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最強魔術士と凡人魔術士



「__遂に来たんだ」


歓声の音色、門にあしらわれた装飾。

大きな垂れ幕をぶら下げている校舎。


「“国立魔術士専門学校”…」



 この国は才能に溢れている。この国に産み落とされるほぼ全ての人に才能があり、それを使って生活していく。この国の日常(ライフスタイル)……。


才能は遺伝子が関係していると言われている。もちろん突然変異が無いわけではないが大体は直系で才能は受け継がれていく。

だから、才能無くして産まれた者の子孫は才能が芽生える可能性はごく微少である。



「__一同、起立!」


服の擦れる音だけが発し、まるで軍隊のように一直線を見つめる。

長い長い学校長の話が終わるとクラスが分けられた。


Bクラスに配属されたこの物語の主人公。その名はリターシャ。

無才能で唯一この学校に入学されたことを許された、ただの魔法オタクである。



「初めまして。リターシャです。よろしくお願いします」


深々と礼をしたのに無視。拍手も無い。次の人が自己紹介をすると拍手。


(才能に驕れたとんだ馬鹿集団に入ってしまったな…。まあ、魔法が研究できるなら、それで良いけど)


この学校に入学した主な理由は、この国の最高クラスの魔術士育成機関だからだ。そうでなければ態々こんな才能に溢れた人たちの間に入ろうとはしない。

全ての分野で頂点に立つのは最も才能に優れた者のみ。凡人では到底敵わない。それは承知の上だ。しかし、何の才能に恵まれていなくとも、できる事は多くある。才能が無くともある程度の重さの物なら運べるし、魔法だって使える。魔法の場合は才能があった方が有利というだけで、とりわけ才能が無くとも使えるのだ。練習さえ怠らなければ。


私は魔法を愛している。

その平等性を。その不可思議さを。

魔法は私に魔法をかけた。私はそれに魅了され、来る日も来る日も魔法に明け暮れ、やっとこの学校に入ることができたのだ。どんな態度を取られようとも辞める気は更々無い……が。


__一週間後、その執念は揺らぎ始めていた。無才能者が私しか居ないことで才能者たちのサンドバッグにされていた。


「まーたあの子だよ」

「ああ? あの子? 才能の無い無能な子」

「失敗してるよ。ウケる」

「やっぱり退学した方がいいよ」

「恥を晒す前に帰ったら? ああ、もう晒してるか」


嘲笑を込めて贈られる陰口悪口。

どれだけ心が頑丈でも、一週間ずぅっとこの箱庭の中で聞かされていたら狂いそうだ。精神面もやられてくる。授業中に妨害されたこともあった。気に食わないと魔法を当てられたこともあった。

それに先生たちは何も反応しない。自分たちも才能があり、それに誇りを持っている輩だからだ。


「…どうでも良いだろ、才能なんて」


私は魔法を愛している。

その平等性を。その不可思議さを。


「くだらない慢心に浸かっているお前らは本当にくだらない」


魔法は私に魔法をかけた。私はそれに魅了された。


「魔法は才能の無い私にも使える、公平で、かつまだ解き明かされていない謎の宝庫。…それなのに、」


授業中に妨害されたこともあった。気に食わないと魔法を当てられたこともあった。


「それなのに、どうしてここにいる人たちはその魅力に気付かず、あまつさえそれを愚弄するんだ…!?」


__そして、一つの仮定に辿り着く。


「このままじゃいつか死ぬぞ!? その心に漬け込まれて」

「リターシャ」


ビクリと肩を震わせる。

気付かなかった。気配がしなかった。


「せ、先生…」


担任の、デストレッド先生だった。


「話がある。ちょっと来い」


欠伸をくわぁっとした先生は、ガシガシと髪を掻く。第一印象はだらしない。

しかし彼は紛れもなく一流だった。その見た目からは想像できない程に。


「あの、デストレッド先生」

「あん?」

「聞いてました…?」

「何が」


大人しく後ろを歩いていたリターシャは、たたっと先生の横に立とうとする。


「その、わ…私の独り言……」

「独り言だあ? んなの聞いてると思うか?」

「で、ですよねぇ〜!」


安堵して胸を下ろすと、先生は意地悪な笑みを浮かべた。


「ただ__、才能がどーとかって話は聞いた気がするなあ」

「やっぱり聞いてたんじゃないですか!!」


先生は一瞬目を丸くし、それが解けたように笑った。


「なんだ。ちゃんとやってるじゃん」

「え?」

「いんや? 何でもねーよ」


(この人でもこんな風に笑うんだな…。なんか、吹っ切れたみたい?)


リターシャはそのまま着いて行き、先生が角を曲がった。だから曲がった。


「いでっ!」


先生の背中と顔がぶつかる。


「前進んでください…よ?」


目の前は壁。先生は立ち止まっている。


「あの? ココ、壁なんですけ__」

「__本当にそう思うか?」

「……はい?」


(私の認識ではコレは壁だと言っている。…でも)


「私の魔術士としての直感は、コレは扉だと言っています」

「正解だ」


先生が壁に手を触れる。

すると、途端に魔法陣が現れた。


「ぅわっ」


ガコンガコンと動き、キラキラと魔法の鱗粉を飛ばす。


「な、何? 何なの…!?」

「あーっという間に秘密の扉が現れました〜。…さて、どうする?」


振り返り、こちらを試すように見る。


「入る? 入んない?」

「…入りますよ」


踏み出した足。


「良いの? もう戻れないかもしれないのに?」

「私、かなり重度なんですよ」

「は?」


まるで理解できていないのか、訝しげに眉を顰める。


「魔法に対する執着と愛が」


手をかざして

開く扉


「まぶしっ!」


見えない。

見たいのに見えない。

明る過ぎて、光過ぎて、自分にはコレが見えないらしい。


(見たいのに。見たいのにっ…!)


複雑な魔法構造を私の体は拒否している。あまりにも身に余りすぎている。


「でも! でも、コレが見えないとっ!!」


(知りたい。知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい!!!!)


「この魔法を知りたいっ!!」


腕を伸ばす。

空なのは分かってる。でももしかしたら。もしかしたら、って。


その腕はスカッと切って、

前に重心がかかり、思わず何歩か前に進んでしまった。


(……ん? 前に、進めた?)


顔を上げる。


「こ、これって!?」


伸びる草木。見たこともない綺麗な花々。ドーム型に覆われたその空間に、たった一人。そう。何故かたった一人だけ、そこに佇んでいた。

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