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第14話

 1月4日、朝から走りに出ていた孝太は、昼前の時間に帰ってきた。

 梓に神社に行こうと誘われていたが、面倒だったので、断る理由として走りに出たのだ。

 そんな経緯で実行したランニングだったが、今年に入って初走りだったこともあり、気持ちのいい朝になった。


 帰宅して、玄関に見慣れない靴があることに気づく。

 厚底のブーツで、女物であった。



 (梓の友達でも来てんのか?)



 そう考えた孝太は、リビングには行かずお風呂場に向かう。

 来客中にシャワーを浴びるのはどうかと思うが、冬とはいえ、かなりの距離を走ったため汗だくだ。

 そんな状態で、うろつかれる方が、梓の友達も迷惑だろうという考えに至った。


 シャワーを15分程度で浴び終え、バスタオルを腰に巻き、洗面所へと続く扉を開けると、金色に輝く髪が孝太の視界でなびいた。

 そして、その少女と目が合った。



 「……お、お邪魔してます」


 「……は?」



 そこにいるはずのない鈴華の姿を見て、孝太の頭は真っ白になった。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 「いやー、まさか鈴華さんとお兄ちゃんがクラスメイトだったとはー」


 「呑気に言ってる場合か!」



 経緯を聞いた孝太は、梓にデコピンを食らわせる。



 「痛!もー!別にいいじゃん!謝ったんだからさー!」


 「誠意が足りてないだろ?誠意が!」


 「あの、私は大丈夫だから」


 

 孝太と梓の言い合いを鈴華は止めに入りながら、微笑ましく思っていた。

 


 「本当に悪かったな南沢、お詫びとして何かするよ」


 「いや、別にいいよ、大した汚れでもないし」


 「いや、こういうことはしっかりしとかないとダメだ!」



 孝太の態度を見るに、何か頼まないと引いてくれそうにないと思った鈴華は、少し恥ずかしいが、望みを言う。



 「じゃ、じゃあ、越島の部屋を見てみたい……」


 「……俺の部屋を?」



 聞き返されると恥ずかしいが、鈴華は頷く。

 そう言われ戸惑う孝太の横で、梓はニヤリと笑う。



 「あー!私、用事思い出したー!」


 「は?」


 「ごめーん!後よろしくね〜お兄ちゃん」



 そう言って梓は、孝太が止める前に家を出て行った。

 


 「……じゃあ、部屋見るか?」



 孝太の言葉に、鈴華は頷いた。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 孝太の部屋は、6畳程度の部屋で、テレビと机、クローゼットの横にベッドが置かれており、壁は本棚でびっしりと埋まっている。



 「……すごい本の数だね」


 「色々と集めてたらこんな量になってた。クローゼットの中にもある」


 「越島って、『いもなじ』以外も好きなんだ」


 突然部屋を見てみたいと言われた時は驚いた孝太だが、目的はこの大量の本のようで、納得する。

 安堵の息を漏らすと、



 「男の子の部屋って、初めてだ……」



 そのセリフは、孝太にはどストライクにハマった。

 てっきり、翔太郎達の部屋で遊んだりしているものだと思っていた孝太には不意打ちに効いた。



 「ちょっと、読んでみていい?」


 「あ、ああ、いいぞ……」



 孝太に効果バツグンの攻撃をしたなどと思っていない鈴華は、本棚の本をパラパラと見ていく。

 そんな楽しそうにしている姿を見ると、漫画やラノベを本気で好きなんだと伝わってくる。

 見た目がギャルなので、なんだか似合ってはおらず、孝太は微笑する。



 「ねえ、越島が初めて読んだ本ってどれなの?」


 「棚にはねえよ、確か、クローゼットにしまったはずだ」



 そう言いながら、孝太はクローゼットを開ける。

 いや、開けてしまった。

 普段の孝太なら、絶対にそんなミスはしない。

 自分の好きな作品を、楽しそうに読む鈴華を見て、孝太も無意識に気が緩んでいた。


 開いたクローゼットの中に、大きなダンボールがあることに鈴華は気づく。

 普通のダンボールなら、気にしなかったが、そのダンボールには、尋常ではない量のガムテープが巻かれるように貼られていた。

 そんな物を見て、気にならない人は居ないだろう。



 「越島、そのダンボールはなんなの?」



 鈴華にそう聞かれ、孝太は自分のミスに気づく。

 自分の中で隠した、押し殺した過去を見られてしまった、と。



 「……別に、大した物じゃないよ」


 「大した物じゃない割には、結構しっかり閉じてるね」


 「……まあな、ほら、あんまり見られたくない本とかあるだろ?」


 「あ、あー……なるほど……」



 鈴華の反応を見て、誤解しているなと分かったが、孝太は訂正しない。

 その方が好都合だからだ。



 「ほら、これが俺のオタク道の始まりだ!」


 「お!この作品は知ってる!」


 「有名だからな」



 その後は、オタク話に花を咲かせ、鈴華の服が乾いたところで、お開きとなった。

 部屋で片付けをしながら、クローゼットの中のダンボールを見る。



 (変に思われたかな……)



 油断していた数分前の自分を殴ってやりたい。

 そんな気を思わせるほど、孝太はダンボールを睨みつけている。



 (……やっぱり、処分するべきだよな)



 そんな事を考えながら、孝太は静かにクローゼットを閉じた。


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