序章第一幕
紅い・・・赤い・・・アカイ・・・アカイ・・・アカイ・・・
アカ一色に染まった液体の溜り場、そこの中心にあるひとつの“モノ”。奇怪な形をしたその“モノ”。その“モノ”の千切れた欠片・・・
その“モノ”のスベテが深夜の深い闇の中“オレ”の眼には凄く、酷く奇麗に映っていた・・・
夢幻のソラ 序章第一幕
僕が起きた時に始めて目にしたのは人の顔だった。
「やあ、おはよう。怜美」
「おはよう、瑞樹」
よく通った鼻筋、雪のように白く肌理細やかな柔らかい肌、円らな瞳と長い睫そしてさらさらな黒い長髪。彼女は万人が認める美少女だろう。それが僕の幼馴染の浅木怜美だ。
そんな彼女が毎朝起こしに来てくれるのだから僕は大変な幸せ者だと思う。
「じゃあ、待ってるから着替えてきてね」
「ああ。分かった」
僕の返答を聞くと彼女は満足したように笑顔をこぼしてリビングのほうへ歩いていった。さて、彼女を待たせてしまうのもなんだし早く着替えなきゃな。
◆
僕の名前は佐上瑞樹。今リビングで料理をしてくれているであろう怜美の幼馴染だ。
今は大学二年。今、住んでいるマンションの近くの和泉沢大学に怜美とともに通っている。
和泉沢大学は両親の住んでいる絹乃杜市から離れている青山市にあるので当然一人暮らしだ。怜美は僕の隣の部屋に住んでいる。
◆
「相変わらず美味しそうだね、怜美のご飯は」
「そうでもないよ〜」
「いや、これは本当」
そう僕が言うと彼女は照れくさそうに顔を朱に染めて俯いてしまった。
「それじゃあ、食べようか」
「・・・うん」
彼女はまだ静かにうつむいたままだった。
…
『本日午前二時藍川市でナイフで切りつけられた死体が・・・』
テレビのニュースでアナウンサーが淡々と感情を籠めずに喋っている。こう聞くと怒りの感情も生まれないのだから不思議なものだ。
「ねえ、瑞樹。これって同じ人かな?」
「そうだろうな」
人、と言うのは犯人のことなのだろう。
この手の通り魔的殺人は隣の藍川市で最近多発している。犯人の目的が分からないのが人々の恐怖心を更に煽るのか人々は皆、自然と夜は出歩かないようになっている。
それでも殺人は続いているその理由は俗に言う不良がそんなことを無視しているのか、はたまたそんなことを知らないのか分からないが出歩いているせいだろう。
―――PLLLLLLLL
「ん、電話か」
「私が出ようか?」
「いいよ」
自ら出ようとする彼女に断りをいれ受話器を取る。
『もしもし、瑞樹君か?』
「そうですけど黄空さん。こんな朝早くからお元気ですね」
電話の相手は水瀬黄空さん。僕と怜美が入っているサークルの先輩・・・いや元先輩で、大学を卒業した今は何かの会社を立ち上げたらしく自らの事務所を持っている。
『うん、私は朝型だからな。
そんなことよりニュースを見たか?』
彼女には僕の皮肉が効かなかったようだ。
「ええ、通り魔殺人ですね。これで何件目ですか、もう10件ぐらいでしょうかね?」
『ああ、そのニュースだ。ちなみにこれで11件目だな』
「で、そのニュースがどうしたんですか?」
『おっと、そうだった。そのニュースって何て報道されてたかな?』
報道内容、先程聞いたニュースを思い出すために記憶を弄る。
「たしか・・・ただナイフで切りつけられた死体が見つかったとか言う話だった気がしますけどそれがどうしました?」
こんな質問はしなくても良いのは分かっている。今までにも黄空さんにこんな質問をされたこともあったから、これからどんなことを聞かされるかも予想は付く。
『強ち間違いではないが、違うといえば違うな。どんな事件か聞くか?』
「いいです。どうせ講義が終わったら黄空さんの事務所に呼ばれるんでしょう。そのときに聞きますよ」
『ははは、流石だね。それじゃあ、講義が終わったら事務所に来てくれるかい?』
「分かりました。それじゃあ」
そう言って通話を切る。彼女の話は講義の終わった後にゆっくり聞くとして、まあ大体は聞かなくても今までの経験から分かってしまうのだが、今はそんなことよりリビングで一人寂しそうにしている怜美のところへ向かった。
…
「で、また黄空さんのところ?」
「そういうことになるかな。怜美も来るんだろ?」
「今までもそうだったからそうなるんじゃないかな」
彼女の作った朝ごはんの味噌汁を啜りながら先程の電話の話をしていた。
彼女も今まで黄空さんの事務所に来たことがある、というか呼ばれていったことがある。
「ごちそうさま」
「お粗末さまでした」
今日の朝食は和食だった。相変わらず彼女のご飯は美味しい。こんな美味しいご飯を食べていたのに黄空さんは何であんな電話を掛けてくるのかな、今までの経験から変なことを想像してしまうじゃないか。
「ん、怜美も終わった?」
「うん。後は出かけるだけだね」
「じゃあ、行こっか」
そう言って彼女とともに大学へ出かける。勿論、ある物も忘れずに持っていった。
◇
使い古されたアンティークの黒い電話の受話器を下ろし、考える。
「ふむ、何が言いたいのかもお見通しというわけか。瑞樹君も慣れてきたな」
左手には“ある事件”に関する極秘資料。この資料は本来私のような一般人・・・いや一般ではないけれども簡単に部外者の手に渡るものではないものだ。しかしこれが私の手の中にあるのも彼のお陰なのだろう、感謝はするべきか。
こういうものが手に入るのはいいのだが彼も瑞樹君たちのことを知っているのだろうがこのような面倒ごとを持ってくるのもやめてほしい。
「瑞樹君達が来るのは講義が終わってからか・・・サークルに顔も出すだろうから夕方になるだろうな」
その間は仕事をする他無いのだから手に持った資料を一旦ファイルにしまって仕事をするとするか。締め切りも迫っていることだしな。
知ってる人はお久しぶりです、知らない人は初めまして、作者の.pngです。
この作品は現代伝奇となっておりまして、先日上げました禁忌邂逅とは別のものとなっています。
それではこれから宜しくお願いいたします。