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最弱スキル【メモ帳】しかない落ちこぼれだった俺、異世界で“最強の書き手”と呼ばれるまでやり直す  作者: 妙原奇天


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第4話「盗賊団との初陣」

 夜の森は、昼とはまるで別の顔を見せる。

 梢の影は鋭い刃のように絡み合い、どこからともなくフクロウの声が響く。俺とアリシアは焚き火を起こさず、月明かりだけを頼りに歩を進めていた。

 目指すは北の街道沿いに拠点を構えた盗賊団。依頼の内容によれば十数名規模、武器は短剣や弓、粗末ながら鎖帷子を着ている者もいるという。新人冒険者が挑むには無謀とされ、誰も手を挙げなかった。


 「リオ、本当にやるの?」

 隣を歩くアリシアが、不安げに小声で尋ねる。

 「俺には【メモ帳】がある。罠も陣形も、記録すれば突破できるはずだ」

 自分に言い聞かせるように答える。胸の奥では不安が渦巻いていたが、後退はできなかった。ここで退けば、また前世と同じ負け犬に戻ってしまう。


 森を抜けると、やがて木々の間に赤い明かりが揺れた。焚き火だ。近づくと、粗末な小屋が数棟建ち並び、見張りの男が二人、槍を手に立っているのが見えた。

 「人数は……十五、いや十八。交代で見張りに立ってるな」

 俺はノートを開き、配置を書き込む。文字が光り、頭の中に鮮明な地図が浮かんだ。


 「どう攻める?」とアリシア。

 「まず見張りを静かに倒す。その後、混乱に乗じて小屋を制圧する」

 彼女は頷き、弓に矢をつがえた。


 月光の下、矢が放たれる。ひゅ、と音を立てて飛んだ矢は、見張りの男の喉を射抜いた。声にならない呻きが漏れ、男は崩れ落ちる。

 もう一人が振り向いた瞬間、俺は地面を蹴った。

 剣を突き出し、喉を一閃。血が飛び散り、男が倒れる。


 「……よし、進むぞ」

 俺たちは息を殺し、盗賊団の巣へと踏み込んだ。


 しかし、奥に踏み込んだところで罠が牙をむいた。

 「リオ、下っ!」

 アリシアの叫びに反応して、俺は地面に身を投げ出した。直後、頭上を鉄網が唸りを上げて通過する。木の枝に仕掛けられた落とし網だった。

 俺は素早く罠の構造をノートに記す。

 すると、似た罠が仕掛けられている箇所が光を放ち、地図の上に示された。

 「……なるほど、やっぱり使える」


 アリシアが小さく笑った。

 「メモ帳、やるじゃない」

 「今さらだろ」


 慎重に進むと、小屋の一つから酔った笑い声が漏れてきた。中には五人ほどいるようだ。

 「奇襲だ。弓で牽制してくれ」

 「了解」


 扉を蹴り破ると同時に矢が飛ぶ。悲鳴が上がり、俺は剣を振るった。

 混乱する盗賊たちを次々と斬り伏せ、残った者は逃げ出した。


 だが、すぐに警鐘が鳴らされた。外から怒声が響く。

 「侵入者だ! ぶっ殺せ!」

 小屋の影から次々と盗賊が飛び出し、十人以上が俺たちを囲んだ。

 「くそ……数が多い!」

 「でも退けないよ!」アリシアが矢を放ち、敵の一人を倒す。


 俺はノートを開き、敵の動きを片っ端から記録する。

 斬りかかってくる者の剣筋、弓を構える者の姿勢、槍を突き出すタイミング。

 書き込むたびに光が走り、俺の体が自然に最適な動きを取る。

 剣が弾き、盾がかわし、足が踏み込み、敵を切り裂く。


 「な、なんだこいつ……!」

 「ただの落ちこぼれじゃなかったのか!?」

 盗賊たちの叫びが耳に届く。


 そのとき、ひときわ大きな影が現れた。

 鎖帷子をまとい、斧を振るう大男。盗賊団の頭目だろう。

 「テメェが噂の“メモ帳”か。面白え……俺が相手してやる!」


 斧が唸りを上げて振り下ろされる。俺はとっさにノートを開き、その軌道を書き記した。

 次の瞬間、体が勝手に動き、刃を紙一重でかわす。

 そして反撃――剣が大男の腕を裂き、鮮血が飛んだ。


 「ぐっ……!」

 頭目がよろめき、仲間たちが動揺する。

 その隙を逃さず、アリシアの矢が胸を貫いた。


 「やった……!」

 大男が崩れ落ち、残った盗賊たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。


 静まり返った夜の森に、俺たちの荒い息だけが響く。

 剣を地面に突き立て、俺は膝をついた。全身が震えていたが、心の奥には確かな実感があった。

 「……勝った。俺たちだけで、盗賊団を倒したんだ」

 アリシアが笑顔を見せる。

 「やっぱり、リオのメモ帳はすごい力だよ」

 その言葉に胸が熱くなった。


 こうして、俺は最弱と笑われ続けた【メモ帳】で初めて“大きな成果”を上げた。

 この夜を境に、俺たちの名はギルドで少しずつ知られていくことになる――。

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