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第6話

 12月になり、本格的な寒波に見舞われている今日、孝太は寒さとは別の意味での寒気に襲われていた。

 この寒気は、鈴華に初めて話しかけられた時と酷似している。

 孝太が学校についてから、隣に座る鈴華から妙な視線を感じるのだ。

 それも寒気となると、いい意味での視線では無いだろう。



 (俺、何か気に障るような事したか?)



 孝太の中で思い当たる節は二つある。

 一つは、文化祭の打ち上げを断った事だ。

 しかし、あの時は仕方ないと言っていたし、そこまで怒っているようには感じなかった。

 となれば、原因はもう一つ、昨日の電話を拒否した事だろうか。

 昨日は、ゲームをする約束をゲーム仲間とチャットでしていた。

 そのため、どうしても断らざる負えなかったのだ。

 


 (まさか、そんな事で怒るか?)


 

 別に冷たくあしらってもいなければ、感想会が苦痛になっていると悟らせてもいない。

 それに、そんなことで鈴華が怒るとは孝太には思えなかった。



 (となると別の事か……)



 考えてみたものの、その二つ以外では見当もつかない。

 孝太が頭を抱えていると、スマホにメッセージが届く。

 差出人は鈴華からだ。



 【今日の放課後、駅前の店集合】



 (集合?会うってことか?電話じゃなくて?)



 わざわざ直接会って話すことでもあるのだろうか。

 チラリと鈴華の方を見ると、拒否は許さないといった表情をしている。

 そんな顔をされて、断れる孝太ではなかった。

 孝太は了解のスタンプを送って、スマホの画面を閉じた。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 放課後、初めて話した日に訪れたファミレスで、孝太と鈴華は向かい合って座る。

 思えば、こうして直接会って話すのは、あの日以来だ。

 普通なら緊張でドキドキする状況でも、今の孝太は別の意味でドキドキしていた。

 

 鈴華は、腕と足を組んで座っているため、威圧感が凄かった。

 その圧に孝太は圧倒されているのだ。

 机の上にあるドリンクが喉を通らない程に。



 「越島さ、私に嘘ついたよね?」

 


 その切り出しを聞いて、孝太の心臓の音がより早くなる。

 


 「えっと、何のことでしょう……」


 「一昨日、バイトって言ってなかった?」



 一度とぼけてみた孝太だったが、鈴華の言い方は、どこか確信めいた言い方に聞こえる。



 「私、あの日女の子と電車から降りてくるあんたを見たんだけど」



 道理でそんな言い方になるわけだと孝太は納得する。

 あの日は梓と出かけた日で、夕方頃に帰ってきた。

 文化祭の打ち上げ会場に向かうべく、鈴華が電車を使っていてもおかしくない。

 二人の最寄り駅は同じなのだから、偶然見ていたとしても驚かない。

 実際、孝太の心臓はうるさかったが、心は落ち着いていた。



 (大丈夫、焦ることはない。嘘だったことを謝罪するだけでいいんだから)



 とりあえずこの場しのぎでも謝っておけば、深く追及されることは無いと孝太は考える。

 なぜなら、それほど孝太の事に興味が無いであろうからだ。



 「えっと、女の子っていうのは妹です。その、嘘ついてすみませんでした」


 「なんで嘘ついたの?」



 なんでと聞かれると、返答に困る孝太だが、嘘をついた事で怒られているのだ。

 このでまた偽るのは良くないだろう。



 「その、話し合いとかに参加してない俺が行ったら、誰が誘ったのかって話になるだろ?そこから、南沢が俺と話してるのがバレたら、今の南沢の人間関係を壊すかもしれないじゃんか」


 「それと嘘をつくことは無関係でしょ?」


 「いや、今言った事を言ってたら、絶対そんなことないって言ってたろ、だから納得しそうな嘘言ったんだよ」


 「別に無理になんて誘おうと思ってなかったわよ!私てっきり─」



 そこまで言って、鈴華がハッとした表情を浮かべる。

 少し顔を赤くして、声のトーンも落として続ける。



 「……てっきり、嘘つくほど私に誘われるのが嫌だったのかと……」



 そんな事で悩んでいたのかと孝太は少し呆れる。

 


 (でもまあ、そう捉えられても仕方ない感じではあったか……)



 「誤解を生むような事してごめん、別に誘われた事が嫌だったわけじゃない、ただ、南沢の人間関係とか配慮した結果なんだ」


 「……別に、もういいよ。私も何か、熱くなってごめん」



 お互い謝罪を口にしたことで、とりあえず誤解は解ける。



 「……でも、私の人間関係の事とか、越島が考えなくていいから。行きたいとか、やりたいとか思った事があったら何でも言ってよね。これでも発言力はあるから」



 そう言って、鈴華はウィンクをする。

 それを見て、孝太は理解したように頷く。

 誤解が解けて安心したのか、鈴華はジュースを一気に飲み干し、おかわりを注ぎに行った。

 


 (……何でも言って、か……言わねえよ)



 一人席に座る孝太は中学の頃を思い出す。

 周囲からの視線と、かすかに聞こえる陰湿な言葉。

 思い出すだけで気分が悪くなる。



 (俺と関わったって、ろくな事ないんだから)



 孝太は窓に映る自分を見て、苦笑した。

 

 

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