婚約者の末路。
王子、実は只の馬鹿ではなかった場合。
ガナブノ王国学園の卒業パーティーでダーオ 第一王子は、主席卒業者のエカテリーナ エピテンス公爵令嬢を名指して呼び止めた。その傍らには震えている小柄で可愛い感じのドレスを身に纏った令嬢がエスコートされていた。立ち位置は非常に近く、殆ど抱きしめているかのようだ。
そして周囲の驚きもさめぬ中、ダーオは宣言した。
「エカテリーナ。お前は公爵令嬢で後継者と言う立場を鼻にかけ、周囲の人々を不快にした。特にカレン男爵令嬢に対してはいじめている。それ以外にも俺に対する態度はなっていない。俺をたてていない。そのような心根の女とは結婚出来ない。故にダーオ ガナブノはおまえと婚約破棄する。そしてカレン男爵令嬢と婚約する」
エカテリーナ エピテンス公爵令嬢は、揺るぎない微笑みを浮かべていた。しかし、その瞳は笑っていない。彼女は優雅に答えた。
「しかし、私たちの婚約はエピテンス公爵家とガナブノ王家との契約にのっとったもの。私たちだけでは決められるものではありませんわ。国王夫妻には相談なされたのてすか?」
ダーオは高らかに笑う。
「愚かもの。そんなものなくとも問題ない。おまえみたいな役立たずなやつはいらん」
カテリーナは眉をひそめて扇で顔を隠す。しかし、その内面は怒り狂っていた。成績は普通で遊びまくっているバカな王子。よく考えたり、周りの意見を聞いていたら自分がどんなに危険な状況か分かるはずなのに、と。そのくせ
学園首席の私を馬鹿にする。
しかし、彼女はこの場では従順な態度を示した。婚約破棄される大歓迎だから。
「わかりました。この場では確答できませんが、婚約破棄、承りました」
「ああ、物分かりいいな。そうだ、お前は見栄えはいいし、学校の成績だけは優秀たったな。事務要員か妾位なら側においてもいいぞ」
エカテリーナは怒る。とは言え、王太后教育の賜物、外見はにこやかに返事をする。
「その辺りにつきましては日を改めて」
「いや、それには及ばんよ」
そう言って現れたのはガナブノ王国国王夫妻。ダーオの両親てある。となりにはエピテンス公爵夫妻もいる。
「ダーオ、お前はカテリーナ公爵令嬢との婚約を破棄したい、間違いないな」
喜色満面な笑みを浮かべるダーオとカレン。ダーオは笑って答えた。
「はい、この女では、この国の未来は任せることができません。第一、私との関係を改善する気が全くありません。それでは国母には相応しくない」
この言葉にワーガ国王はため息をついた。
「お前は学問も武術も磨かず、礼儀作法もなってない。いつも得体の知らない連中のところにに遊びに出かける。それどころかエカテリーナがお前を、諌めようとするのを聞かないどころか一緒にサボろうとしたではないかわしかもそいつらの所に連れて行こうとしたではないか」
ダーオは胸を張って答えた。
「ああ、アイツラいい奴らだからな。エカテリーナもなかよくなってほしかった。この国の未来のために。結局理解してもらえなかったがな。まあ、この役立たずはそんなことしてはいけませんの一点張り。それに対してカレンはこんな俺に付き合ってくれた。視野の広さには、それだけでも国母の価値がある」
国王はため息をついて小さく呟く。
「あのごろつきどものことが。情けない」
そして公爵夫妻に囁きかけた。
「すまん、私は失敗したようだ。迷惑をかける」
「わかった。では、予定通りに」
公爵の言葉をうけ、国王は大声で宣言する。
「では、本日これからをもってダーオとエカテリーナ公爵令嬢との婚約を解消する」
ダーオ王子とカレン男爵令嬢は喜んだ。
「ありがとう、父上。いや、話のわかる親父だ」
「お父様、ちゃんとこの国を守っていきます」
ダーオは喜んだ。カレンは笑顔で国王のことを父と呼ぶ。
「そしてダーオは廃嫡、男爵家に入り婿となる。王太子として第二王子のマーイを王太子とする』
ダーオは喚いた。
「何言ってやがる親父! マーイなんかにこの国を任せることなんかできない。バカか」
暴れるダーオ。その様子に国王は呆れた。
「そんな短慮でこそ国を預けられん。それにその女、お前をいかがわしいところに連れ込んだ。それだけでも国母などなれん」
「そんな、酷い。わたし、ただダーオ様をみんなに紹介しただけなのに」
国王は合図した。そしてダーオとカレンを近衛に拘束させる。
「お、親父、何をする」
「お前は何をするかわからん。ただでさえ短慮。小奴らを貴族牢へ連れていけ。目を離すな」
近衛は二人を力ずくで連れて行く。二人は大声で怒りながらも会場の外に連れて行かれた。
「エカテリーナ嬢」
眉目秀麗で柔らかな雰囲気のワーガ第二王子、いや、ワーガ王太子がエカテリーナの前にひざまずく。そして手を差し伸べた。
「以前からおしたい申し上げてました。しかし、兄の婚約者であったためあきらめてました。しかし、婚約破棄されたからには私と婚約して下さい」
エカテリーナははにかんで手を取る。そう、あの粗暴な馬鹿者とは全然違う。ときめきを感じる。
「私もあなたのお人柄は好ましく思ってました。ダーオ様は荒々しくて。喜んで婚約承ります」
周囲から歓声が上がった。
「いや、めでたい。この国を担う若い二人に祝福を」
国王の言葉にその場の高位貴族は祝福の言葉をかける。
それを見ながら国王は公爵夫妻に声をかける。
「長いこと済まなかった。あいつも心を入れ替え真面目になると踏んでいたのだが」
公爵夫妻はそんな国王を慰める。
「いえ、私達もダーオ殿下が立ち直ってくれると信じてましたから。王妃殿下があの様な事故でお亡くなりにならなければ」
国王は力なく首を振った。
「それでも本人が立ち直る気がなければ意味はない。幸い弟が優秀だからな。何とかなる」
公爵夫妻も頷く。
「勤勉で人当たりも良いですから、皆の評判もよろしいようです。いい国王になりますよ。この安定した世の中なら」
「そうだな。帝国も他の五大王国も安定し、平和だ。あの様な頭が悪い乱暴者は要らん」
「しかし、問題はなくなりました。今はあの二人の幸せと国の安定を願って祝福しましょう」
そして、国王と公爵夫妻が見守る中、宴は盛況のうちに幕を下ろした。
そして一週間後。
エカテリーナとワーガは王宮のテラスで二人座っていた。婚約者として既に三回目の茶会。高級茶と菓子を前に二人はくつろいで話し合っていた。国のことや外交のことなどを話しては笑っている。楽しげに。
ここでワーガ王太子は苦い物を飲み込んだ様な顔をする。
「兄上は、そろそろ出発する頃合いだね」
ダーオは王籍を剥奪され、辺境の男爵領に送られた。王命に反したとは言え、大きな罪はないとされたためである。カレン男爵令嬢や側近たちとともに行くことになる。
「そうですね。仕方ありません。あの人は私の言う事を何一つ聞きませんでした。そのくせに自分の言う事は聞けと。国の行く末について。あの人は他の国をすべて滅ぼす、世界を統一するとか言ってました。その算段はあると虚言を吐いて。少し考えれば無理だと言う事は分かるのに。世界は各国の協力のもとに安定していますからね」
軍事力に於いては各国いろいろだ。しかし、この世界には魔法がある。そして魔法能力を取り込み続けた各国の王族、貴族はその能力において高い品質を維持している。特に強力な魔法を使わせれば一人で一軍を壊滅させることが出来ることになっている。そのため、戦争などしたらその被害は計り知れない。故に戦争などは起こらない、いや、起こせない。
「そうですね。今、帝国と五大王国は安定した平和を維持してます。多少の無理はしてますが。このまま行けば国力も上がりますし、魔物の被害も減ります。まだまだ問題はありますが、私達ならきっと成し遂げられます」
「そうだね。そのとうりだ。やっぱり貴方は素晴らしい。先の事を良く見通している。僕はその貴方の聡明さに心を奪われたんだ」
エカテリーナはニッコリ笑う。そして、少し照れながら言った
「ワーガ王太子は穏やかでそれでいて芯があるところが、わたし、その、良いです」
「ワーガと呼んでほしい」
「え、」
こちらも照れながらワーガが話す。
「妻になる方には、その、名前で呼んでほしいのですよ」
「まあ」
どちらも照れて微笑む二人。それを周りのお付きの者は微笑んで見ている。
そんな穏やかな場面に突然騎士たちが乱入してきた。近衛の騎士。彼らは鎧をつけていた。指揮官とみられる騎士は血塗れの鎧姿で報告する。
「王太子! 無礼をお許し下さい。王家に対する反逆が起きました! 王、そして公爵が討たれました。今も戦いは紡いています!」
「なに? 詳しく説明しろ」
「はっ!」
ワーガ王太子は表情を険しくして近衛騎士に近寄る。
近衛騎士はワーガの首を刎ねた辺りに鮮血がばら撒かれる。
「いやあぁぁぁぁぁぁ!」
エカテリーナは叫んだ。騎士たちは周りの護衛や侍女達を切り結び、または捕縛していく。
そんな中、叫んでいる彼女の前に、ワーガの首を落とした騎士が立ちはだかる。血塗れの騎士は兜を取った。
その姿にエカテリーナは一瞬呆然とし、それから怒鳴りつけた。
「なんで貴方がここにいるの! ダーオ」
血走った鋭い瞳のダーオがそこにいた。
「やあ、王家を乗っ取ろうとした公爵家の令嬢。国王弑逆の罪で極刑に処す。さよう心得ろ」
剣を突きつけるダーオにエカテリーナは怯む。
「……な、何を言ってるの! どうせあ、貴方がやったのでしょうか!」
「ああ、そのとおり」
ダーオは凄絶に笑った。そして真顔になる。
「このままでは王国は駄目になる。だから軟弱な父もワーガも退場してもらった。ついでに公爵夫妻も」
その意味を理解して彼女は顔を青くした。
「なんで事を。貴方正気?」
「いたって正気だよ」
ダーオは血塗れの剣を弄びながら答える。
「少なくとも、このままでは王国に未来はない。モラルなく、ただただ礼儀作法とか言う虚飾に塗れる貴族。その下で家畜となる平民。ただただ平和の名のもとに腐っていくだけだ。国同士の協調が、とか言っているが、百年前の条約を後生大事にとっておいているだけ。魔物の脅威もどう考えているのか?」
「ま、魔法使いがいれば倒す事はできます」
「ああ、そうだ。しかし魔法使いは少なく、魔物は増えてきている。しかし、貴族でなければ魔法は学ぶことはできない」
「それは当たり前です。貴族は魔法を使うための人種です。そうでなければちゃんと魔法は使えない」
「ではないんだよ。学べば才能の差こそあるが、魔法はだれでも使える」
「え」
「何故学園に平民を入学させるようになったのか分からないのか? 魔法は、実はだれでも使えるのさ。能力の差こそあるが」
「そんなわけありません。確かに平民が魔法を使えるのでしょうが、わずかな数。だから学園に入れる」
「逆だよ。なるべく魔法が使える人間は少ない方が良い。なるべく貴族で独占したいからな」
ダーオは剣をエカテリーナに突きつける。
「そこで男爵領を中心に魔法を平民に教えた」
「そ、それは禁止されてます。暴走したら危険だから」
「ほとんど暴走しなかったぞ。むしろ魔力量が多い方が暴走する」
「そ、それならば」
「多くの高位貴族、いや、王家だな。秩序が必要だということで魔法知識の拡散を防いでいたのだよ」
ここで、ダーオは真面目な顔をする。
「エカテリーナ。お前はどうする?お前の事務能力は買っている。もし、事務職ならばお前を使ってやる」
「私の魔力とか、魔力量とかではないのですか?」
「強力な魔法や魔力は使うのに難しい。細かい操作が出来ん。威力もけた外れ。制御できるならともかく、今のままなら要らん」
「なら、父、母、王子の敵!」
エカテリーナは魔法を詠唱する。戦略レベルの強大な炎魔法。辺り一面を焼き払うに十分な火力を持つ。
が、発動するまでにエカテリーナの首が飛んだ。強大な魔力は無残する。
「愚かだな。新しい時代が来ているのに気づかずに貴族だなんだにしがみつきやがって」
剣を振り、血のりを払って振り返り歩き出す。
「学園があること自体が変革の証しだと言うのに」
ダーオはクーデターを起こし国を乗っ取った。そして魔導士部隊を中心とした軍制に変更した。ダーオは他国を制圧し大国を作り上げる。しかし彼が志半ばで戦に倒れたあと、より大きな混乱が起こり、乱世となった。この時代において国や民族、
文書や建築物、土地が失われ、暗黒の世と呼ばれることとなる。
人の世が安定するには千年かかったのであった。
モデルは織田信長。魔物の襲撃なんかもあり、世界はより混沌へと向かうこととなった。と、いう設定。
貴族の世界が素晴らしい、と、いうほとんどの作品に対してのアンチテーゼのつもり。世界が崩壊しかけたけどね。




