俺たちを呼び止める。
「リオ、アリシア。この依頼、君たちにやってほしいの」
「俺たちに?」
「盗賊団討伐で実績を上げた今なら、ギルドも後押ししてくれるわ。けど……危険なの。戻ってこなかった冒険者も多い」
緊張が走る。
だが、俺は頷いた。
「受ける。逃げてばかりの人生はもう終わりだ」
アリシアも笑みを浮かべて頷く。
「行こう、リオ。今度は二人だけじゃない。仲間を集めて挑もう」
新たな挑戦の幕が開く。
最弱と笑われた【メモ帳】が、今度はダンジョンという本物の試練に挑むのだ。




