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転生最弱ポメラニアン、魔王を倒す  作者: キサラギトシ
第五章 ポメラニアンと魔王の邂逅
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99 裏切りの日

『魔王の使徒』カールの切り札は、大きな吠え声で相手の思考を操り、味方にしてしまうという『絶叫砲』だった。

 その切り札で、我ら動物軍の切り札である柴犬の豆之助は、再び魔王軍の手先となってしまったのだ。


「豆之助、しっかりしろ! お前の敵は俺じゃない」


 念のため豆之助にもう一度呼びかけてみるが、返答はそっけないものだった。


「うるせぇ! 白犬、お前のその喉を噛みちぎってやる!」


 駄目だ、口調がいつもの豆之助とは違う。まるで人格、いや犬格が入れ替わってしまったかのようだ。


「さあ、豆の。その白犬を大人しくさせるんだ」


 魔王の使徒、カールが豆之助に命令する。だが豆之助の返答は、意外なものだった。


「うるせぇ! 僕は僕のペースでやる。お前に指図なんぞされたくないわ!」


 コイツ、敵になってもめんどくさい性格してやがる。だが今はそれどころではない。

 俺が豆之助と戦ったら、きっと両者ともタダでは済まないだろう。そこを魔王の使徒カールに襲い掛かられたら、ひとたまりもないかもしれない。

 とはいえ豆之助は今にも俺に襲い掛からんと牙をむいている。一体、どうしたらいい?


 と、その時。

 俺は3階の階段から地元横浜第1地区の副リーダー、ダルメシアンの双子兄弟ファンキーとドンキーがこっそりと様子を伺っているのを見つけた。

 どうやら途中から、この様子を観察していたらしい。


 さらに、階下の1階からは横浜第2地区のリーダー猫、ノルウェージャン・フォレストキャットのヴァイキングも同じように様子を見ているのも見つけた。


 俺はその瞬間、決心した。


「豆之助は任せた!」


 叫ぶと同時に、俺は飛んだ。目指すのはもちろん、この中で一番ヤバい敵である『魔王の使徒』カールだ。

 カールは一瞬、躊躇(ためら)ったような素振りの後、大きく息を吸い込んだ。


 これは、マズい。『絶叫砲』が飛んでくる。空中に飛んでしまったのは失敗だった、空中では避けられない。


 だが、そのカールの横っ面を、飛び出してきた灰色の縞猫が思いっきり(はた)いた。間一髪助かった、サバトラだ。


「モフ、油断するニャ。2匹で前後から攻撃する二ャ!」

「了解!」


 周りを見渡すと、豆之助1匹に対し、猫のヴァイキング、双子犬のファンキー&ドンキーが3匹がかりで戦いを始めていた。


 そして魔王の使徒・カールは(はた)かれた直後に顔をしかめていたが、すぐに余裕を取り戻したようだ。


「ふん、数的にはこちらが不利のようだな。一旦退()くか」


 くるりと踵を返したカールは、全力で階段に辿り着くと上階に登っていく。


「待て!」「逃がさんニャ!」


 急いで後を追いかける俺とサバトラ。その前に、豆之助が立ち塞がった。


「待て、白犬。お前は僕の獲物だ」


 振り向くと、ヴァイキングとファンキー、ドンキーが唸り声を上げながら苦しそうに倒れている。そんな、わずか1分足らずであの3匹を倒したのか?


「邪魔するな、豆之助!」

「くだばれ、白犬!」


 その時、豆之助の姿が茶色い残像となって消えた、ように見えた。

 見えていないながらも、危険を察知して後ろに飛び退る。その瞬間、俺の頭があった場所で豆之助の牙がガチリ、と音を立てる。


「ガルルルルル……」


 豆之助の白目部分は血走っていた。圧倒的に、速い。速さ勝負では敵わないが、進化した大型犬である俺のパワーなら、良い勝負ができる。


「ガウゥ!」


 俺は再び飛んだ。豆之助は俺が飛んだ先の着地点からすぐに横移動し、俺が着地すると同時に牙をむき出しながら走ってくる。


 今だ! 

 俺は豆之助の牙を間一髪で避けながら、左前足で豆之助の背中を押さえ込む。


「グガアアアア!」


 思った通りだ。どうやらパワーは俺の方が上回っている。左前足で床に押さえつけた豆之助は必死に(もが)いているが、起き上がれずに咆哮を上げている。


 だが、豆之助にとどめを刺すわけにはいかない。今はカールに操られているが、コイツは俺たちの仲間だ。

 そんな一瞬の躊躇を見抜かれたのか、豆之助は押さえつけられたまま、大きく息を吸った。


 マズイ、こいつの咆哮は「操る力」はないものの、俺を行動不能にできるほどの大声だ。

 俺は急いで右足を豆之助の鼻先に押し当て、床に押し付ける。グウ、という声を出し、しばらくもがいた後に、豆之助は息ができずに失神した。


 ピクピクと動いてはいるが、なんとか豆之助を無傷で無力化できた。

 そういえば、と俺は周囲を見渡す。魔王の使徒はどうなった?

 サバトラが単独で追って行ったはずだが……


 と、俺と豆之助を見つめる3匹の動物がこちらを見つめていた。見ると、猫のヴァイキングと、双子犬のファンキー&ドンキーだ。


「お前たち、もう動けるのか?」


 俺は3匹に声を掛けた、が……

 同時に、ある異変にも気づいていた。


「ウミャアーーーーー!!」

「ガルルルルル……!!」


 ヨコハマ決死隊の主たるメンバーだった3匹は、すでに正気を無くしていた。つまり、3匹とも豆之助同様、たぶん魔王の使徒によって操られていたのだ。


 3匹の後ろには、決死隊のメンバーとして3匹が連れてきていたメンバーが、血まみれになって横たわっている。

 つまり、決死隊のメンバーで無事なのは、サバトラと俺だけ、ということになる。そのサバトラも、今は姿が見えない。


「縞猫くんなら、ここにいるよ」


 階段の方から勝ち誇ったような声が聞こえた。もちろんそれは、魔王の使徒、カールの声だ。

 その前には、血まみれで横たわっているサバトラの姿。


「サバトラっ!!」

「心配ない、命までは取っていない。絶叫砲をひょいひょい避けてくれるんでね、面倒だから少々噛みちぎらせてもらったたよ」

「なんだとっ?」


 サバトラはピクピクと体を動かしながら、血を床に広げている。このままでは命に関わる。


「勇者モフくん。君たちの負けだ。君が死んでくれるなら、他の有象無象はどうでも良い。約束しよう。キミ1匹が死ぬか、それとも全員死ぬか、の2択だ」


 いや、まだ大逆転の目はある。アイツさえ、魔王の使徒さえ倒せば良い。油断さえしなければ、奴に負けるとは思えない。


 だがその時。

 1階からの階段を登ってくる、ズシリ、ズシリという足音が。

 重い足音と共に現れたその動物を見て、俺は今度こそ絶望的な気持ちになった。


「なぜ、お前がいる……球磨嵐(くまあらし)!」

「久しぶりだな、勇者犬。お前と俺の勝負、まだ決着ついていなかったよなぁ? 続き、やろうぜ!」


 決着が付かなかったわけではない。俺と球磨嵐の戦いは、俺の大敗だった。あのとき佐藤パパが来てくれなかったら、麻酔銃を打ってくれなかったら、いま俺はここにはいない。


 俺の味方は、誰1匹いない。

 そして魔王軍は、四天王筆頭『魔王の使徒』ミニチュアシュナウザーのカール。四天王最凶にして本州最強の動物、ツキノワグマの球磨嵐。

 そして操られているヴァイキング、ファンキー、ドンキー。


 勝ち目は、ゼロだ。

 もう腹を(くく)るしかなかった。


「わかった。煮るなり焼くなり好きにしろ。その代わり、サバトラに手を出すな。操られている奴らを勢員解放しろ」


 ニヤリ、と魔王の使徒が笑った。


「じゃ、球磨嵐さん。トドメはお任せします」

「ヘッ!」


 球磨嵐がノシリ、ノシリと俺に近づき、俺に手が届く範囲で立ち上がった。


「せっかくだから、ちゃんとお前と戦いたかったけどな。まぁいいか。あばよ、勇者犬」


 俺は静かに目を閉じた。


 ああ、結局おれは何もできなかった。勇者の俺が死ねば、この戦いは魔王の勝利が確定的となり、日本の政権が転覆されるんだっけ。

 もうこうなってしまっては、それも俺がどうこうできることではない。


 さらば、2度目の人生、いや犬生。最後に一回だけでもいいから、プーに会いたかったな……

 走馬灯のように、プーと過ごしたわずか1日のことが頭によぎる。


 だが、しかし。

 いつまで待っても、球磨嵐の強烈な一撃は降ってこない。どころか、周囲は静寂に包まれたまま。


 何が起こっている?

 俺が再び目を開けると、そこにはある方向を見つめる、魔王の使徒カールと球磨嵐の姿があった。彼らの目線の先を、俺も見つめる。


 そこには、何かの動物がいた。ちょうど窓の外の街灯と重なり、シルエットになってその姿ははっきりと見えない。


 だが、球磨嵐が漏らした一言で、その動物が何者かを俺は知ることになる。


「……なぜ、あなたがここに……魔王様……」


 平成の世を混乱に陥れ、日本の政権を転覆させる力を持つ動物。

 あらゆる動物を操り、その軍の動物すべてを掌握するという存在。


 ついに『魔王』がその存在を現したのだ。

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