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第20話

 公園のベンチに二人が座って数分、会話はなくただ時間だけが過ぎていく。

 その沈黙は、孝太の在り来りな質問で破られる。



 「……なんでここに?」


 「梓ちゃんが、ここに行けば会えるって……」



 梓は孝太と一緒に走ることもあり、孝太がどこを走り、どこで9するかも知っている。

 しかし、孝太が聞きたいのはそういうことではない。



 「そうじゃなくて、なんで俺に会いに来たんだ?」


 「……聞きたいのはこっちなんだけど、なんで電話無視するの?」


 「……別に、ちょっと忙しいだけだよ」



 孝太は答えを濁す。

 その事に気づかないほど、鈴華は鈍感では無い。



 「嘘、私の事避けてるでしょ」


 「……避けるも何も、学校では元々話してなかっただろ」


 「そうだけど!……そういう事じゃなくて」



 鈴華の言いたい事を孝太は理解出来た。

 話さなくても、同じ空間に居ることはあった。

 お互い、特別に意識することはなく、ただのクラスメイトとして。

 しかし、最近の孝太は同じ空間に居ることすら避けている。

 休み時間になれば、必ず教室を出て行くし、バイトの帰り道も変え、電話にもでない。

 徹底した拒絶。



 「……なんで?なんでそんなに避けるわけ?私、何かした?」


 (……あー、まただ)



 訴える鈴華の顔を見て、孝太は自分に失望する。

 自分と関わった人は、最後には悲しい顔をする。

 今目の前に居る鈴華も、中学の頃に手を差し伸べてくれた彼女も、辛そうな顔で孝太を見る。

 


 「……もう、関係ないだろ」



 悲しい顔をさせるくらいなら、今ここで拒絶する。

 それが、孝太の出した答えだ。



 「は?関係ないって?」


 「俺と関わるなってことだよ。南沢には、村元も居るんだしさ……」



 無理に自分と関わらなくても、好きな事を語り合える人は居る。

 そういう意味を込めて、孝太は言う。



 「……何それ、翔太郎が居るから何?好きな話が出来る人ができたから、越島とは関わらないって?私が仕方なく越島と関わってたって?そう言いたいの?」



 鈴華から今まで聞いたことのないような低い声が聞こえる。

 


 「……好き好んで俺なんかと関わる奴なんていないだろ」


 

 それが孝太の本音だった。

 


 「……俺なんかなんて、言わないでよ」



 孝太の本音に対し、鈴華は怒気を込めた声で返す。

 その時の鈴華の表情は、さっきまでの悲しいものでは無くなっていた。



 「越島の価値を自分で決めんな!自分の価値なんてのは、他人が決めるもんなんだよ!」


 「な、何言ってんだ?」



 鈴華の言っている意味が分からず、孝太は混乱する。

 そんな孝太を待たず、鈴華は続ける。



 「越島は自分のこと、最低なヤツだとか、ダメなやつだとか思ってるかもしんないけど、私は、あんたはすごい奴だって思ってる!辛い過去があったのに、昔みたいに笑えるあんたを」



 鈴華は、梓から孝太の過去を聞いていた。

 だから、孝太に対して、尊敬の念を持っている。



 「……辛い事があったのに、昔みたいに笑えるなんて、成長出来てない証明だ。同じ事を繰り返しているだけだろ」


 「全然違うよ!辛い事があっても笑えたってことは、その辛い過去を乗り越えたってことでしょ?その壁を乗り越えられた越島は、変われてるんだよ!」



 鈴華の前向きな考えを聞いて、自分にはそんな考えは持てないと孝太は思った。

 そんなポジティブにはなれないと。

 舌を向きそうになる孝太の顔を鈴華は掴み、無理やりに目を合わす。



 「私は、越島と仕方なく関わってたんじゃない。私は、あんたと仲良くなりたい、友達になりたいって思って関わってたの!」



 鈴華の目はまっすぐで、自信に満ち溢れていた。

 その瞳に、孝太は吸い込まれていく。



 「越島は、私にとって十分価値ある人間だよ!だから、自分なんかなんて思わないで」



 その言葉を聞いて、孝太は気づけば涙を流していた。

 そのまっすぐで、綺麗な瞳に気づかされた。


 

 「……ほんと、馬鹿だな俺って」



 また、繰り返すところだった。

 せっかく乗り越えられたのに。

 過去を乗り越えて、昔のように笑えていたのに。

 また、自分から捨てるところだった。



 「……ありがとな、南沢」


 「べ、別に!友達として、励ますのは当たり前だし……てか、電話にくらい出てよね!話したい事いっぱいあるんだから!」



 どうやら、鈴華の『いもなじ』欲を満たすには、翔太郎では役不足のようだ。



 「ああ、ちゃんと聞くよ。でも、その前に……」



 孝太はある人にメールを返す。

 ずっと無視していたため、返信は来ないと思っていたが、数秒で返信が来た。

 


 「誰にメールしたの?」


 「……いい加減、会おうと思ってな」



 鈴華に背中を押され、孝太は決心する。

 最後の壁を、乗り越える覚悟を。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 翌日、指定された公園に孝太は到着する。

 近くに大きな病院があり、リハビリに利用されている事も多々ある。


 そんな中、小さな子供達が遊ぶ姿を近くのベンチで見つめている黒髪の少女を見つける。

 孝太が近づくと、少女も気配に気づき、振り向く。

 二人の目がしっかりと合う。



 「……久しぶり、咲穂」


 「久しぶり、背伸びたね」



 かつて、孝太に手を差し伸べた少女山下 咲穂(やました さきほ)は、柔らかい笑みを浮かべていた。

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