第15話
(あれは、鈴華?)
冬休みも終わり、三学期が始まった今日、部活帰りに母親から頼まれた料理本を買いに、学校近くの本屋に来た翔太郎は、一冊の本を凝視する鈴華を見つける。
じーっと見ていた鈴華だったが、本を手に取ることは無く、本屋から立ち去った。
気になった翔太郎は、鈴華が見ていた本の所へと向かう。
そこはラノベが置かれている棚で、読まない翔太郎は、初めて見る棚だ。
そこに少しズレて置かれている本を見つける。
(いもなじ?)
その本の帯には、『いもなじ重版決定!』と書かれている。
鈴華がこの本を読んでいるイメージは無いが、確かにこの本を見ていたと翔太郎は思った。
少し悩んだ末、翔太郎はその本を手に取った。
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「相談があるんだ、越島君!」
昼休みに食堂に向かおうとしていた孝太は、翔太郎に引き止められて、戸惑う。
冬休み前、あんな事があったというのに、翔太郎が平然と話しかけてきたからだ。
「……お前、よく俺に話しかけれるな」
「……そうだね、確かに俺は、君に酷いことをしたと思う。でも、過去を振り返っている暇はない!今は少しでもきっかけが欲しいんだ!」
嫌味のつもりで行ったのだが、翔太郎には効果がない。
なんだか考えるのもバカらしく感じ、孝太も翔太郎を邪険に扱うのをやめる。
「それで?相談って?」
「聞いてくれるのかい!?」
「聞かなきゃ解放してくれないだろ……」
ずっと追いかけ回されるのは嫌なので、孝太は話を終わらせる方が早いと判断し、翔太郎と渡り廊下に場所を移す。
校舎間を繋ぐ渡り廊下は、吹き抜けとなっているため、今の季節は人が居ないので、内緒話には最適だ。
「相談って言うのは、この本の事だよ」
翔太郎が出した本を見て、孝太は目玉が飛び出るかと思うほどに驚く。
翔太郎の持っている本は、つい先日発売された『いもなじ』の最新刊だ。
当然、孝太も持っている物だが、翔太郎が持っていることに動揺する。
「これを、鈴華が見つめていたんだ。もしかしたら、鈴華が好きなのかと思って、気になって買ってみたんだ」
孝太の中で大方の予想がついた。
おそらく、鈴華が本を買うところを、孝太が目撃したように、翔太郎も目撃したのだろう、と。
(あいつ、脇が甘すぎるな……)
「そ、それで?どうだったんだ?」
「こういう本は読んだことなかったんだけど、すごく面白いね!鈴華が好きになるのも納得だよ」
どうやら、翔太郎にはオタクの才能があるようだ。
そう感じた孝太は、翔太郎に一つの提案をする。
「だったら、南沢に話題を振ってみたらどうだ?そしたら話すきっかけになるだろ?」
自分の体験談を元に、孝太はアドバイスをする。
「そっか、その手があった!じゃあ早速─」
「待て待て!」
教室に居る鈴華の元に行こうとする翔太郎の首根っこを掴んで止める。
「どうして止めるんだい?」
「今ここで話すのはやめとけ、南沢がこの本が好きって、聞いた事あったか?」
「いや、知らなかったよ」
「なら隠してるってことだ。それを教室でいきなり言ってみろ、逆効果だろ」
「確かに……少し舞い上がってたみたいだ」
翔太郎は足を止め、少し考える。
「よし!家に帰ってから、電話で言うよ」
「え?」
「ん?何かまずいかい?」
「い、いや、まずくねえよ!」
翔太郎の案を聞いて、孝太は胸にチクリと何かが刺さった気がした。
「よし!そしたら、この作品をもっと読み込もう!鈴華と楽しく話すために!」
「あ、あのさ」
「なんだい?」
「……いや、なんでもない」
「そうかい?とにかく、相談に乗ってくれてありがとう!俺、頑張るよ!」
そう言って、翔太郎はその場を離れた。
残された孝太は、さっき自分が言おうとした事を思い出し、頭を悩ませる。
(……なんで、止めようとしたんだろうか)
理由も分からない苛立ちを覚えながら、孝太も食堂へと向かった。