第二章第四幕
「瑞樹、手紙ってなんだったの?」
「――っ?」
いきなり後ろから声を掛けられ、驚いて後ろを向く。
「あ、驚かせちゃった?」
「いきなり声掛けないでよ」
夢幻のソラ 第二章第四幕
背後に立っていた怜美に思わず突っ込みを入れたせいで空気が微妙に和んでしまったが今はそんな暇は無い。
それより手紙だ。この全魔術協会日本支部第三分局長から一介の魔術師である僕に送られてきたこの手紙について考えるのが先決だ。
「怜美、この手紙ってどういう意味だと思う?」
書かれていたのは過去の神憑についての研究文のみだった。
その内容が指すこと、判るような気もするが確信が持てないでいるんだな。
「…あのイザナミっていう子のことかなぁ?」
「やっぱりそう思う?」
やはりイザナミのことを指しているらしい。
イザナミ、今まで出会った人憑の中でも最強と呼べる理由、それが神憑だったわけか。
「じゃあ、レンにも伝えておいとこうかな」
そう言って席を立とうとした瞬間、
「おーい、帰ったぞー」
玄関のほうから声がした、間違いなく父さんの声だ。
「瑞樹ちゃんいる?」
続いてソプラノボイス。コチラは母さんの声。
ということは昨日僕らを呼んどいて、本人たちが一晩空けて帰ってきたわけだ。何を考えているんだろうか。
…
うちの親は、実の子の僕から見ても謎の多い人たちだった。
そのうちの一つがそう、職業だった。
うちの家計はしっかりと成り立っているので少なくともどちらかが働いているのは事実。しかし、どちらが働いているのか、何をしているのかなどは全て分からない。
「いや、実は仕事が長引いちゃって」
そんな父さんが仕事の話をしたのは初めてだった。
「まあいいけど、そういえば何の仕事してるの?」
極一般的な興味からわいた疑問。
「うん、まあそろそろ話してもいいかな、瑞葉?」
「いいでしょー」
軽い性格の母さんとなにやら相談をしている模様。
そして、
「僕と瑞葉の仕事は――魔術師だよ」
「…魔術師?」
「んー、そうだけどお母さん的には怜美ちゃんとの関係がどうなったかの方が気になるなー」
何故そっちへ話を持っていくんだ。
「母さん、それは向こうの部屋で怜美にでも聞いててよ」
尤も、聞いてほしい話ではないんだけどこの際はしょうがない。
「わかったー、じゃあ怜美ちゃん連れてくねー」
「ええ?瑞樹ー!?」
連行されている怜美を見送りながら父さんに聞く。
「で、魔術師ってどういうこと?」
「魔術師、瑞樹もそうだよね」
そういう父さんには小さいころから魔術師であることはずっと隠し通してきたんだけど。
小さいころはパンドラの箱を開けてしまった気がして、今は信じてもらえないと思って。
「…何でそんなこと知ってるのさ?」
「だって僕は――」
◇
視界に入った二人。
“彼女”の力を借りるまでも無く私自身の本能が関わってはいけないと警告を発している。
何か危険な異常者か強力な魔術師か。とにかく危険な二人組だ。
私が本気を出せば倒すことは可能かもしれない。しかし私の力の特性上あまり派手な戦闘を行うと危険な目に遭うのはわかっていることだ。そんなリスクを負うぐらいならこのまま様子を見ているのもいいかもしれない。
そしてもう一つの理由。
それは――二人が私の両親だからだ。
◇
「ねえねえ怜美ちゃん」
前に嬉嬉とした表情でいる瑞樹のお母さん。一体何をするの?
「うちの瑞樹ちゃんとどんな関係?もう付き合ってるの?」
コイバナ?
でも付き合ってはいないから首を横に振っておこう。
「じゃあどんな関係なの?友達以上恋人未満って感じなの?」
「うん、そんな感じ」
そんな感じじゃないかと思う。でも瑞樹の気持ちはわからない。
「ふーん、じゃあもう結婚直前っていう感じかな〜」
「…けっこ…ん」
顔が赤くなってる気がするよ〜。
「だってそうでしょ。瑞樹ちゃんもまんざらじゃない感じだよ」
「えぇっ、そんなぁ〜」
「いっそプロポーズしちゃいなさいよー」
「プロポーズぅ!?」
さっきから押され気味な気がするよ〜
「なるほど、なるほどー」
何か悟ったような瑞葉さんの顔。何を考えているのか考えたくない…
婚姻届がどうだとか言っているのも気のせいだよね、ははは…