第二章第一幕
バイクを飛ばす。そして並走しているのは怜美だ。彼女は僕がバイクの免許を取ったときに一緒に取る、といって免許を取ったのだ。
今、僕たちが向かっているのは絹乃杜市の実家。近くに駅が無いので通行の足は自動車やバイクなどになる。それで僕たちはバイクに乗っているのだ。
何故実家に帰っているのかといえば先ほど黄空さんが放った言葉、それが原因だ。
夢幻のソラ 第二章第一幕
「瑞樹君、君には妹がいるんだよ」
この言葉を聞いたとき僕は驚きのあまり立ち上がっていた。僕は一人っ子だし親もそうだって言っている・・・いや、言ってはいないな。しかし妹のことなんて聞いたこともない。
「黄空さん、何の冗談ですか?」
僕の中の結論は冗談となった。
しかし、黄空さんの返答は予想を大きく外れたものだった。
「残念ながら本当だ。君のお父さんも証人になってくれるはずだよ。
それと怜美クンもね」
お父さんと怜美が証人になるってどういうことだ?
ふと怜美の方を向くと困っているような驚いたような複雑な表情をしていた。
「怜美、それって本当?」
「う、うん。瑞樹は覚えてないと思うけど・・・」
僕が覚えていないのに・・・皆が知っている?記憶喪失、いや違う。記憶欠落か?じゃあ何故?
「瑞樹君、一回実家に帰って聞いて来たらどうだい?」
「今から・・・ですか?」
「ふむ、そうだな。どうせ大学も休むんだろう?」
流石黄空さん、と言うべきか。きっとこのことも全て考えた上で呼んだのだろう。全て彼女の掌の上で転がされていたわけか。
「怜美も行ってみる?」
「うん、私も行く」
「それじゃ、黄空さん。さようなら」
そう言って黄空さんの事務所を出た。
◇
「君も中々巧く言ったものだね」
瑞樹君たちが帰ったあと、また彼は姿を現した。
「覗き見なんていい趣味してますね」
「残念ながらただの盗み聞きだよ」
「はぁ、同じものじゃないですか」
覗き見も盗み聞きも同じようなものだと私は思うのだが、彼の中では何かしらの基準が存在するのだろう。
「それで貴方は何故、こんなところに残っていたんですか?」
「ん〜、知り合いとしての責任?」
「そんな浅い関係じゃないでしょう、貴方と彼――瑞樹君は」
もっと深い関係があるはずだ。少なくとも知り合い、そんな浅い関係ではない。
「それじゃあ、上司?」
「巧い言葉を選びましたね」
上司、巧い言葉だ。
一応、彼は協会の上層部の人間であるからして協会に所属している瑞樹君とはその関係にあるのには間違いないであろう。
「褒めても何もでないよ」
「大丈夫です、何も欲しいとは思っていませんよ」
そう軽口を叩き合う。本当にこんなことしていいのだろうか・・・
「で、いい加減急がないと不味いんじゃないですか?」
「ん、どうして?」
「話を聞いてなかったんですか。言ってたじゃないですか、実家に帰るって」
盗み聞きしていたでしょうに、と心の中で付け加え、その代わりに溜息をひとつ。
「それもそうだね。それじゃ僕は今度こそ帰るね」
そう言って立ち上がる彼。そして帰っていく背中に私は一言語りかけた、独り言のように。
「――後はよろしくお願いしますよ、佐上樹分局長」
彼の肩が一瞬震えた、そんな気がした。
◇
周りには沢山の木々、そして日本家屋。間違いなくここは絹乃杜市だ。
絹乃杜市は市制を敷いてはいるものの、そこまで都市というわけでもなく自然の多い市である。まあ、そんなことは別に関係ないんだけどさ。
「ふぅ、やっと着いた」
「でも今日は空いてたから、結構早かったんじゃないのかな?」
「それもそうだね」
大学のある青山市から見ればここはかなり遠いところに位置している。まず青山市とは県が違っている。まあ隣の県なのだが。
「それじゃ、行こうか」
「・・・うん」
目の前にある日本家屋、つまり僕の家だ。その門をくぐった。
…
結論から言うと家の中に両親がいなかった。
次に浮かぶ疑問、は当然何故か、というものだがそれはすぐに判明した。なぜなら家政婦長(うちの家は何か長い歴史があるらしく家がでかくて家政婦も数人いるんだ)の苑田さんが何やら出掛けていると教えてくれた。
「で、どうする怜美?」
「どうしようね」
二人揃って苦笑い。それもそうだ、僕の両親に聞きたい事があってきたのに二人とも出掛けていたなんて想像もしなかったからね。
それにしても二人揃ってどこに行ったのだろうか、まさか旅行じゃないだろうな。そんなことだったらかなり面倒なことになる。
「瑞樹様、お茶と受け菓子を持ってまいりました」
と、この状況を打破するかのように部屋に入ってきてくれた、感謝。
「ん、ありがと」
苑田さんの入れてくれるお茶はいつも美味しい。そういえばお茶菓子は手作りらしいし。苑田さんは万能だな、本当に感謝しなきゃな。
怜美も美味しそうにお菓子食べてるし、親がいなくて良かったかも。
◇
夜、私がもっとも好きな時間でもある。この静かな感じ、この暗い感じが好きだ。
「また追手か・・・」
「Glg;iufYI+Uf」
人として発することの出来ない言葉を発する“ヒト”が後ろから負ってくる。やつらも私と同じように夜の世界を好むらしく、よく遭遇しては戦闘を仕掛けてくる。
ま、別にそんなに強いわけじゃないから、すぐさま切り捨てる。
「*Igjvafh]\V+fッ!」
苦悶の言葉を発する“ヒト”から鮮血が舞うが気にすべきことではない。
「+guSSui*IG+UC」
「あ〜あ、死ななかったか」
今回はしぶといな。右腕が完璧に斬り落とされているが、ヤツはそれを楯にして攻撃を避けたらしい。
「――これならッ」
手に持った大振のナイフで横一閃。私に“彼女”が憑いているといえども体が武器になったりしない。
「+UDFts!?」
状況の理解できていない“ヒト”。しかしすぐに静かになる。
それもそのはずだ。今、私が薙いだのはヤツの頸部、首だ。その身体と離れた首は今、私がいるところ、高速道路の塀の上から転げ堕ちて行く。道路には先決が撒かれているが、この暗闇の中に赤黒は目立たない。彼を追いかけよう。
そう決めた私は高速道路の塀の上を彼女の力も借りて静かにひた走る。
彼の故郷、絹乃杜。彼の陰を追って、懐かしい空気に触れるために。
久しぶりに軽グロ