天下一麺料理大会で優勝したのは主婦だった
今年も天下一麺料理大会が開かれた。
毎年、世界中から腕利きの料理人が天下一闘技場に集い、味を競う。昨年の優勝者はいなかった。
審査委員長のボサノヴァ・猪頭はその審査眼が厳しすぎることで知られている。彼の寸評はいつもイチャモンレベルだ。
やる気をなくして大会出場を辞退する料理人が多い中、今年も世界各国から七人の命知らずなやつらが集まった。
「さぁ、始まりましたよ、解説者さん」
「よろしくね、実況者さん。まずは参加者の紹介ですね」
「まずは中国代表、楊・麺麺!」
「陽春麺の使い手です。私は食べたことないのでどんな麺なのか解説できませんがチャイナドレスがかわいいですね」
「ドイツ代表、フリードリヒ・ハラヘルム・タダノバカ! このひとは名前の通り、ただのバカです!」
「なぜ出場したんでしょうね」
「トルコ代表、ワイルド・ターキー!」
「バーボンウイスキーの名前ですね。安易な……」
「フランス代表、ジョルジュ・ボンジュール!」
「フランス語の挨拶なら『コマンタレブー』のほうが私は好きですね」
「ロシア代表、将軍ポチョムキン!」
「名前に似合わずイケメンの軍人さんです」
「アフリカ代表、ドコノク・ニヤネン!」
「アフリカって国名じゃないですからね」
「そして我らが日本代表、大久保奈代子さん!」
「えっ……? ちょっと待ってください」
「どうしたんですか解説者さん?」
「あのひとって……どう見ても料理人というよりは……」
「そうです。大久保さんは、主婦です」
「えええーっ!? 主婦がこんなところ出ちゃっていいんですか?」
「大丈夫です。タイトル通り彼女が優勝しますから」
「タイトルでオチバレ!?」
「あっ! 早速今回の大会のお題が発表されましたよ?」
「どれどれ」
【お題】ありあわせ麺料理
「そして今、冷蔵庫が開けられました!」
「さっきから闘技場のど真ん中に置いてあるあの冷蔵庫、気になってたんですよね」
「中身は……ああっ! 業務スーパーで18円で売っている袋中華麺が山のように……!」
「他には焼豚、メンマ、ポテトサラダ、マヨネーズ、紙パック入コーヒーゼリー、桃まんじゅう、チョコもち……すべて業務スーパーの商品ですね」
「各料理人が激怒して色んなものを投げはじめました」
「やってられっか!」
「バカじゃねーのか!?」
「こんな食材でまともな料理作れるわけねーだろ!」
「ハハハ……日本人はジョークが好きですね。え、ジョークじゃない? タヒね」
「ポチョムキン! ポチョムキンー!(怒)」
「ばほ、ばほ、ばほ!」
「各国代表選手が次々とやる気をなくしていく中…おっと! 大久保選手がテキパキと料理を始めましたよ!?」
「動きに迷いがありませんね」
「おおっと! ありあわせの材料と業務スーパーの調味料であっという間に一品完成させたー!」
「こ……っ、これは……!」
「解説をお願いします、解説者さん」
「マヨネーズとチョコもちにコーヒーゼリー風味を利かせ、焼豚もなんと具ではなくスープの出汁に利用していますね。具はメンマ、ポテサラと桃まんじゅう。そこに業務スーパーの中華麺を……ああ、これはそのまま使うのではなく、油で揚げてこってりさせてあるんだ!」
「各国の料理人たちがバカにして笑います」
「どんだけハイ・カロリーなんだヨ」
「旦那の身体、ちょっとは気遣え」
「しかもひどいゲテモノ料理ネ」
「これだから素人は」
「ポチョムキンww」
「ぷは、ぶはwww」
「さぁ、審査委員長の試食です」
「これはイチャモンではすまなさそうですね」
「む……うっ!?」
「あーっと!? 審査委員長の顔つきが変わったぁー!」
「どんなひどいことばが飛び出すんでしょう? 逃げて奈代子さん!」
「……うましッ!」
「あーっと!? まさかの『うまし』が飛び出したぁー!」
「100年に一度しか出ないという、審査委員長の『うまし』が!?」
「確かに……味は、めちゃくちゃなありあわせだ……がッ!(ぶわっ)」
「あーっと! 審査委員長泣きだしたー!」
「懐かしいッ! ワシが子供の頃、お袋がありあわせでいつも作ってくれた名もなきおやつの味を思い出させるッ!」
「なるほど! うまいものはさんざん食い飽きている審査委員長も、『お袋の味』には弱かったということですね?」
「展開がめちゃくちゃですね」
「……と、いうことで、優勝者は主婦の大久保さんです! 意外なことに!」
「他の人、料理してませんからね」
「では優勝者にインタビューしてみましょう! 大久保さん、今のお気持ちは?」
「いっつも彼にぃ、ありあわせで作ったものを食べさせてますからぁ、こういうのは慣れてるんですぅ〜。それにしても、わ、わたしなんかが優勝しちゃっていいのぉっ? キャハ!☆」
「意外にキャピキャピ系の奥さんでしたね」
「意外でしたね」