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第10話

 明日で長かった二学期も終わりという今日、孝太が上履きに履き替えていると、眞知が腕を組んで下駄箱で待ち伏せしていた。



 「おはよう!孝太」


 「……ああ、おはよう」



 わざわざ周りの生徒に聞こえる声で挨拶をして、何故か自慢げな表情を浮かべている。

 その効果は割とあり、あの孤高の子犬が誰かと仲良くしていると、学校中で密かに話題になった。


 そこまで大事にならなかった理由としては、隣にいる男、つまりは孝太の認知度があまりにも低かったからだ。

 オマケに、二人には表立って追及してくるような友達は居ないので、正直拍子抜けレベルであった。

 

 そんなこんなで、学校でも話している孝太と眞知だが、明日の終業式で冬休みに入ると言うのに、眞知の元気はなかった。



 「なんか暗いな?」


 「……分かる?」


 「そりゃ、顔に全部出てるからな」


 「実は、明日の夜には田舎に帰るらしくて……」


 「随分と早い帰省だな」


 「おばあちゃんが早く会いたいって言ってるらしくて……」


 「そりゃー、孫の顔は見たいわな」


 「だから、孝太とクリスマス遊べない!」


 「遊ぶ気でいたのかよ!」


 「そりゃそうだよ!友達になって初めてのイベントだよ!それとも、孝太は遊びたくなかったわけ!」



 遊びたくないかと聞かれれば、決してそういう訳では無いが、男女が二人でクリスマスに遊ぶというのは、少しは躊躇うものなのではないだろうか。

 いくら友達同士だと言っても、さすがにクリスマスまで一緒に居たら、カップルだと勘違いされる。

 眞知としても初めての友達で、そういった距離感が分かっていないのだ。



 「さ、さすがにクリスマスで二人っていうのは……」


 

 そう言うと、ようやく意味が分かったのか、眞知も恥ずかしそうに顔を赤らめる。



 「今更恥ずかしがるなよ!」


 「だ、だって!孝太が変なこと言うから!」


 

 眞知に釣られて、孝太の顔もほんのり赤くなる。

 そんなやり取りを見た周囲の人達がコソコソと何か言っている。



 「朝からギャルと陰キャがイチャついてるぞ」

 「あの二人って付き合ってるのかな?」

 「正反対カップルじゃん」



 そんな声が聞こえてきて、二人はより恥ずかしくなる。

 話題を逸らすためにも、孝太は一度咳払いをする。



 「どっちみち、俺もクリスマスはバイト入ってるから、帰ってなくても遊べなかったぞ」


 「何でクリスマスにバイト入れてんのさ!」


 「いや、シフト出したの先月だし」


 「普通クリスマスってのは、二日とも空けとくものでしょ!」


 「何のために?」


 「それはもちろん、ガチャのためでしょ!」



 眞知はスマホを突き出して、ゲーム画面を見せてくる。

 


 (そこはオタクなのね)



 眞知のオタクっぷりを見て、何だか孝太は安心する。



 「クリスマスガチャはクリスマスに引かないと!」


 「安心しろ、そのために25日は空けている」


 「なんだ〜、それなら安心だ!」



 こんなバカなやり取りを朝からしている二人を周りは不思議そうに見ていたが、孝太としては、こんな風に話せるのが案外楽しいと感じていた。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 「越島君、ちょっといいかな」



 学校が終わり、帰宅しようとすると、クラスメイトの一人に呼び止められる。

 珍しい事もあるもんだと思い、そのクラスメイトの方を見て、嫌な予感がした。



 「ちょっと話したい事があるんだけど、時間いいかい?」



 話しかけてきたクラスメイトの名前は、村元(むらもと) 翔太郎。

 蓮花高校で唯一の強豪であるバスケ部に所属していて、一年でレギュラーに選ばれているイケメンだ。

 その実績と容姿から、女子人気は非常に高い。

 それに加えて、誰から見ても性格が良く、男子にも好かれている。

 さらに言えば、鈴華に一番近い男子と言っても過言ではなく、鈴華と常に居るグループの内の一人だ。


 そんな絵に書いたような陽キャから話しかけられ、孝太の心臓は跳ねる。

 こんな事は今まで無かったし、何かやらかしてしまったのかと怖くなる。



 「えっと、実は今からバイトで……」


 「ほんの少しでいいんだ!ダメかい?」



 嘘をついて逃げようと思ったが、本当に申し訳なさそうな顔をして頼んでくる。

 ここまで紳士にしてくれているのに、無視できるほど孝太は勇気がなかった。



 「分かった。ちょっとだけなら……」


 「ありがとう!ちょっと場所を移してもいいかい?」



 その提案に乗り、二人は中庭にあるテラス席のように設置された席に自販機で買った飲み物だけ持って座る。



 「ごめんね、急に呼び止めたりして」


 「それはいいんだけど、話って?」


 「実は、鈴華のことなんだけど」


 

 その名前が出てきて、一瞬ドキッとするが、雰囲気的に孝太との関係がバレたという訳ではないと直感し、孝太はその場を離れず続きを聞く。



 「実は俺、鈴華の事が好きなんだ!」


 「……そう、なのか」


 「あれ?驚かないの?」


 「いや、まあ、驚いてはいるんだけど……」



 正直、どう反応すればいいか孝太には分からなかった。

 翔太郎が鈴華を好いていると、もちろん孝太は知らなかったが、仲の良い陽キャグループの男女で、そういった話が出ても、王道すぎて孝太は納得出来てしまった。



 (むしろ、もう付き合ってるような距離感だろ……)



 鈴華と話す時は孝太も突っ込まないが、鈴華達は男女関係なく触れ合ったりしており、傍から見れば付き合ってるようにも見える。

 そんな場面を見ていて、実は好きでしたと聞かされても、反応に困る。

 驚いているだけ孝太は反応できた方だろう。



 「それで?南沢が好きだからって、俺に言ってどうすんだ?」


 

 本題はそこだ。

 何故その事実を孝太に言わなければならなかったのか。



 「それはね、明日のクリスマスパーティーで、鈴華と二人きりなる時間を作りたいんだ!その方法についてアドバイスして欲しい!」



 翔太郎は無理承知でお願いした。

 話したこともないクラスメイトからのお願いを一方的に聞いてくれだなんて図々しいにも程があるからだ。

 翔太郎は孝太からの返事を待つ。

 そして、孝太は口を開く。



 「……クリスマスパーティーって何の話?」


 「……え?」



 男二人の間に、気まずい静寂が流れた。

 

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