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第19話

 「結局、渡せなかった……」


 

 バレンタインの夜、勉強机の上に置かれたマフィンを見ながら、鈴華が呟く。

 孝太に渡そうと思っていたが、あの動画の事が気になって、結局タイミングを逃してしまった。



 「……なんで、辞めちゃったんだろ」



 渡せなかったショックもあるが、それよりも孝太が陸上を辞めてしまった事が気になった。

 動画見た後、越島 孝太と検索してみると、かなりの量の記事が出てきた。

 中学二年生で100m走で全国大会に出場し、入賞。

 二年生で一番速い記録を持っていて、雑誌の記事なんかも出てきた。

 しかし、中学三年生の時の情報は一切なく、まるで最初から居なかったように扱われていた。

 突然消えたということは、三年生になるタイミングで部活を辞めたということだろう。


 そう考えた時、鈴華は孝太の部屋にあったダンボールを思い出す。

 二度と開けないと決断しているようにガチガチにガムテープが貼られたダンボール、隠すようにクローゼットの中に押し込まれていた。



 「もしかして、あれが……」



 鈴華は思う、こんなデリケートな深い部分に踏み込んでいいものなのかと。

 鈴華と孝太の関係は、あくまでも同じ趣味を持ち、同じ作品が好きだというオタク仲間、友達になったばかりという関係性だ。

 そんな浅い関係の人間が、孝太の隠したい過去を暴くような真似をしていいのかと。

 答えはNOだ。

 知る必要もないし、知ろうとすれば孝太を傷つける。

 けれど、鈴華は知りたいと思ってしまう。

 

 他人が聞けば浅くて変だと言われそうな関係でも、鈴華にとって孝太は、翔太郎や他のクラスメイトとは違う、何か特別な存在だと感じる。



 「……こんな事で悩むなんてらしくないよね」



 嫌われたっていい。

 そんな覚悟を鈴華は決めた。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 (結局、南沢からはなかったな)



 バレンタインの翌日、そんな当たり前の事を考えながら、孝太は朝から外に出る。

 休日恒例の早朝ランニングだ。


 走り始めて数分、いつも見かける人達とすれ違いながら、家の隙間を縫って吹く風を感じながらペースを上げていく。

 

 最近、鈴華からの電話に出ないことで、二人の関係はギクシャクとしていて、自分が招いた事だが、孝太は居心地の悪さを感じていた。

 そんな悩みがある時、孝太はいつも走ることで発散する。

 動いていれば、悩みも風と一緒に吹き飛んでいく気がするからだ。

 いつも休憩とストレッチがてらに寄る公園に入り、いつものように自販機で水を買おうとしたその時、孝太の頬に冷たい何かが当たる。

 


 「……おつかれ」


 「……なんでここに?」



 振り向くと、照れくさそうにした鈴華が、水の入ったペットボトルを孝太の頬に押し当てていた。

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