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第18話

 「私はね、思うわけですよ、バレンタインチョコは、無理に美味しくない手作りを渡すよりも、確実に美味しい市販品を渡すべきだと」


 「なるほど、一理あるな」



 バレンタイン当日、昼休みに眞知に空き教室に呼ばれた孝太は、教室に入った途端始まった眞知のバレンタインに対しての力説を聴いていた。



 「そう、確かに手作りにはロマンがあるし、相手の事を思いながら作る時間っていうのも悪くない。でもね、美味しくなかったら意味がないと思うんだよ」


 「……それで?結局何が言いたいんだ?」


 「だからね、私が手に持ってるこれは、決して失敗したからって訳じゃないんだよ」



 言うように、眞知の手には一枚130円位の板チョコがある。

 


 「……ありがとう」


 「何だ!今の間は!貰えるだけありがたいと思いなさいよ!」



 孝太の受け取り方に不満があったのか、眞知が抗議を始めた。



 「どうせ手作りが良かったとか思ってんだろ!オタクはバレンタインに夢見すぎなんだよー!」


 「お前、今最低の偏見を言ったからな!」


 「うるせぇ!だったら、今の間の理由を説明してみろよ!」


 「……喜びを噛み締めてたんだよ」


 「こっちを見て言えやー!」



 孝太とて、初めて貰うバレンタインチョコが嬉しいに決まっている。

 しかし、初めてだからこそ、バレンタインというものを二次元しか知らない。

 漫画やアニメのバレンタイン回では、こぞってヒロインが手作りチョコを渡すものだ。

 三次元と二次元を一緒にするなと言う気持ちはよく分かる。

 分かるが、夢を見るのは自由である。



 「まあそう怒るなよ。俺も谷畠に用意してるから」


 「え?孝太が?男子なのに?」


 「最近は性別関係なく送りあったりしてるらしいからな。一応準備しておいた」



 数日前に見たバレンタイン特集で、男子から女子に友チョコとして送る事も増えていると聞き、孝太も当日に準備したのだ。



 「えー?嬉しいけど、なんか照れるな〜」


 (どんなチョコだろ〜、もしかして!手作りだったり〜)



 眞知は、初めて貰うバレンタインチョコに妄想を膨らませる。

 そしてついに、孝太は自分のポケットからそのチョコを取り出した。



 「いやー、やっぱ俺達気が合うな!」



 孝太の手には、先程眞知が手渡した130円の板チョコがあった。

 左手と右手に一つずつ。



 「……ありがとう」


 「なんだ?今の間は?」


 「……喜びを噛み締めてたんだよ」



 眞知は、先程孝太が言ったセリフをそのまま口にした。



 「……俺の気持ちが分かったか?」


 「……ごめんなさい」



 二人は虚しい気持ちになり、その場で並んで板チョコを食べた。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 「男子ども!受け取れー!」


 

 孝太が眞知とコントを繰り広げている時、鈴華は教室でクラスメイトの女子達からとチョコをばらまいていた。

 上げているのは50円の市販チョコだが、男子達は声を上げて喜んでいる。

 そんな中、女子達の中にも本命用か友達用か、手作りの物を持っている子もいる。

 そして、鈴華もその一人だった。



 (も、持ってきてしまった……)



 鈴華の手には、昨日の夜に作ったチョコマフィンが一つある。

 


 (なんで学校に持ってきた?学校では話すことなんてないのに!)



 鈴華が作ったマフィンは、孝太に渡すために持ってきていた。

 最近、孝太が電話に出なくなったせいで、バレンタインの話をしそびれてしまっていた鈴華は、直接渡すしかないと決意した。

 しかし、直接家に行くのは恥ずかしいし、だからといってバイト先に行くのも迷惑になりそうだ。

 そんなこんなと今日は朝まで考えているうちに、学校に持ってきてしまったというわけだ。



 (ていうかそもそも、あいつが電話に出ればいい話じゃん!なんで最近無視すんの!)



 鈴華から見れば、孝太は突然理由もなく電話に出なくなり、バイト終わりを待っていても、裏口から出ているのか会うことはない。



 (ちょっと話さなかっただけで私の声が聞きたいとか言ってたのはなんだったわけ!……なんか、段々ムカついてきた)



 孝太に対して、怒りが出てきた鈴華は、手に力が入る。

 危うくマフィンを潰しそうになるほどに。



 (……もしかして、もう話すことないのかな)



 鈴華は、孝太とファミレスで話した時のことを思い出す。

 鈴華がドリンクを取りに行っている間に、ふと席を見た時に見えた孝太の悲しげな表情。

 鈴華と居るのに、誰かと居るのに、独りだと言っているような表情。



 (……話せなくなるのは、寂しいな)



 鈴華の胸の当たりをチクリと何かが刺したその時、



 「そういえばさ、これ見てくれよ」



 クラスメイトの陸上部の子が、友達に自分のスマホで動画を見せながら騒いでいる。

 動画を見たその男子の友人も

 「うお!速!」「ごぼう抜きじゃん」

 と興奮して声に出している。



 「何?どうしたの?」

 「なんか面白い動画?」



 その興奮度合いから、周りの生徒も気になったのか、みんな動画を見始める。

 動画は、陸上のレースの動画らしく、見る人全員が感嘆の声を上げている。

 


 「鈴華も見てよこれ!」



 友人の一人に呼ばれ、鈴華も動画を覗き見る。



 (あれ?この子って……)



 動画内のレースはリレー走のようで、内容としては、最下位だった学校のアンカーが全員を抜いて一位になるというモノだった。

 クラスメイト達は、その圧巻の走りに感動していたが、鈴華は違った。



 (……間違いない!今より幼く見えるけど、この子、越島だ!)



 その動画で、圧巻の走りを見せた少年が孝太だと、鈴華だけが気づいていた。

 

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