第13話
(……どうするかなー)
年が明けて1月4日、鈴華は翔太郎を始めとする友人達と初詣に訪れた。
近所の神社に来てみたが、さすがの賑わいで、友人達とはぐれてしまった。
探させるのも悪いので、メッセージで先におみくじを引く旨を伝える。
みんなで来はしたが、何もお願い事の時まで一緒に居なくてもいいだろう。
おみくじを引きに行く途中で、甘酒を配っているのを見つけ、一杯もらう。
普段なら甘酒があっても飲まない鈴華だが、何故か初詣の時はつい飲んでしまうのだ。
人の波は激しくなるばかりで、気づけば人まみれで身動きが取れなくなっていた。
そんな中、人混みの中から、ニョキりと手が伸びてきた。
「だ、誰か〜!?」
その手から少女の助けを求める声が聞こえた。
微かな声だったが、鈴華の耳にははっきりと聞こえた。
鈴華は咄嗟にその手に自分の手を伸ばす。
「捕まって!」
「こ、これは!人の手!」
少女は鈴華の手をがっしり掴む。
鈴華はそのまま自分の方へと勢いよく引っ張って、少女を人の波から助け出す事に成功する。
サッと端により、人の波から逃れる。
「大丈夫だった?」
「すみません、助かりました……って、うわー!?」
「ど、どうしたの!?」
「お、お姉さんの服に、私の甘酒がー!?」
引っ張った拍子に、少女の手に持っていた甘酒が鈴華の服にかかってしまった。
その証拠に、少女の手には空の紙コップが握りしめられている。
「ど、どうしよー!?すぐに洗わないと!」
「これくらい平気、あなたの方こそ、怪我とかなくて良かった」
「良くないですよ!こんな綺麗なお姉さんの服を汚してしまうなんて!そうだ!家、ここからすぐなんで、うちで洗いましょう!」
「ええ!?いいよ、そこまでしてくれなくても」
あまりに突然の提案に、鈴華はさすがに遠慮の気持ちを表す。
しかし、少女は引き下がらない。
「ダメですよ!すぐに洗わないとシミになりますし、助けてもらったお礼も兼ねて!」
「で、でも……」
遠慮する言葉が喉まで出てきていたが、少女の熱意に根負けして、鈴華は提案を呑んだ。
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二人は、神社を出て、少女の家へと歩き始める。
「えっと、あなたの名前は……」
「私、梓って言います!」
「そっか、よろしくね梓ちゃん。私は南沢 鈴華です。梓ちゃんは中学生?」
「今年中3の受験生です!普段は神頼みはしないんですけど、さすがにしておこうと思いまして」
「そうなんだ、じゃあ、今年は大変な一年だね」
二人で他愛ない話をしながら、梓の家に向かう。
鈴華の梓への印象は、明るく元気で、社交的な子というイメージだ。
誰とでも仲良くなれそうな、そんな雰囲気を感じる。
「そういえば、鈴華さんってモデルか何かですか?」
「ど、どうしてそんなことを?」
「いえ、あまりに綺麗だから、そういう仕事してるのかなーって」
「モデルとかはやってないかな……でも、綺麗って言われて悪い気はしないかな」
梓が、嘘を付けない性格ということを鈴華は知らないが、その場で、、梓がお世辞でもなく、純粋な気持ちから言っている事はすぐに分かった。
天真爛漫という言葉が、これほどまでに似合う子はそう居ない。
「あ、着きました!」
「……え?」
そうこう話している内に、梓の家の前に到着する。
その家の表札を見て、鈴華は言葉を失った。
「鈴華さん?どうかしましたか?」
「……えっと、梓ちゃんの苗字って……」
「言ってませんでした?越島です。越島 梓です」
予期せぬタイミングで、鈴華は孝太の家にお邪魔することになった。
そして、今自分の家に鈴華が居るという事実を、孝太は知らない。




