第12話「王都からの召喚」
ダンジョン帰還の熱気が冷めた翌朝。
俺はギルドの呼び出しを受け、重い足取りで応接室へ向かった。
アリシア、カイル、リーナも同席している。室内にはミーナと、見知らぬ人物が待っていた。
燕尾服に身を包み、鋭い眼光を持つ男。背筋を伸ばし、わずかな仕草にも威圧感が漂う。
「冒険者リオ殿。王都より参上した特使である」
男は淡々と告げた。
「陛下がお前の“特異な力”に興味を示されている。王都に来てもらおう」
「王都に……?」
思わず声が漏れた。
アリシアが眉をひそめる。
「いきなり王都って……危険すぎるんじゃない?」
リーナも冷静な声で続ける。
「リオのスキルは、まだ私たちしか知らないはず。でも王都が動くほど情報が流れている……誰かが意図的に広めている可能性があるわ」
カイルは腕を組み、低く唸った。
「だが逃げるわけにもいかねえ。王都からの召喚を断れば、逆に目をつけられる」
俺はノートを握りしめた。ページがかすかに震え、文字が浮かぶ。
――“選択を迫られる”。
わかっている。俺の力は、もう隠し通せない。
「わかった。王都に行く」
俺が答えると、特使は満足げに頷いた。
「三日後に出立する。準備を整えておけ」
会談が終わり、特使が部屋を出て行く。
残された俺たちは、重い沈黙に包まれた。
アリシアが口を開く。
「リオ……本当に大丈夫なの?」
「不安はある。でも、この力を放っておけば、必ず誰かに利用される。なら自分で選ぶしかない」
リーナは真剣な目で俺を見つめた。
「気をつけて。王都は甘くない。力を欲する者たちの思惑が渦巻いている」
カイルも頷いた。
「俺たちも一緒だ。何があっても守る」
胸の奥が熱くなった。仲間がいる。この絆があれば、どんな陰謀も切り抜けられる。
三日後。
街の人々に見送られながら、俺たちは馬車に乗り込んだ。
「すごいな……英雄扱いじゃねえか」カイルが苦笑する。
「昨日まで“メモ帳”って笑われてたのにね」アリシアが肩をすくめる。
「人の評価なんてそんなものよ」リーナが冷静に言ったが、その口元にはかすかな笑みが浮かんでいた。
馬車が街を離れる。道は王都へと続いている。
俺は窓の外を眺めながらノートを開いた。
新しいページに、勝手に文字が浮かび上がる。
――“王都での出会いが運命を変える”。
胸の奥にざわめきが広がった。
未来がどう転ぶのかはわからない。だが俺は、もう逃げない。
夕暮れ、野営地で焚き火を囲んでいると、アリシアがふと口を開いた。
「リオ、もし王都で無理やり力を使わされそうになったら……どうする?」
俺はしばらく黙り、火の揺らめきを見つめた。
「……そのときは、俺が選ぶ。前世みたいに流されて終わるのは嫌だ」
アリシアは微笑んだ。
「なら、私たちはその選択を支えるよ」
焚き火の火が、仲間の顔を赤く照らす。
この温もりを守るために、俺は戦うのだ。
王都の影は、すでに近づいている。
そこには、新たな仲間か、あるいは敵か――
いずれにせよ、【メモ帳】の力は避けられない運命を呼び寄せていた。