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夢幻のソラ  作者: .png
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第二章第二幕

「ふぅ、やっと着いた」

暗闇の中疾走してきた甲斐があった。どうにか夜明け前、といってももう薄日は差し込んでいるがここに着くことができた。

私としてはもう少し早く着きたかったんだけど意外と追手が多かったから・・・と、隠れなきゃ。もうそろそろ夜明けだ、見つかったら大変なことになってしまう。

・・・よし、暫く“彼女”は休んでてもらおう。そのほうが私の身を守れる、そして彼も私のことには気が付かないだろう。




  夢幻のソラ  第二章第二幕




「―― 一体君は何者なんだ?」

暗闇の中、目の前の少女に問いかける。

「・・・・・」

しかし目の前の少女は静かに口元に妖しい笑みを浮かべ笑っただけだった。

目の前の少女、銀色の髪を持って黄金の眼した少女イザナミは、一言も言葉を発しない。

「君は僕の何を知っているんだ?」

「貴方も覚えているはずだよ。私のこと」

表情を変えずに淡々と話すその表情は暗い。そのせいで彼女がどのようなことを考えているのかさえ分からない。逆に彼女が何も考えていないかのような錯覚に陥ってしまいそうな感じもする。

「いや、僕は君のことなんて覚えてない。そもそも知っても無かったはずだ」

「・・・そう」

そう静かに呟く彼女はどこか悲しげな、儚げな雰囲気を纏っていたような気がした。

「覚えてないのね、■■■」

何、だって・・・、何故か聞き取れなかった・・・。

「ちょっと、今なんて・・・」

彼女に問いかける。しかし彼女はこの問いに答えぬまま消えるように去っていった。

何故か去り際に一瞬、彼女の髪が黒く見えた。そんな気がしたのは気のせいだったのか。



     ◆



「――ッ!?」

飛び起きた。まだ心臓が激しく音を立てているのが感じ取れる。

夢から覚めたようだが残念ながらまだ朝ではないようだ。窓を通して見る空はまるでツクリモノのような漆黒の空だった。

・・・少し気を沈めるためにも散歩をしてこよう。



     …



「随分と久しぶりだな」

この道を歩くのは二、三年ぶりか。昼間でも随分と鬱蒼としていて怪しい道だから、夜ともなると妖怪や魔物が出てきてもおかしくないような道になってしまっている。

・・・まさか本当に魔物と言うか異端や人憑の類が出てこないだろうな。ちょっと不安になってきた。一応レンを召喚できる準備ぐらいはしておこう。

その時

――ガサ・・・

「ッ!?」

右の林から小さな音がした。普通の動物かもしれないが一つ違和があった。一瞬黄金の光が見えたのだ。

どうやら向こう、恐らく人憑は、まだこちらに気が付いていないらしい。すぐさま呪文を詠唱し、レンを召喚する。

「どうしました、マスター」

「いや、あの林の中に人憑がいるかも知れないから」

「成程。人憑ですか」

「まあ、ただの動物かもしれないけど」

「ふむ、でも用心に越したことはありませんから」

レンは弓を僕の指差した林へと向ける。・・・そんな真剣な顔しなくてもいいと思うんだけどな、動物かもしれないんだし。

・・・・・。

・・・・・。

「・・・どうやら行動を起こす気は無いようですね。私たちも引きましょうか。無駄な戦闘はこちらの体力を削るだけです」

「そうだな」

「一応このままの状態でいますから、有事の際は対処できますので」

「うん、頼むよ」

戦力になってくれるレンがいるだけでも心強い。僕は攻撃魔術を使いたくないから、あんなことはもうゴメンだ。

「マスター、そんな顔してどうしました?」

「あ、いや、何でもないよ」

「そうですか。あまり顔色が優れないようでしたので」

「本当になんでもないから大丈夫だよ」

「そうでか・・・と、誰か来ます」

「ん・・・本当だ」

前方から少女が一人歩いてきていた。きっとこのあたりに住んでいる人だろう、見たことが無いから最近引っ越してきた人か?

「あ、こんばんは」

「こんばんは」

「こんばんは」

その少女は黒い髪と黒い瞳をした何の変哲も無い普通の少女に見えた。それにしてはこんな時間に徘徊しているのはおかしい。まあそれは僕たちもなんだけど。

「こんな時間に外を歩いてちゃ駄目だよ。まあ僕も人の事を言えないんだけどね」

「・・・あ、ごめんなさい。それとどちら様ですか?」

「ああ、僕は佐上瑞樹。で、彼女がレンだ」

「佐上・・・あ、そこのお屋敷の人ですか。それじゃあ、おやすみなさい」

「ああ、おやすみなさい」

そう言って歩いている少女の背中を眺めながら、なにやら引っかかることがあった。

「レン、あれは人憑だった?」

「いえ、違うと思いますが」

「そう、よかった」

なら、この違和感の正体は何なんだろうか。

・・・あ、名前聞いてなかった。



     …



「ぁ・・・瑞樹・・・」

「怜美?」

家に帰ると何故か目を赤く腫らした怜美が待っていた。もしかして泣いていたのかな?

「また瑞樹が帰ってこないのかと思った・・・」

「・・・そう、ゴメンな」

“また”帰ってこなくなる、ね。

「うぅ゛・・・みずきぃ・・・」

「っと・・・ゴメンな怜美」

「ぇ・・・瑞樹?」

泣いている怜美を優しく抱きしめる。怜美が困惑したような声を上げるが今回は無視だ。

「大丈夫。もう、いなくなったりはしないよ」

「ぅ、うん・・・」

彼女が弱々しく返事をする。

「大丈夫、大丈夫だからね」

僕はただ、彼女を静かに抱きしめていた。



     …



「寝ちゃったか」

しばらくそのままでいたら、怜美が静かに寝息を立てていた。目は真っ赤になっているけど幸せそうな表情だからよしとしよう。

「よいしょ、っと」

彼女を抱き上げ彼女の部屋へと運ぶ。レンは家に帰ってからすぐに寝るとかなんとか言い出して寝てしまっていて、召喚し続けている意味は一体何なんだろうと思うが、こんなお姫様抱っこしてる姿を見られるよりはましだろう。

「それじゃ、おやすみ」

彼女は聞いていないだろうけど静かに挨拶して部屋に戻った。

何だこいつら、ラブラブしやがって。

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