異星人発見
序章 異星人発見
とある街の低層マンション。地下から伸びるそのマンションの58階の580号室にタトモは住んでいる。
タトモと呼ばれている彼は、ブラウン管テレビのチャンネルを回しながら、整髪剤をたっぷりと塗り込んだ頭髪を光らせている。毛に溶け込まなかった飽和状態のジェルは、毛先から半透明の雫となり、自身の肩やフロアに滴っている。その床の整髪剤で足を滑らせるのが彼の日課でもある。
そんな彼に招かれ対面に座っているのは、カセイと呼ばれているタトモの友人。ポロシャツの襟を立てており、その襟のせいで視界が前方に限られている。
「とはいえ、今日も平穏だねェ」
焦げたトーストの表面を削り落としながらタトモは呟いた。招かれているカセイは、削り落としたトーストの焦げを持参しているストローで吸い上げる。
「にんぬふェ」
ニュース番組に目を向けていると速報のニュースが飛び込む。キャスターは慌てながら、慌ただしく手渡された原稿を読み上げる。
「速報!速報!宇宙探索を行っているクリストフ隊から連絡がありィ!宇宙探索を行っているクリストフ隊から連絡はありィ!読み上げます!“クリストフ隊から速報をご覧いただいている皆々様へェ!ついにエイリアンを発見したァ!”」
宇宙オタクのカセイが目を見開きテレビの音量を上げる。
「なんとゥ!宇宙人発見ッ!?」
「クリストフ隊から映像が届きましたォ!ご覧くださいゥ!」
テレビの映像が一瞬乱れるが、クリストフ隊の隊服を身につけたメンバーがエイリアンとコンタクトを取ろうとしている様子が映し出される。
「落ち着けェ!落ち着けュ!我々はクリストフ隊!」
「ぬにゃらぬんにょよ!」
クリストフ隊は、未確認生物に対して武器を下すように説得している。エイリアンは、急に訪れたクリストフ隊に警戒しながら彼らの言語で威嚇している。
「ダメだィ…翻訳ツールを起動しろゥ!」
「どぅげらぬいひゃ!ちゅいきょんぴょぴょんぴゅ!われりん」
隊員は周波数を合わせるようにダイヤルを調整して彼らの言葉を自動翻訳しようとしている。
「ぬぎるんで、じょぎょんぎぇには何だ!どこから現れた!どこの国の者だ!それ以上近づくな!攻撃の許可は出ている!」
「待てァ!落ち着いてくれぅ!我々に攻撃の意思はないょ!」
「信頼できない!何者だと聞いている!」
「我々はクリストフ隊だぇ!攻撃はしないぅ!友好関係を築きたいゃ!君たちの名前はっ?この惑星の名前を教えてほしいぅ!」
武器を下すことはなかったが、宇宙人側のリーダーがクリストフ隊長の前に現れる。隊長を睨みつけ、見慣れない翻訳機器や、隊員の容姿、クリストフ船に興味を示しながら宇宙人のリーダーは口を開く。
「クリストフ隊…友好関係を築きたいと言ったか?」
「そうだぉ…君たちの名前やこの惑星の名前を知りたいぁ」
クリストフ隊員らの額に流れる汗が重力に従い、顎から地面に滴り落ちる。エイリアンは口を開いて目の前に攻撃の意思はないと両手をあげるクリストフに告げる。
「ここは地球だ…地球の日本という国だ…」
その瞬間を目撃したカセイは、興奮を抑えられず、背中の翼を大きく開き、タトモの部屋のバルコニーから大きく飛び立った。
異星人発見 終